第2羽 『 空を売る商人』
乾いた平原の先に、ぽつんと浮かぶような市場があった。
空と地平の間に吊るされたテントの数々。風でなびく布の波、その下に集う商人と旅人たち。レコルは嬉々としてテントをくぐり抜ける。マントをひるがえして。「なーっ!ここだよ、ここ!空が売ってるって噂の場所!」
ジールはというと、肩にかけたポーチを押さえつつ、周囲の喧騒に目を細めていた。
「空が売り物になるなら、詐欺師が群がるに決まってる」「そうか?夢って案外、高く売れるんだぜ?」
そう言って笑うレコルの前に、突然ひとつのテントが現れる。
他の店よりも静かで、看板すら出ていない。風に揺れる布の隙間から、中の「空」が見えた。
──空だった。だがそれは、瓶詰めになっていた。透明なガラスの中に、空のようなグラデーション。
夜明けの青、真昼の白、夕焼けの橙。すべてが、液体のようにゆらゆらと揺れている。
「……これは」
思わず息を飲むジール。
「見てるだけで、飛んでけそうだろ?」
レコルは一歩、テントに入った。
テントの中には、1羽の年老いた鳥がいた。
羽は灰色にくすみ、目はかすんでいる。しかしその声ははっきりしていた。
「ようこそ。“空を売る者”へ」
「この空、本物か?」とジール。
老人は頷く。
「空は記憶だ。見上げた誰かの心。忘れられた一瞬。それを瓶に閉じ込めて、私は売っている」レコルはひとつの瓶を手に取った。
青と緑のマーブル模様。どこか、彼のマントに似ている。
「この空、…見覚えがあるような気がする」
「それは君の空かもな」
老人は静かに笑った。




