第4章 別れを告げる【1】
――家は案外、あっさり没落した。彼らは混乱し、双子は嘲笑っていた。
「お前の仕業なのか、――!」
男は肩を怒らせ、忌々しく声を上げる。そんな姿を思わず嘲ってしまった。
「ええ、そうよ。ざまあないわね」
「どうしてこんなことを……!」
支えにするように男の腕にしがみつく女が言った。その視線が双子にも注がれる。
「――、――! どうして他人事なの!」
「他人事だもの。――と――は、――家の養女になったの」
男と女の顔が青褪める。その姿は実に滑稽であった。
「何を勝手なことを! うちが没落すれば、事業に影響が及ぶ!」
「心配ないわ。叔父様に継いでもらうようにお願いしてあるもの」
ここまでする必要があるかと考えたことがあるのも確かだ。だが、終わってみれば、これでよかったのだ。
「私たちになんの恨みがあると言うの!」
「忘れたとは言わせないわ」
冷たく言い放つ。ここへきて、愚かにも程がある。
「まさか、――のことか……!」
「ええ、そうよ。あの子は、あなたたちのせいで死んだ。あなたたちの過剰な期待に耐えられなかったのよ」
あの子が生きていたなら、こんな仕打ちは必要なかった。この結末は、彼らが招いたもの。自業自得というものである。
「私たちのせいではない! ――家の長男が、あの程度で……」
「言い訳は聞かない。あなたたちに会うことは二度とないんだから」
すべての言い訳はすでに、何もかも意味を為さない。後悔するには遅すぎる。
「命があるだけありがたいと思って。せめて無事に暮らせることを祈ってるわ」
背を向ける。もう用はない。
「――、――、さようなら。どうか元気でいてね」
「ありがとう。どうか姉様も元気で。また会えるでしょ?」
「会いに来てくれるよね。毎年、命日にはお墓参りに来るでしょ?」
「ええ。そうね。きっとまた会えるわ。――さんの言うことをよく聞くのよ」
「うん、さようなら」
声を合わせる双子に背を向ける。これが最後の別れではない。だが、二度と会うことはないかもしれない。会うことは許されないかもしれない。だが、最後ではないのだ。
……――
さらりと前髪を撫でる指の感触に目を覚ます。顔を上げると、昇り始めたばかりの陽がぼんやりと影の背中を照らしていた。逆光の中、ふっと笑みが浮かべられる。
「おはよう。気分はどうだ?」
「……うん……大丈夫」
まだ微睡が揺りかごのように眠気を誘う。本当の目覚めまではまだ遠い。いまが本当の目覚めに対していつなのかはわからないが、瞼はもう一度、下りようとしている。
「どんな夢を見た?」
「……不思議な夢を見た……」
「夢を憶えているのか。珍しい」
ぼんやりとした夢の名残りが頭の中を回る。どれも輪郭が曖昧だった。それが夢であったことは認識できる。それはまるで残像のようで、その光景がもう二度とこの頭に浮かぶことはないと、根拠のない確信だけが存在していた。
「どんな夢だったんだ?」
「……誰かが……別れを告げていた……あとはわからない」
「ふうん。何か意味がありそうだな」
「……どうかな……」
夢の意味など考えたこともない。意味があるとは思えない。夢は虚像と虚偽の世界。意味を求めるだけ無駄なのだろう。
「もう少し眠るといい。そのうち誰かが起こしに来るだろ」
「……うん……大丈夫」
ゆっくりと目を閉じる。朝焼けは遠い。まだ目覚める時間ではない。また、意味のない夢の世界へと落ちる。ただ、それだけのこと。
……――
肉体を持たないものが魂を持ったら、どうなるだろう。
魂を持たないものが肉体を持ったら、どうなるだろう。
月の薄明かりの中、渦巻くすべての疑問が、その意味を問いかけている。
何もわからない。何もわかりはしない。
罪なき者はどこへ行くだろう。
罪人はどこへ堕ちるのだろう。
旅は終わろうとしている。始まってもいない戦いが。
別れを告げている。昇らない太陽が。
何もわからない。わからなくていい。
何もかも意味を為さない。もう何も、必要ない。
息はすでに止まっているのだ。




