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一杯のあとに、少しだけ  作者: 塵無


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双子の姉妹 来店時刻:18時

 賑やかな通りから一本、そしてもう一本横に曲がった先にある、小さなカフェ&バー。


 今日も若きマスターがいるこの店には、ほんの少しだけ、刺激的なお客様が訪れます。


 ――木製のドアベルが、からん、と二重に鳴りました。


「「お邪魔しまーす」」


「 「すみません、二人なんですけど大丈夫ですか?」」


 声が重なって聞こえてきたのは、そっくりな顔立ちの若い女性ふたり。服装や髪型は違えど、目元や口元が似通っており、すぐに双子の姉妹だとわかりました。


「いらっしゃいませ。お席、ご案内いたしますね」


「カウンターで大丈夫ですよー!」


「って言うけど、またあなた、店員さんと話したいだけでしょ」


「うるさいなぁ、別にいいじゃん」


 そんな軽口を交わしながら、ふたりは並んでカウンター席に座ります。マスターはくすりと笑いながら、お冷を差し出しました。


「本日は何になさいますか?」


「ハーブティー、カモミールでお願いします」


「私はペパーミントティーで」


「かしこまりました」


 お湯を沸かす間にも、ふたりの会話は止まりません。


「ていうか、あんたさぁ、またあの人に連絡したの?」


「うん、だって話したかったし」


「自分から別れといて、どの口が言うのかって感じだけど?」


 マスターがティーポットをカップに注ぐと、ふたりはぴたりと会話を止め、そろって「いただきます」と小さく呟いてから、それぞれの香りを楽しむように目を閉じました。


「……あー、落ち着く」


「ほんと、ここ来るとなんか和むよね」


「ありがとうございます。ご姉妹でお出かけされるのは、よくあることですか?」


「最近はたまにですねー。性格が違いすぎて」


「この人、すぐ泣くんですよ。ドラマの再放送見て、号泣しててさ」


「うるさいなぁ、感受性が豊かって言って」


 ふたりはじゃれ合うように軽口を交わしつつ、それでもどこか息の合った笑い方をします。


「でもさ、こうして話してると、気持ちが整理されるっていうか……」


「そうそう。人に言うと、なんか自分が何に悩んでたのか分かってくるよね」


「まるで鏡に向かって話しているように、ですかね」


 マスターの一言に、ふたりは顔を見合わせて、思わず吹き出しました。


「それ、言えてるかも」


「ほんと、私たちって分かりやすいよね」


 ティーカップの中の湯気が、ふわりと揺れて、それぞれの顔をやわらかく照らします。


「さ、帰ったらまた明日から頑張ろ」


「うん、ついでに新しい服も見に行こ」


 ふたりは立ち上がり、それぞれのティーカップに軽く頭を下げるような仕草をして、並んでドアの方へと歩いていきました。


「また来ますねー!」


「今度は喧嘩してないときに来まーす」


「お待ちしております。お気をつけて」


 ドアが閉まったあとも、姉妹の笑い声がしばらく外から聞こえていました。


 マスターは空になったカップを手に取りながら、やさしい声で呟きます。


「似て非なるふたりが、同じ香りを味わうとき……そこに小さな調和が生まれるのです」


 今日もまた、一杯のあとに、少しだけ。


 誰かのこころが、ほどけていったようです。


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