閑話休題3 修羅場とミルクティー 23時50分
知っている人は知っている話を持ってきました。
賑やかな通りから一本、そしてもう一本横に曲がった先にある、小さなカフェ&バー。
今日も若きマスターがいるこの店には、ほんの少しだけ、刺激的なお客様が訪れます。
……ですが本日訪れたお客様は、「少し」ではないようです。
カラン、と小石を踏む音とともに、誰かが店の前に立ち止まりました。
それは、一人の少女でした。
二十歳そこそこ、女子大生とおぼしき少女。ぱっちりした目に整った顔立ち、笑顔でいればアイドルのように見えたことでしょう。
ですが今は、顔全体が“怒りのペンキ”で塗りつぶされたように真っ赤で、音をつけるとすれば目はメラメラと、眉はぎゅんぎゅんと、口は強くにキュッと結ばれ、まるで溶かしたチョコレートに唐辛子を煮詰めたような不穏な可愛らしさを放っていました。
「……ココが、あの女の、ハウスね」
低く、呪詛のような声で呟くと、ドアを乱暴に叩き始めました。
「ちょっとぉっ! 開けなさいよぉっ! そこにいるのわかってるんだからぁっ!」
ドアは揺れ、看板がかすかにきぃと鳴ります。
その向こうから、ゆっくりとした柔らかな声が返ってきました。
「……あの、鍵は最初から開いておりますよ」
「……んぁ?」
拍子抜けしたようにノブをひねると、あっさりと扉が開きました。
少女は一瞬の沈黙の後、再び怒りモードにスイッチを入れなおしながら、店内へズカズカと足を踏み入れます。
そして店の中央に佇んで周囲を一瞥すると、再び呟きました。
「ココが、あの女の、ハウスね」
マスターはカウンターの向こうから変わらぬ微笑を湛えながら、一礼しました。
「いらっしゃいませ。ご来店、ありがとうございます」
「うるさいわねぇ! 来たのは店に用があったんじゃないのよ!」
「……左様でございますか。では、何かお飲み物はいかがでしょう?」
「いま飲み物の話してる!? 店に用ないって言ったじゃないのよォッ! じゃあ、ロイヤルミルクティーお願い」
今話している中で飲みたい物が出てきたのか、フッと我に返るかのように注文をしました。
どうやら、興奮の炎が一気に消えたようです。
「かしこまりました。角砂糖は三つまで。四つ目以降は覚悟が必要です」
「全部入れるに決まってんでしょォ!」
消えたのは気のせいでした。
少女はバッグをカウンターにドンと置き、腰に手を当てながら叫びます。
「いい? 私の彼氏! この店に入り浸ってんのよ! しかも! その浮気相手の女もここで働いてるって噂でね!」
「それは……たいへん、お気の毒でございます」
「そーよ! 遠恋中の女に何してくれちゃってんのよ!? 私はこの店で彼氏を連れ戻しに来たの! そしてその女に一発ガツンと言うために来たのよォ! いえ、ガツンなんてもんじゃないわ! もうグァラゴワガキーン! ってブチ込んでやるのよォオッ!!」
お客様は一人称も噛んでしまうほど、とても興奮していました。
「……かしこまりました。お連れ様の姿は、現在のところ確認できませんが……お砂糖、三つお入れになりますか?」
「三つじゃないわよォッ!全部でしょ全部ゥ! 当然でしょォッ!! 何言ってるのォォォオッ!?」
ドカッと椅子に腰かけ、少女は角砂糖を三つ、四つ、五つ……。ガッツンガッツンと投げ込んでミルクティーをかき混ぜます。
「ほんっっと、何に腹が立つってね! こっちは片道で二時間半、乗り換え三回で交通費に三千円飛んでんのよォ!? 財布もうスッカラカンなの! で、現地で浮気現場を押さえようとしたら! ナオトはいないし浮気相手の店員もいないじゃない!! なんなの一体!!」
「……申し訳ございませんが、私はこの店のマスターでございます。従業員は私ひとりだけでして」
「はぁあぁあぁあぁあ~~~~~!!! じゃあアンタなんでしょ!? 私の彼氏を奪ったのはァァァァアアアアッッッ!!!!!!」
どんどん熱くなっていく少女に対して、マスターは微笑をまったく崩しません。
「失礼ですが、お客様の恋人は拝見しておりませんよ?」
「嘘言ってんじゃないわよォうッ! コレ! コレ見なさいよ! 私のナオトがここに来たんでしょおお!?!?!?」
少女がスマートフォンに出した男性の画像を見せますが、マスターはもちろん心当たりがありません。
「お客様で来られたなら見たことがあるかもしれませんが……仰るような仲の方はおりませんよ?」
「シラ切る気ね! ホンット失礼な女だわよッ! 見なさいよコレをっ! え~~~っと……」
見るように言った画面を操作しています。
大分お怒りが収まらない様子です。
二十秒位でしょうか。彼女の指が止まり、マスターに画面を見せます。
喉が渇いたのか、ミルクティーより水に手が出ました。
「ホラッコレよ! このお店で撮ったであろう写真がこうして……」
「こちらのお店とは内装が異なっていますね」
「……ぶぇ? っ! ゴッホ! ゴッホォ! ェフッ!」
少女はフリーズした拍子に、飲んでいた水でむせてしまいました。テーブルや周囲の床はビチャビチャです。
マスターは静かにミルクティーを前に置き、言葉を添えます。
「どうぞ、お熱いうちに。甘さで少しでも、心がほどけますように」
「……ってことは、あんた、ナオトの浮気相手じゃないの!?」
「どうやら、そのようでございますね」
少女はその場でカクンとうなだれましたが、怒りの勢いで引くに引けません。
額に青筋を立てながら、無理やり元気を振り絞ります。
「ちがってたのかよォ……! でもムカつくもんはムカつくのよォ!」
「はい、どうぞ」
「……でもさ! この怒り、どこにもぶつけようがないのよアアァァアアアナオトオオオォォォォォあ、美味し」
先ほどまでの怒りはどこ吹く風か、少女はミルクティーに舌鼓を打ち、トマトのようになっていた顔から赤みが抜けていきます。
「お怒りのお気持ちは、しっかりと受け止めました」
怒り冷めやらぬ少女は、一息ついたあと、小さく財布を開いて確認します。
「あ……」
そのまま硬直し、マスターの顔を見て、そして――
「あの……悪いんだけど……」
「はい」
「……帰りの交通費、貸してェェェエッ!!」
マスターは一瞬だけ目を瞬かせたあと、微笑みながらそっと財布を開きました。
「片道分、お貸しいたします。今宵は“貸し”ということで」
少女は鼻をすすりながら、マスターから受け取った紙幣を丁寧にしまいました。
そして、怒りの残り香だけをまといながら、背中を丸めて店をあとにします。
今日もまた、一杯のあとに、少しだけ。
怒鳴り散らす誰かのこころも、最後にはなぜか、やわらかくなったようです。
今までのお話は「協力(AI)」にプロンプトを用いて作成しましたが、全体の中で二つだけこちらがメインで考えて作成したお話があります。
それはどこでしょうか。
※内一つは次出します。
また次のお話が出たタイミングで、お話と「ある場所」を見てもらえれば、伏線の回収となります。




