二人の女子高生 来店時刻:16時40分
賑やかな通りから一本、そしてもう一本横に曲がった先にある、小さなカフェ&バー。
今日も若きマスターがいるこの店には、ほんの少しだけ、刺激的なお客様が訪れます。
――木製のドアが、わいわいとした声とともに開きました。
「キャー、このお店ステキ~!」
「ね、落ち着いてていい雰囲気だよねー」
入ってきたのは、制服姿の女子高生二人組でした。鞄には小さなぬいぐるみがいくつも揺れていて、仲のよさそうな笑顔が店内を明るく染めていきます。
「いらっしゃいませ。お席はこちらへどうぞ」
「わっ店員さん美人ー。ありがとうございます! えっと、私ミルクティーで」
「じゃあ私も同じので!」
「かしこまりました」
ふたりはメニューも見ずに即決し、席に座るなり会話を再開します。
「ねえ、進路どうするか決めた?」
「うーん、まだ迷ってる。やっぱ美大行きたいけど、親には現実見ろって言われててさー」
「わかるー。私も看護師になりたいって言ったら、『手に職は良いけど甘くないよ』ってめっちゃ真顔で言われた」
マスターがミルクティーを運んできたとき、二人はまるで話が尽きる様子もなく笑い合っていました。
「どうぞ。ミルクティーでございます」
「ありがとうございます!」
カップを手に取ったふたりは、同時に「いただきまーす」と言って、息を合わせたように一口。
「おいし……!」
「これ、家じゃ再現できないやつだ……!」
「気に入っていただけて嬉しいです」
「マスターさんって、大人って感じ。なんか、落ち着いてていいなあ」
「お褒めいただき光栄です」
「ねえねえ、もしマスターが高校生だったら、どんな進路選ぶと思います?」
マスターは少しだけ考えるそぶりを見せてから、やわらかく答えました。
「そうですね……『やりたいこと』より、『続けていきたいこと』を探すかもしれません」
「なるほど……その言い方、すっごくいい」
「やりたいことは気分で変わるけど、続けていきたいことって、きっともっと深いですよね」
ふたりは同時に、ふふっと笑ってカップを持ち上げました。
「よーし、がんばろーっと」
「うん、受験終わったらまた来ようね」
「お待ちしております。何時でも」
ふたりは手を振りながら帰っていき、ドアが閉まったあとも、彼女たちのにぎやかな声が耳に残っていました。
マスターはミルクティーの香りを感じながら、静かに呟きました。
「未来を語る声には、不思議と力が宿るものです」
今日もまた、一杯のあとに、少しだけ。
誰かのこころが、ほどけていったようです。




