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一杯のあとに、少しだけ  作者: 塵無


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21/28

二人の女子高生 来店時刻:16時40分

 賑やかな通りから一本、そしてもう一本横に曲がった先にある、小さなカフェ&バー。


 今日も若きマスターがいるこの店には、ほんの少しだけ、刺激的なお客様が訪れます。


 ――木製のドアが、わいわいとした声とともに開きました。


「キャー、このお店ステキ~!」


「ね、落ち着いてていい雰囲気だよねー」


 入ってきたのは、制服姿の女子高生二人組でした。鞄には小さなぬいぐるみがいくつも揺れていて、仲のよさそうな笑顔が店内を明るく染めていきます。


「いらっしゃいませ。お席はこちらへどうぞ」


「わっ店員さん美人ー。ありがとうございます! えっと、私ミルクティーで」


  「じゃあ私も同じので!」


「かしこまりました」


 ふたりはメニューも見ずに即決し、席に座るなり会話を再開します。


「ねえ、進路どうするか決めた?」


「うーん、まだ迷ってる。やっぱ美大行きたいけど、親には現実見ろって言われててさー」


「わかるー。私も看護師になりたいって言ったら、『手に職は良いけど甘くないよ』ってめっちゃ真顔で言われた」


 マスターがミルクティーを運んできたとき、二人はまるで話が尽きる様子もなく笑い合っていました。


「どうぞ。ミルクティーでございます」


「ありがとうございます!」


 カップを手に取ったふたりは、同時に「いただきまーす」と言って、息を合わせたように一口。


「おいし……!」


  「これ、家じゃ再現できないやつだ……!」


「気に入っていただけて嬉しいです」


「マスターさんって、大人って感じ。なんか、落ち着いてていいなあ」


「お褒めいただき光栄です」


「ねえねえ、もしマスターが高校生だったら、どんな進路選ぶと思います?」


 マスターは少しだけ考えるそぶりを見せてから、やわらかく答えました。


「そうですね……『やりたいこと』より、『続けていきたいこと』を探すかもしれません」


「なるほど……その言い方、すっごくいい」


「やりたいことは気分で変わるけど、続けていきたいことって、きっともっと深いですよね」


 ふたりは同時に、ふふっと笑ってカップを持ち上げました。


「よーし、がんばろーっと」


「うん、受験終わったらまた来ようね」


「お待ちしております。何時でも」


 ふたりは手を振りながら帰っていき、ドアが閉まったあとも、彼女たちのにぎやかな声が耳に残っていました。


 マスターはミルクティーの香りを感じながら、静かに呟きました。


「未来を語る声には、不思議と力が宿るものです」


 今日もまた、一杯のあとに、少しだけ。


 誰かのこころが、ほどけていったようです。


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