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第十三話 聞きたくねえよ

「お、まえ……なに言ってんだよ、カミナリ……? 今は気持ちいいくらいの晴天だぜ」

「先輩、分かってたんでしょう。そんな誤魔化し、聞くことはできません」

 彼女の言う通りだ、俺は最初に再会したあの日の時点で、既に気がついていた。

 それに、どことなく察していたんだ。

 彼女がカミサマから力を貰って、日々何かにそれを使っていることに。

 力の痕跡は、感覚が鋭いものには察知することが出来る。

 勇哉から力を奪った俺は、身体強化の延長としてそれを感じとることが出来た。

 だから、だからこそ絶対に、彼女の口からそんな言葉は聞きたくなかったのに。


「先輩……ごめんなさい、黙っていて。私も、カミノトの一人なんです。先輩と会っていたのは、先輩の弱点を探るためでした」


 聞きたくない。


「でも先輩ってやっぱりすごいですね。どれだけ誘導しようとしても、一向にぼろを出さないんですから」


 聞きたくない。


「そろそろ、限界かなって思ったんです。私のところのカミサマにも、これ以上野放しにするな、弱いうちに叩けって」


「聞きたくねえよ!!」


 俺は、思わず大声をあげて彼女の言葉を遮る。

 穏やかな昼間の公園にそぐわない怒号に、周囲の目線がこちらへ向けられた。

「ごめんなさい、本当に。先輩と会えたことは、本当に嬉しかった。だから──先輩がどこかの誰かに殺される前に、私があなたの力を奪う」

「待て、やめろ」

 綿貫が、彼女の姿が変わる。

 髪色は淡い水色へと変じ、その瞳の色は金色に細められた。

 そして、彼女は俺の前に立ち、胸に手を当てて祝詞を上げる。

「我請願す、ここに世界の色彩を反転し、綿貫空の名のもとに神楽を興さん────裏返れ(エンバーミング)

 世界が、裏返る。

 色彩が、反転する。

 大事な後輩から叩きつけられた宣戦布告が、俺の心臓を打ち付けた。


            ◇


 俺は逃げていた、必死の思いで逃げていた。

 だって、あいつに対して手を上げるだなんて、増してや命がけで戦うことなんて、考えたくもなかったから。

「結界の展開者から半径5キロ、この距離を突き離せば外に出られる……!」

 これは、きっちゃんから聞いた戦いを避けるための手段だ。

 結界は何もどちらかが敗退しなければ解かれないという訳ではない。

 展開したものが自分の意思で解くか、或いはそうして対象者が逃げきることが出来れば解かれることとなる。

 だが、そう簡単にいくならこんなルールは作られないのだろう。

「うわっぶねぇ!」

 俺の耳元を、飛来してきた矢が掠めていく。

 少しばかり切れた皮膚から血が伝うが、気にかけている余裕はない。

 俺は矢の飛んできた方向へひと飛びで迫り、そこに忍んでいた小さな影を殴り付ける。

「ギギィッ!?」

 殴り飛ばしたのは、緑色の小さな怪物だ。

 恐らくこれが、綿貫のもつ能力、言うなれば召喚能力といったところだろう。

 小さな怪物は俺に殴り飛ばされると、紙片のようなものに変じて霧散する。

 だが、だからといって全く安心はできない。

 何しろ、俺がこんな風に怪物を倒したのは、これでもう十三回目なのだから。

「くそ……! どれだけ走っても、結界が解かれない……付かず離れずで追ってきてるんだ……!」

 俺は手近にあった壁を叩いて、どうするべきかを考える。

 だが、それを遮ってまた新しい怪物が襲いかかってきた。

 今度は恐ろしいことに、物語に出てくるような首なしの騎士だ。

 馬に乗ったままこちらに駆けて来て、剣ではなくこん棒で狙いを定めてくる。

「くそ……!」

 俺は騎士とは反対方向に転がって、その振り下ろされたこんぼうをどうにか躱した。

 この状況下でも俺の幸運の力は機能しているらしく、先ほどから敵の攻撃が掠めることはあっても、致命的なダメージは避けていた。

「いや……あいつの方に、俺の命まで奪うつもりはない……と思っていいのか?」

 普通なら、首なしの騎士がもっているべき武器はこん棒ではなく剣だろう。

 それでもあの膂力で振るわれれば、当たり所によっては致命傷になるが、おそらく俺が先ほどから怪物たちの攻撃をやり過ごしているのを見ていたのかもしれない。

 俺が考えを巡らせていると、首なし騎士が旋回してもう一度迫ってくる。

 俺はタイミングを見計らって、騎馬の足に手近なコンクリート片を投げつけた。

 それを受けた騎馬が大きな声で嘶いたのち、騎士を巻き込んで派手に転倒する。

 すると、俺の足元には騎士の持っていたこん棒が転がってきたので、すぐさまそれを拾い上げて騎士に向かって全力でフルスイングをした。

 がしゃん、と自分でも引くくらいに大きな音がして、騎士が吹き飛んでいく。

 金属の鎧を打ち飛ばしたことで自分の手も痺れたが、その甲斐あってか騎士は騎馬とともに紙片へと変じて霧散していった。

 だが、状況はやはり何も良くなってはいない。

「こんなんじゃ逃げきることなんて出来ねえ……くそ、それ以前に逃げてどうなるんだ」

 あいつには、俺の住所は伝えていない。

 考えたくはなかったが、もしものことを考えて伝えていなかったからだ。

 けれど、あいつはあの勇哉のように馬鹿ではない。

 俺の住所くらい、とっくに調べ上げているに決まっているのだから、逃げたところでなにも解決はしないだろう。

『そうですよ、先輩。逃げたところでなんの意味もありません。先輩は、いつも私から逃げてばかりでしたけど』

 どこからか、綿貫の声が聞こえてくる。

 やっぱり、俺のことをどこかで見張っていたのだろう。

 俺の今の脚力にどうやって追い付いているのかは分からないが、おそらく召喚した怪物の背にでも乗って移動しているのかもしれない。

『先輩、覚悟を決めてください…………お互い、逃げるのはもうやめにしましょう』

 俺は、その優しくて、どうしようもなく残酷な声を聞きながら、僅かな間考える。

 そして、その声に返答した。

「ああ、分かったよ。俺も覚悟を決める」

 俺は彼女と、戦わなければならない。

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