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第14話 多国間の思惑

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

「海底の魔素採掘師と竜人の約束」第14話をお届けします。


二国間交渉から多国間会議へと発展した政治的な複雑化。ゲルマーナ連邦、東方王国、中央諸島連合など、各国の思惑が交錯する中で、マリナとリヴァイアは新たな国際協力の枠組みを模索します。


技術共有の複雑さと、それを通じて築かれる信頼関係。海洋ファンタジーならではの壮大な世界観の中で展開される、国際政治と恋愛の物語をお楽しみください!

王国調査船『オーシャン・ウェーブ』の錨が海底に下ろされてから一週間。マリナは謁見室の円卓を見つめながら、政治情勢の複雑化を実感していた。


昨日までの二国間交渉から一変し、今日はゲルマーナ連邦、東方王国、中央諸島連合、さらには小国群からの代表も加わった本格的な多国間会議となっていた。青い光に満ちた謁見室には、十二名の交渉官と技術者が座を占めている。


「まさか、こんなに大勢の方々がいらっしゃるとは」


マリナは隣に座るリヴァイアに小声で囁いた。竜人族の王子は静かに頷きながら、各国代表の表情を注意深く観察している。


「海洋技術が与える影響は予想以上に大きかったということですね」リヴァイアの低い声が、謁見室の緊張感に溶け込んでいく。「各国とも、環境改善の利益と技術格差への危機感を同時に抱いている」


円卓の向かい側に座るベック准将の隣には、ゲルマーナ連邦の女性技術者ルディア・フォン・ハインリヒが控えている。彼女の鋭い眼差しは、しばしばマリナの手元の資料に向けられていた。


「失礼ですが」ルディアが口を開く。「分散システムの詳細な仕様を、改めて確認させていただけますでしょうか。我が国の海域でも導入を検討したいのですが、技術的な互換性について不安がございます」


マリナは用意していた資料を取り出した。一週間の間に、彼女は各国の地理的・技術的特徴を可能な限り調査していた。


「もちろんです。ゲルマーナ連邦の場合、北海の寒冷な環境が特徴的ですね。魔素の活性化には水温調整装置の併用が効果的だと考えられます」


技術的な説明を始めると、東方王国の代表であるタカシ・ヤマダが身を乗り出した。彼の背後には、翻訳魔法の光球が静かに浮遊している。


「ヤマダと申します。東方王国では、古来より海との調和を重視してきました。この技術は、我々の伝統的な海洋守護術と組み合わせることは可能でしょうか」


「むしろ、それは理想的な組み合わせだと思います」マリナの目が輝いた。「古来の守護術が持つ安定化効果と、分散システムの効率化が相乗効果を生む可能性があります」


一方で、中央諸島連合の代表カルロス・デ・マルケスは、より経済的な視点からの質問を投げかけた。


「導入コストについて伺いたい。我々の国力では、大規模な設備投資は困難です。段階的な導入プログラムは考えられますか」


リヴァイアが静かに発言した。「竜人族としては、技術の共有に際して費用の徴収は考えておりません。しかし、各国の経済状況に応じた段階的導入プログラムは検討の価値があります」


この発言に、ベック准将が眉をひそめた。


「王子殿下、恐れながら申し上げます。技術の無償提供は、国際的な技術バランスを大きく変化させる可能性があります。我が王国としては、適切な管理体制の下での技術移転を提案いたします」


ここで、これまで沈黙を保っていたダゴン長老が重々しく口を開いた。


「技術そのものに罪はない。問題は、それを扱う者の心にある」長老の深い声が謁見室に響く。「竜人族が数千年にわたって海を守り続けてきたのは、技術と精神の調和があったからこそだ」


ルディアが興味深そうに身を乗り出した。


「精神的な訓練も技術移転に含まれるということでしょうか?」


「海の歌を歌えない者に、海の力を扱わせることはできません」リヴァイアが答える。「技術者としての能力だけでなく、海への敬意と理解が必要です」


マリナは各国代表の表情を見回した。技術導入への熱意と同時に、それぞれが抱える固有の事情が垣間見える。


「皆様」マリナが立ち上がった。「技術の詳細についてはもちろん共有いたしますが、実際の導入には各国の環境と文化に合わせた調整が必要です。画一的なシステムではなく、各国特有の海洋環境に最適化したバリエーションを開発することを提案します」


タカシが感心したように頷いた。


「素晴らしい提案です。東方王国では、季節に応じて海流が大きく変化します。年間を通じて安定した効果を得るには、確かに独自の調整が必要でしょう」


カルロスも積極的に反応した。


「中央諸島では、複数の小島に散らばった海域をカバーする必要があります。島嶼間の連携システムが重要になりそうです」


ルディアは技術者らしい視点で質問を続けた。


「各国バリエーションの開発には、どの程度の期間が必要でしょうか?また、技術者の訓練プログラムも並行して実施する必要がありますね」


マリナは手元の資料を確認しながら答えた。


「基本設計の応用であれば、三ヶ月程度で各国版のプロトタイプは完成できると思います。ただし、技術者の訓練には最低半年は必要でしょう」


「半年か」ベック准将が顎に手を当てた。「その間の技術流出防止と、訓練拠点の設置が課題になりますね」


リヴァイアが提案した。


「アビス・パレスを国際的な訓練拠点として開放することも検討できます。海底という特殊環境での実習は、地上では不可能ですから」


この提案に、各国代表の表情が一斉に変わった。海底王国への立ち入りは、技術習得以上の価値を持つ。


「それは...まさに国際協力の象徴的な場となりますね」タカシが感動を込めて述べた。


カルロスも興奮を隠せずにいた。


「中央諸島の若い技術者たちにとって、これ以上ない学習機会になります」


しかし、ルディアは冷静に現実的な課題を指摘した。


「海底での長期滞在には、各国から選抜された技術者の体力的・精神的な適性検査が必要でしょう。また、言語の壁もあります」


マリナが微笑んだ。


「翻訳魔法の技術も含めて、包括的な教育プログラムを設計します。技術習得だけでなく、異文化理解も重要な要素ですから」


議論が具体化してくると、ベック准将が軍事的な観点からの懸念を表明した。


「各国の技術者が一箇所に集まることは、セキュリティ上のリスクも伴います。情報管理と安全保障の体制を整備する必要があります」


ダゴン長老が厳かに答えた。


「海底聖域は、いかなる武器の持ち込みも許さない。そして、海の教えを学ぶ者は、争いの心を海に預けなければならない」


リヴァイアが補足した。


「竜人族の伝統として、学習者同士の対立や諜報活動は厳しく禁じられています。アビス・パレスでは、純粋に技術と精神の修養に集中していただきます」


会議が進むにつれて、マリナは各国の真の思惑が見えてきた。ゲルマーナ連邦は技術的優位性の確保、東方王国は伝統との調和、中央諸島連合は経済発展への活用、そして王国は技術管理の主導権を求めている。


「各国の皆様」マリナが再び立ち上がった。「技術の共有は確かに複雑な課題を含んでいます。しかし、海洋環境の改善という共通目標に向かって協力することで、これらの課題も克服できると信じています」


タカシが深く頷いた。


「海に国境はありません。海が豊かになれば、すべての国が恩恵を受けます」


カルロスが感慨深く述べた。


「小国の我々にとって、大国と対等に協力できる機会は貴重です」


ルディアが技術者らしい実直さで答えた。


「競争ではなく協力こそが、技術を正しい方向に導くのでしょう」


ベック准将も軍人らしい率直さで認めた。


「確かに、環境問題は一国では解決できません。軍事技術の管理は慎重に行いますが、平和利用については積極的に協力いたします」


議論の最後に、リヴァイアが立ち上がった。


「今日の議論を踏まえて、竜人族として以下を提案いたします。まず、三ヶ月後に各国技術者の第一次選抜を実施し、半年後からアビス・パレスでの本格的な訓練プログラムを開始する。そして一年後を目標に、各国の海域での実証実験を同時実施する」


マリナがその提案に賛同した。


「素晴らしい計画です。私も各国版システムの開発と、国際的な技術標準の策定に全力で取り組みます」


会議の終盤、各国代表は協力協定の基本的な枠組みに合意した。技術の無償提供、段階的導入プログラム、国際訓練拠点の設置、そして各国の特殊事情に応じたシステム調整。


謁見室を後にする各国代表を見送りながら、マリナはリヴァイアに呟いた。


「想像以上に複雑な交渉でしたね」


「しかし、建設的な結論に到達できました」リヴァイアが穏やかに微笑む。「各国の思惑は異なっていても、海への想いは共通していた」


「そうですね」マリナが海を見つめた。「私たちの技術が、世界中の海を美しくする日が近づいているのかもしれません」


リヴァイアの手が、そっとマリナの手を覆った。


「共に歩む道が、さらに広がっていきますね」


~~~


会議から三日後、マリナは技術開発室でゲルマーナ連邦の寒冷海域版システムの設計図を描いていた。水温調整機能を組み込んだ新型魔素採掘装置は、従来よりも複雑な構造となっている。


「マリナ」リヴァイアが資料を手に部屋に入ってきた。「東方王国から追加の質問が届いています。季節変化に対応するための自動調整機能について、より詳細な説明を求められています」


「季節変化への対応ですか」マリナが設計図から顔を上げた。「確かに、東方王国の海流パターンは複雑ですからね」


窓の外では、夕日が海面を金色に染めている。多国間協力の第一歩を踏み出した今、マリナの心には新たな希望と同時に、責任の重さも感じていた。


「リヴァイア、私たちが始めたことは本当に正しかったのでしょうか?」


「疑問を持つことは大切です」リヴァイアが静かに答えた。「しかし、今日各国の代表の目を見て確信しました。技術そのものではなく、それを通じて築かれる信頼関係こそが、真の価値なのだと」


マリナは微笑んだ。複雑な国際政治の中で、二人の絆は更に深まっていく。


技術開発室の静寂の中で、遠くから聞こえる海の歌が、新たな時代の始まりを告げているようだった。

第14話、いかがでしたでしょうか?


二国間から多国間へと拡大した交渉は、技術共有の複雑さと可能性を浮き彫りにしました。各国の固有事情に応じた技術カスタマイズ、アビス・パレスでの国際訓練拠点構想など、世界規模での協力体制が具体化していく様子を描きました。


政治的な複雑化の中でも変わらない、マリナとリヴァイアの絆。海洋技術を通じた国際協力が、二人の関係をより深いものにしていく過程もお楽しみいただけたでしょうか。


次回第15話では、国際協力体制の具体的な始動と、新たな技術的挑戦が待ち受けています。多国間の技術者たちとの交流も始まり、物語はさらなる展開を見せていきます。


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

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