ガングロギャル 『サオリ』の話
「で、その殺された女ってのが……『サオリ』って名前でさぁ……んー……あぁ、そうね、ちょうど、ウチみたいな、イケてるガングロギャルだったわけよ。東京の日サロとか、109とか通ってさぁ……田舎もんだって舐められねぇようにさ、ギャル極めてたわけ──」
徐に始まったガングロギャルの話は、先ほどマナミが話していた噂話の、地元カラオケ店の店長に殺されてしまったという女性、『サオリ』についての話らしい。
語り部自身と同じくガングロギャルだったという『サオリ』は、話を聞くにどうやらあまり素行の良いJKではなかったようだ。
「──まぁ、でもさ、こんな田舎から渋谷に行くには、そりゃ金がかかるわけじゃん? 最初は普通にバイトしてたけど、クソ田舎だから時給やっすいしさぁ……バイトがんばったところでそう簡単に時給上がんねぇし? こっちはミセーネンのジョシコーセーなんだから金ねぇってのに、働いたそばからショトクゼーとか取られるし? だんだんバカらしくなっていったわけよ。……ねぇ、あんたもそう思うでしょ? こんなクソ田舎に住んでたらさぁ」
と、語りの途中で唐突に訊ねられた舞夏は、
「は、はい……ま、まぁ、確かに……私もそう思いますぅ」
と、ヤンキー系なガングロギャルの語り部に対してキョドって戸惑いつつも、田舎町のバイト給料事情については、ほぼほぼ本心から同意して深く頷いていた。
そんな舞夏をガングロギャルはゴテゴテしたつけ爪の人差し指で指して、
「でしょ~!? ……だからさぁ、小遣いもバイト代も期待できないってなったら、まぁ~、そりゃね~? 他の方法で金稼ぐしかないっしょ~? で、ウチらみたいなジョシコーセーが東京に遊びに行くだけの金を稼ぐってなったら、まぁ、やっぱさぁ……エンコー……ってことになるわけよ。まぁ、良い子ちゃんそうなあんたでもそれくらいはフツーだって、わかるっしょ? ……わかるよねぇ?」
と、今までの気怠げな様子から一変して、おちゃらけながらそう言った。
あまつさえ同意を求めるように圧を向けてくるので、舞夏は「は、はぁ……ま、まぁ……」と仕方なく曖昧に頷いてみせた。
ある意味見た目通りのガングロギャルの強引な話し方に舞夏は内心で辟易としながら、相手の機嫌を損ねぬよう適当に取り繕う。
だが、そんな舞夏の機微には興味も無いのだろう。ガングロギャルは『サオリ』の遊興費稼ぎの内容を嬉々として語り続けた。
「まぁ、つーことで、渋谷に通うために内緒でエンコーを始めたんだけどさぁ……実は簡単そうにみえて、金持ってそうなおじさんってそうそう捕まんないんだよねぇ。田舎だし。だから最初は駅近くでタムロってみたり、ケータイの掲示板で『東京行くので援助してくれるやさしーおにいさんいませんかー?』って募集かけてみたりさ、いろいろやってみたわけよ。正直、何回か補導されかけたけど、親はホーニンシュギってやつで、ま、なんとかだましだましやってたわけ……てか、別に盗みをしてるわけじゃないし? ミセーネンだから、逮捕もされなかったし。それで、やってくうちにある程度は固定で援助してくれるおじさんが捕まるようになったんだけどさぁ──」
そうした草の根活動の結果、サオリにはある程度の固定客がついたらしい。
だが、田舎のためそうそう人数は多くなかった。もちろんサオリは当時未成年の女子高生だったため、いくら親が放任主義といっても、そう簡単に地元を離れるわけにはいかない。いっそ学校をやめて、家族を捨てて地元を飛び出し、東京で生きていこうかと思ったこともあったらしいが、未成年な上にまともな貯金もないとなれば、さすがのサオリでもそれだけは躊躇していた。
そのためサオリは少ない人数、回数でもできるだけ多くの援助を受け取るべく、顧客であり、援助者でもある年上男性たちに別で支払わせていたホテルの代金に目を付けたのだという。
「最初の頃は、もちろんホ別でヤッてたわけなんだけどさぁ。ホ代もそれなりにすんのよ。でもだからって、さすがにアオカンとかそーいうのは見られるリスクがあって無理だしさぁ……まぁ、ホテルの代わりにさ、個室になってて中も暗めなカラオケ屋でヤることにしたわけよ。ああ、もちろん監視カメラだってあるし、本番はさすがにできねーけど……ま、テーブルで隠しながら手とか、口とかで……ってことはデキなくもないわけじゃん? これなら時間もかからないし、本番するより楽だし、それに、見つかるスリルのあるプレイってことで、浮いたホ代分ちょい上乗せでもらってたわけよ。……まぁ、それでも監視カメラのこともあるし、一応、そこの店長と交渉してさ、内緒にする代わりに、店長のおっさんにもそれなりにイイオモイをさせてやってたってわけよ」
だからこそ、カラオケボックスの店長の男性とサオリは、雇用者と従業員の関係でもなければ、彼氏彼女の関係でもなかった……ということらしい。
確かに、ガングロギャルの彼女がここまで語った『サオリ』についての話が事実であるならば、先ほどのマナミが語った『噂話』は、事実とは異なる『無責任な噂話』ということに一応はなるかもしれない。
もっとも、『サオリ』の話の方が事実なのだとしたら、マナミのした噂話とは別方向に倫理観がない話になってしまうのだが……。
話の生々しさのために顔を引き攣らせた舞夏に対して、ガングロギャルは「……なんか、そういう隠し撮りモノってマニアには高く売れるらしいよ」と、さらに生々しい余計な情報まで付け足したのだった。
(……も、もしかして、今回の私のバイトも、やっぱりそういうこと……だったりしないよね……? このカラオケ部屋を、で、デリ〇ルの待合室代わりにしてる……とか、そ、そういうこと……?)
ガングロギャルの話を聞いているうちに、思えばそもそも怪しかった今回のスポットバイトの求人について、舞夏は疑念を抱き始めていた。
(そういえば、カーディガンの子もマナミさんも二人ともぜんぜん戻ってこないし……も、もしかして、『トイレに行く』って、『そういう仕事に行く』っていう意味の隠語だったり……し、しないよね? さ、さすがに……)
舞夏としては、いくらお金に困っているといっても、そういう仕事をする覚悟はさすがにまだ持ち合わせていないため、内心でかなり不安に駆られていた。
だがやはり、そんな不安に駆られて焦る相手の機微を察せるような繊細さを見た目通り持ち合わせてはいないらしいガングロギャルの彼女は、勝手に自分の話──いや、『サオリ』の話を続けていく。
「まぁでも……せっかくそういう都合良い場所見つけたと思ってたんだけどさぁ。なんでもずっとは上手くいかないもんだね。ある時、駅でタムロってたら、掲示板見て来たらしいおっさんに声かけられてさ、カラオケ屋行ったわけよ。……アハハッ、若者ウケってやつのつもりだったのか知らないけど、『上海ハニー』とか歌っちゃってさ。まぁ、そんな調子でカラオケもそれなりにして、それから値段交渉をしてさぁ……イチゴで……まぁほら、リップサービス……してあげたってわけ……でもさ、その後が面倒なことになっちゃったんだわ」
そこで、「はぁーっ」とガングロギャルはあからさまに深い溜め息を吐いてから、
「そのおっさん、このまま本番させろって、しつこくてさぁ……まぁ、大人しく金払ってくれんなら別にそれで良かったんだけど、それなら改めてホテルに移動してホ別五諭吉だって伝えたら、「さすがに高すぎるだろ!」とか「金を稼ぐ苦労を知らないガキが調子乗るな!」とか、今さら説教しやがってさぁ……つい、さっきまでウチの口にくっせぇキモ汁盛大にぶちまけてたおっさんがホントッ! 偉そうにッ! むしろどの口が言ってんだよッ! って話でさぁ……それで怒鳴り合いながら揉めてたせいで、他の客にバレたかなんかしたみたいで店員にチクられてさぁ……また運の悪いことにその時、ちょうど店長もいなかったらしくて、ごまかしがきかなくてさぁ……結局その店員に通報されて、おっさんもろとも警察行くハメになったってわけ」
と、憤慨しつつも、一つずつ思い出していくように語っていく。
「で、事情聴取でおっさんはエンコーが目的だったことを認めた。こっちも、そこは認めたよ。認めないと解放されないからさぁ。警察ってそういう時、しつこいんだわ。……で、やっぱウチの今までやってきてたこと、クソ田舎だからか町でも噂にでもなってたみたいでさ、質問攻めにされて……店長のことも流れでゲロっちゃったんだわ。あいつ、ウチがエンコーしてるとこの監視カメラの動画、マニアの変態たちに売ってるらしいんだけど? ってさ。……なんか、ミセーネンがそういうことしてる動画って持ってるだけでも児ポ法? だかに引っかかるらしいね? だから、そこのカラオケ屋の店長のおっさんも後から警察に捕まって取り調べ受けたんだわ。ホシャクキン? だか払って、すぐ出てきたんだけど、仕事は当然首になったし、金払うために親にも親戚にも知られたらしくて……ま、それを怨みに思ったんだろうね。……だからさ──」
するとそこまで言うと、ガングロギャルはバツの悪そうに、自らの金髪をかき上げて──
「……だから、サオリは──いや、ウチは……殺されたんだわ……その店長にバラバラにされて、腹いせにカラオケ屋のトイレの天井から、通気口のダクトの中に放り込まれた……って、わけよ」
と、ガングロギャルの『サオリ』は、なぜか苦笑しながら、そう言い放ったのだった。
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今回の話の内容ちょっとセンシティブなとこあるけど……まぁ直接的にアレのシーンじゃないから大丈夫だよねぇ? ってなりながら書いてました(笑)
この内容なのはノクタ勢の意地とかそういうことではなくですね、人が〇されたり〇したりするような動機ってやっぱ『金銭』や『痴情のもつれ』が原因なことも多いわけですから、まぁ、こういう感じになりました。
あと、怖い話あるあるの一つのパターンして、怖い話をしてた語り部自身がその話の中で殺された人のお化けだったっていうのもあるんで、そんなのも意識したみたいな感じです。
では次回もお楽しみに