間幕 ~次の語り部~
ピンクカーディガンのギャルJKがトイレに立ってしばらく、部屋に残された舞夏たち四人の間には気まずい沈黙が流れ続けていた。
カーディガンの彼女からの提案でなし崩し的に始まってしまった怪談話大会の方はともかく、カラオケ店だというのに次にマイクを取る者が四人の間から名乗り出ることがないのはいかんともしがたかった。
おそらくこの場でまだカラオケを歌っていないのは引き続き、篠原舞夏と黒セーラーの美人の二人なのだが、黒セーラーの方はというと先ほどからまったく動く気配がない。
かといって、
(こ、これ、私が空気を読んで歌うべきなのかな……いやでも……私、音痴だからカラオケほんとに苦手だし……ど、どうしよう……下手くそでも、さっきのサブカルギャルの人みたいに、歌いながら『恋ダンス』とかすれば、こんな空気でもなんとか盛り上がる? む、昔、体育祭で踊ったし……思い出しながら……どうにか……い、いや~、でも、私じゃなぁ……──)
と、舞夏も内心で考えてはみるものの、他の三人の顔色を覗うにとてもそんな空気ではないのは明白だった。
黒セーラーの彼女は先ほどと変わらず、まるでマネキン人形のようにアルカイックに微笑んだまま座しているのみだ。その右方に独立した一人掛けソファーのガングロギャルJKもまた同じように、他人には興味がないと言わんばかりに気怠げに座しているのみである。
本来なら如何にもカラオケで盛り上がっていそうなギャルの面々がそんな調子では、舞夏からすれば、テーブルの上に置かれたマイクからすらも、(カラオケボックスに来ておいてなんでお前まだ歌わないの?)という無言の圧を感じるような気さえしてくるようだった。
正直なところ、歌いたくはない。歌いたくはないが、これ以上頑なに歌わないのも不自然である気がする……それに、先ほどのカーディガンの彼女の怪談が頭に過り、このまま何もせずに座していると、例の物音が今にも天井から聞こえてきそうな気がして……。
ついに舞夏は、マイクに手を伸ばしかけた──が、その時だった。
「お、ついに歌うの?」
唐突にそう舞夏に訊ねた声は、すぐ右隣に座っていた人物からの言葉だった。
カチカチと携帯をいじっていた紺ブレザー式制服に厚底ブーツのアムラー系ギャルJKが、手元から視線を上げて、マイクに手を伸ばしかけた姿勢のまま固まっている舞夏を見やっていた。
「へ? あっ、いや、いえっ……こ、これは……そっ、その……あ、あはは……いやぁ、す、すみません……」
しゃべりかけてくる事は無いのかもしれないと半ば高をくくっていた相手から突然に声をかけられた舞夏は、思いがけず完全に挙動不審になってしまいながら、あせあせとした愛想笑いを浮かべてマイクから手を引っ込めてしまったのだった。
「……結局歌わないの?」
と、呆れたように微笑んだアムラーギャルの彼女は手慰みにいじっていたフューチャーフォン型携帯を、手のひらの中で折りたたんだ。
「あ、そ、それ、ガラケーってやつですよね? えっと、子供の頃、両親が使ってたの、私も見たことありますよ。い、いや~、懐かしいですねぇ。……でも、ガラケーなんてよくお持ちでしたね? やっぱりアムラー系? のギャルコスチュームだからその頃の雰囲気も再現するための小道具ってことですか? だ、だとしたら、良いこだわりだと思いますぅ」
気を使ったつもりで舞夏は彼女が持つ携帯についてそう言及したのだが、当のアムラーギャルの彼女は小首を傾げて怪訝な表情を見せると、
「何言ってるかよくわかんないけど……ゲームしてただけだよ? 『モ〇ゲー』って知らない?」
と、訊ね返していた。
「も、『モバ〇ー』……ですか?」
思いがけないさらなる懐かしワードに、舞夏が面食らっていると、
「うん、モ〇ゲー。友達に誘われて始めたんだけど、暇つぶしにいいよ。もしよかったら招待メール送ろうか?」
と、まさかのお誘いを受けたのだが、
「あ~、い、いえ……だ、大丈夫ですぅ」
と、舞夏はつい思わずアムラーギャルの彼女の誘いを断ってしまっていたのだった。
とはいえ、
(この子、そこまで設定を作り込んでやってるってことなのかな……す、すごいな……)
と、舞夏は彼女に対してその作り込みに若干引きながらも、同時に感心したのだった。
「……それじゃあ、やっぱりわたしも何か怖い話をした方がいい?」
懐かしの元祖携帯ゲームサービスへの招待を丁重にお断りした舞夏に対して、彼女は唐突にそう訊ねてきた。
「え? あ……え? う、歌わないんですか? べ、別に歌っていただいても……」
脈絡のない急ハンドルのような話題の切り替えにさらに翻弄されながらも舞夏は言ったのだが、
「え? だって、君も歌ってないじゃん? だから流れ的にわたしも怪談話した方がいいのかなって思ったんだけど……?」
と、言い返されてしまい、確かにカラオケを歌うことに躊躇していた舞夏としては、そこを言われてしまうとなんとも返せなかった。
「それにちょうどわたしにも一つ、そういうネタがあるから……ま、退屈はさせないと思うから、そこは安心してよ」
と、アムラーギャルの彼女はクールに落ち着いた調子でそう言ったが、別に怪談話が聞きたくてここにいるわけではない舞夏としては、全く安心できなかった。
というか、そもそも怪談話を所望したカーディガンのサブカルギャルの子の方はまだトイレから戻って来ていない。
怪談話をするのならせめて彼女のことを待つべきなのではないかと、一瞬、思ったのだが、
「それじゃあ……この話は、わたしが友達と通ってたカラオケ店での話なんだけど──」
と、止める間もなく目の前のアムラー系ギャルは話を始めてしまったので、舞夏は結局、彼女の怪談を大人しく聞くより他なくなってしまったのだった……。
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久しぶりにノクターンからなろうに出てきてみましたが……いやぁ、投稿はじめたてとはいえ、閲覧数きびしいっすね。
書く側の人間にとっては、本家なろうに比べて、いかにノクターンが入れ食いの釣り堀みたいな環境なのかを突きつけられている気持ちです(笑)
この作品の投稿連載終わらせたら、自信を取り戻すためにノクターンの巣に戻りたいと思います(笑)
退魔士とか女スパイとかああいうバトルヒロインの洗脳モノとかいいかなぁ(笑)