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星の邂逅  作者: 酒囊肴袋
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皇女救出

私が意識を取り戻したとき、この惑星の太陽はすでに登り始めていた。そして今、その太陽は反対の方角に傾き始めている。この惑星の半日近くが経過したようだ。

事の始まりを思い出す。星間宙航艦エクリプスの爆発事故。脱出ポッドでの未成熟惑星へのワープ。

そして、メタモルフォーゼで小動物に変身した後、この未知の惑星に転送された。

しかし、エマージェンシースーツの生命維持装置が故障していたのだろう。

氷のように冷たい真っ白な雪の中に転送された私は、急速な体温の低下に襲われ意識を失った。

皇族である私がこんな状況に陥るなんて、誰が想像しただろうか。

そのまま放置されていたら、命はなかっただろう。幸運にも、この惑星の青年が私を発見し、保護してくれたのだ。

今、私は彼の暖かい部屋の中で意識を取り戻している。

感謝と警戒が入り混じる中、私は周囲を観察し、次の行動を慎重に考え始めた。


私の視覚や聴覚から入った情報を処理した自動翻訳機を信じるなら、私はこの惑星の"猫"と呼ばれる小動物の幼体"子猫"になっているらしい。

いくら私が未成年とはいえ、幼体に変身させるのはエマージェンシースーツの不備だと信じたい。

私を暖めている暖房器具は、お湯を熱源とした原始的な暖房器具のようだ。

意識を取り戻してからもたびたびお湯を入れ替えている青年は、本当に優しい人なのだろう。

きっと私が意識を失っていた間も、同じように何度も暖房器具のお湯を入れ替えてくれていたに違いない。

子猫と呼ばれる小動物を助けようという優しく強い思いが私にも伝わる。

ただ、この原始的な暖房器具に使うお湯の温度を一定の温度に沸かす器具があることに技術的なアンバランスを感じる。


青年の名前は、"タチバナリョウヘイ"、"ダイガクセイ"と呼ばれる就業前の知識を修得するための教育機関で学習中の人のようだ。

「お腹が減ったか」や「ミルク飲むか」と、言葉をかけながらミルクを入れてくれる。

猫という小動物は、言葉によるコミュニケーションが可能な動物なのかと判断し、『ありがとう』と伝えるが「ニャー」という言葉にしかならない。

自動翻訳機は「ありがとう」と正常に変換しているが、どうも青年に意味は通じていないらしい。

何度か簡単な会話を試みるが、この惑星の人類と猫とでの会話は、非常に困難であると判断するに至った。

しばらくは、子猫として"タチバナリョウヘイ"殿の保護のもと、帝国からの救助を待つのが、この未知の惑星での正しい過ごし方らしい。


「クレイオン艇長、エマージェンシースーツから送信されたバイタルデータを解析した結果……」

少し戸惑いつつセンサーオペレータのアイリスは続けた。

「遭難者の生命維持装置は機能していません。体温や意識レベルがレッドレベルの危険域に低下した後に徐々に回復し、体温と意識を含めた全てのバイタルが安定しています」

「エマージェンシースーツの位置情報は、この惑星有数の人口密集地であることから考えると……」

アイリスはさらに言葉を切り、できれば起きて欲しくなかった事象を告げた。

「遭難者は、未成熟惑星の人類と接触。おそらくは保護されていると考えられます」

アイリスの言葉が艦橋に重く響く中、突如、アラームが鳴り響く。

操縦士のリアナがコンソールを凝視し、緊迫した声で叫んだ。

「艇長!ワープリングの発生を確認!大型艦がワープアウトします!」


ワープリングの青白い光の環を通り抜け、白銀に輝く巨大な船体が姿を現す。プリンセスガード7艦隊旗艦ナイアード。その戦艦とは思えぬ優美な船体は、まさに第七皇女殿下の守護神であり、近衛騎士艦隊の中核艦であった。

考えたくはなかったが、遭難者はルナリア第七皇女殿下。

帝国が接触を禁止した未成熟惑星上からの遭難者の救出。そして遭難者は皇族の姫殿下。

今回の救難活動は、宇宙救難艇カニーナのチームが未経験の方向に、難易度が上がり続けていた。


ステルス機能を起動したのか、ナイアードは宇宙空間に溶け込むように急速にその姿を消した。

「ルナリア様を発見したとは本当か。ルナリア様はご無事なのか」

ナイアードが見えなくなるやいなや焦燥感にかられた声が通信機から響く。救難現場ではよく耳にする口調であった。

常に冷静沈着で知られるナイアード艦長であるアレクシス・フォレスト准将からの通信は、ルナリア皇女殿下の遭難が近衛騎士団に与えた影響の大きさを物語っていた。

「遭難者のエマージェンシースーツからのバイタルを受信し、喫緊に遭難者の生命に危険が迫ることがないことは確認しています」

「遭難者がルナリア皇女殿下であることは確認できておりませんが、現在の所在地は特定できています」

通信の後、私はアイリスに遭難者の捜索データをナイアードとリンクするように指示した。


通信用のサブモニターは、顔面蒼白となったアレクシス・フォレスト准将を映し出していた。

「ルナリア様の生命維持装置が故障しているとは……、リンクしたデータからは、昏睡状態で現地住民に保護されていると考えるべきだな」

刹那の重苦しい沈黙の後、アレクシス・フォレスト准将からの、矢継ぎ早な救助指示が通信機から流れる。

「ルナリア様の元にステルス機能のある小型ドローンを送る」

「ドローンからの情報を確認し、緊急を要するようであれば即座にルナリア様をナイアード艦内へと転送する」

「救出までに猶予があると判断した場合、当惑星の住民がルナリア様から離れるか、住民の就眠を待って、ルナリア様を救出する」

さすがにプリンセスガード7艦隊を束ねることだけある。決断の正確さと素早さに私は舌を巻いた。


ステルス機能のあるナイアードの現着により、救出作戦は急速に進み始めた。

ルナリア皇女殿下の元に送られたドローンは、未確認惑星の衛星軌道上のカニーナからは確認できなかった多くの情報をもたらした。

ドローンが捉えた映像は、ルナリア皇女殿下が安全な環境で過ごしていることを示していた。

皇女殿下を保護した惑星の住民は、メタモルフォーゼで変身した姿をこの惑星の小動物として認識しており、常に優しく接していた。

この惑星の住民の声は優しく、この小動物に対する愛情が、ドローン越しに聞いている私達にも伝わるほどであった。

「惑星住民がルナリア様から離れるか、就眠するかを待ってルナリア様を救出する」

通信機から落ち着いた声のアレクシス・フォレスト准将からの指令が伝えられた。


永劫とも感じられるドローンからの映像を見守るだけの時間。

そして映像に変化が現れる。現地住民は部屋の灯りを落とし、眠りにつく。

さらに永遠とも思えるひと時を待ち、ドローンからの送られる情報は、現地住民が熟睡したことを示していた。

ドローンがルナリア皇女殿下に近づき、遮音フィールドを展開した後、アレクシス・フォレスト准将からルナリア皇女殿下への音声通信が行われた。

「ルナリア様、近衛騎士のアレクシス・フォレストです。これから救出いたします」


突然聞こえた近衛騎士の声。アレクシス・フォレスト准将ということは、私の救出にプリンセスガード7艦隊が動員されているのだろう。

「承知しました。私を助けていただいたタチバナ様にお礼を伝えたいです。転送前に遮音フィールドを解除してください。」

遮音フィールドが解除されるまでの時間に、この場所で過ごした時間を思い出していた。

優しい言葉とともに暖房器具を取り替え、食事を用意してくれたこの惑星の青年。

『タチバナ様、ありがとうございました。私を助けていただいたこと、心から感謝いたします』

タチバナ様の寝顔を見つめ感謝の気持ちを伝える。

私の言葉を確認したのか、転送時の淡い光に包まれ、私は転送されていた。

部屋には、小さな「ニャー」という感謝の気持ちが広がった。


「エマージェンシースーツからのシグナルが惑星上から消失、プリンセスガード7艦隊旗艦ナイアード艦内に移動しました」

センサーオペレータのアイリスが、救難活動の成功裏の終了をつげる。

「ルナリア様のナイアード医務室への転送完了を確認した。カニーナ救難チームの助力、深く感謝する」

アレクシス・フォレスト准将からの救出完了の通信が入る。その安堵した声は、ルナリア皇女殿下の無事を伝えていた。

私は救難本部とナイアードに向けて、救出成功の報告を入れる。

「星間宙航艦エクリプスのワープ航行中の事故による遭難者の救助完了しました。これより本部に帰還します」

皇女殿下を無事に救出したことが評価されるのか、未成熟惑星への亜空間通信による接触が処罰の対象になるのか。

いずれにせよ、遭難者を無事に救助できたことに比べれば些細なことだ。

私は、リアナ操縦士に本部への帰還を命じる。

「本部へ帰還する。通常ワープ開始」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本人の優しさや、気遣いが描かれていて、 感謝の気持ちが伝わります。 [気になる点] 登場人物が増えて、一人一人のセリフを、 読みやすく出来れば幸いです。
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