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08.主敵との対峙。

 アデリアが守護獣達と契約を交わしてから3年後。

 パルテンキ神聖国が元首・教皇アレクスは焦りの中にあった。

 折角異世界から召喚した異世界人達はエルフ族の守護獣と守護獣が人化をしたとしか思えない何者かによって敗れてこの世界からその姿を消したと部下から報告を受けた。

 それだけでも頭の痛い問題なのに、近頃どういう訳か国の結界が急速に弱体化。

 後少しで完全に消滅してしまいそうなのだ。

 神様に守られし国・パルテンキ神聖国。

 神様はこの国を見捨てたのだろうか? 一体何故? 異世界人を使役してエルフ族をこの世界から消滅させることに失敗してしまったから? それともこの国に訪れる者が減少してしまったから? この国は世界中から聖地として敬われている筈だ。

 それなのに何故人が寄り付かなくなった?

 原因を調べさせる為に放った部下達は1人たりとも帰って来ていない。

 お陰で人が寄り付かなくなった原因が分からない。

 国に住む金蔓共もそのせいで他の国に移住する者迄現れ始めた。

 下層民の分際で実に腹立たしい。

 下層民は身の程を弁えて、大人しく自分達上層民に金を搾取される存在であれば良いものを。


 女神アテビナ様どうしてですか? 我ら上層民に再びの加護をお与えください。

 そうして頂ければ、今度こそ貴女様の望むがままに。


 教皇アレクスは女神アテビナがいる天へと祈りを捧げる。

 奇跡が起きることを期待していたが、何も起こらない。


「何故じゃ!」


 ここは執務室。机を両手で叩きつける教皇アレクス。

 この部屋は教皇と教皇秘書、枢機卿以外は立ち入り禁止。


「ふふふっ」


 だが、いつの間にかドアが開いていてそこには部下の報告にあった守護獣が人化したとしか思えない女性が腕を組んでドア近くの壁に寄り掛かっていた。


**********


 ここ迄長かった。

 エルフ族に友好的な人間達を探すことに費やした時間が1週間・8日。

 人の心を読むことが出来る守護獣カーバンクルに協力して貰った。

 その後はその者達に密かに接触して銀貨を数枚手渡して、最初は貧民街(スラム)で演説を依頼した。

 あなた達がこんな目に遭っているのは全て神の仕業だと。

 とても褒められたやり方じゃないのは分かっている。

 それでもこの世界の神から力を削ぐには必要なことだった。

 神の力は人や自然からの信仰心。

 それが無くなれば神は消える。

 世界が何処の馬の骨とも分からない人間の女性に聖女の力を渡すくらいだ。

 世界は自分を創造して、万物の頂点として君臨する神を排除したがっている。

 そう信じて活動を続けた。


 地道な活動。それが実を結び始めたのは3ヶ月が経過した頃。

 そこからは活動範囲を人間やエルフ族が暮らす町やら里へ広げていった。

 そして些細な悪事(わるごと)でも全部神のせいにした。

 守護獣達に協力を仰いだのは、この悪事を吹き込んだ後の為だ。

 レティエル達には神に次ぐ力がある。

 その力を使って人間やエルフ族の手助けをして貰ったのだ。

 そうするとどうなるか。見えない神より見える守護獣。

 見守るだけの神より実際に助けてくれる守護獣。

 信仰心は少しずつ神から離れて守護獣達に移っていった。


 アデリアはパルテンキ神聖国の象徴・大聖堂に設備されている教皇の執務室の壁に寄りかかりつつ、これ迄の苦労を追憶してため息を吐く。

 本当に、本当に死ぬ程大変だった。

 この方法を思い付いた時は楽しかった。

 が、始めると苦労の連続で心身共に疲労困憊になった。

 言語の違いに苦しんだし、移動に使った船の船酔いにも苦しんだし、人民思想に苦しんだし、何より人間という存在に会うことに苦しんだ。

 だが、その苦労はもう今日で終わりだ。

 この世界の神はこの国の有様を見るに、ろくに力が残っていないのは明らか。

 これ迄は近寄ることも出来なかったこの国に簡単に侵入することが出来るようになっているのがその証拠。

 後は多分、世界が神を飲み込んで自分の力の一部として活用するだろう。

 この世界から神は消えていなくなる。

 いなくなってからはどうなるのか、どうするかのかは分からない。

 神がいないまま世界は続くのか、それとも新たな神を世界が生み出すのか。

 まぁ流石にそういう大仕事はアデリア達の手に余る。世界が成すことだ。

 ……でもないかもしれない。神を消すのと逆のことをすれば良いのだから。


「……………。勘弁してくれるよね?」


 もう世界1周旅行はやりたくない。

 聖域に引き篭もってスローライフを送りたい。

 呆けていると、耳に聞こえてくる怒鳴り声。


「貴様、何処からどうやって入ってきた! そして貴様は何者だ!?」


 すっかりと自分の世界に入り込んでしまっていた。

 教皇が怒鳴ってくれて良かった。

 アデリアは自分の迂闊さに苦笑する。

 もしも教皇が怒鳴らずに"そっ"と執務室から外へ行こうとしていたら、アデリアは捕獲などすることなくすんなりと通してしまっていただろう。

 主敵を前にして何もせずに逃がすなど一生の恥だった。

 まぁ仮に逃げられていたとしても、この国はすでに守護獣達により包囲をされているのでレティエルか他の守護獣かが捕まえてくれていただろうが。


「1つずつ質問に応えるね。えっと、玄関から堂々と入ってきたよ。ちなみにここにいた人達は貴方以外全員寝てる。だから助けを呼んでも誰も来ないよ。で、私が何者かだったっけ? 私はエルフ族の守護獣が1柱、フェンリルのレティエルの伴侶でフェンリルの末裔でもある者。質問は以上だよね? 他に聞きたいことはある?」


 アデリアに問うた質問の応え。聞き終えて頭の中を整理する教皇アレクス。

 玄関から堂々と侵入して来て、大聖堂にいる者達を全て倒してきた者。

 怨敵エルフ族の守護獣フェンリルの伴侶で末裔。

 教皇アレクスの頭が怒りで爆発しそうになる。

 この女を殺さないと気が済まない。


 脳内で術式を構築。教皇を教皇たらしめる最強の魔術をアデリアに解き放つ。


聖なる十字架(セイクリッドクロス)


 アデリアに襲い掛かる十字架の形をした光の攻撃魔術。

 直撃。アデリアの死を確信して顔を醜く歪める教皇アレクス。


「くっくくく。あっははっはは。獣が人間の真似事などするからじゃ。だから神罰で消し炭にされた。愚かな者よの」


 これで死ななかった者はいない。自分に歯向かってきた者は全員この魔術を使い殺してきた。


「はははははははははははっ。あーーーーっはははははははははははは」


 腹が捩れる。面白い。どれ程の強敵かと思えば単なる雑魚であった。

 さて、教皇である自分は雑魚敵が寝かした者達がどのような様子なのか確かめる必要がある。

 執務室から出ようと1歩、足を前に出す教皇アレクス。


「何処行くの?」


 聞こえる筈のない声。死んだ筈の者の声。


「な、何故だ。何故あれを食らって生きているのじゃ……。しかも無傷じゃと」


 教皇アレクスは驚愕しているが、アデリアは逆に彼が驚いている意味がまったくもって分からない。

 光属性の魔法を扱う聖女に、それより劣る光属性の魔術をぶつけたところで死ぬわけがない。

 魔力は美味しく頂いた。杖を転移。教皇アレクスにアデリアは杖を突き付ける。


「殺さない程度にセーブして……。聖なる槍(ホーリーランス)


 教皇アレクスを襲う光の魔法。

 彼自身も光属性の持ち主だが、魔力の質が違いすぎる。

 光が彼の身体を貫く。耐えられない激痛により教皇アレクスは目を剥いて執務室の床に倒れ伏した。


**********


 数日後。

 元の神アテビナは世界に飲まれて消え去った。

 その代わりにユーファニアの地に降り立ったのは、何処かの異世界から世界転移をしてきた女神。

 守護獣達と同じように肉柱を持ち、地上で奇跡を起こせる女神。

 彼女はパルテンキ神聖国をウィンブルム神聖国と改め、その国の新たなる教皇として起った。

 人間とエルフ族。どちらか一方に肩入れするのではなくて、中立の立場で接する女神であり教皇。

 世界は新たなる女神アイリスのことを気に入った。

 ユーファニアはこれより先、豊穣の女神アイリスを主神として回り始める。

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