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07.罪と罰。企みと愛の重なり。

 故郷・地球へ帰還。

 戻って来れた民子は安堵した。

 美玖とその取り巻き達は異世界ユーファニアで無残な目に遭わされたまま地球に帰された。

 しかし、自分はほぼ無傷。日頃の行いが物を言ったのだと思った。

 虐めで地獄の時を過ごした自分。虐めを楽しんでいた美玖達。

 同情なんていう気持ちは、ほんの一欠けらも湧いてこなかった。

『ざまぁみろ』という気持ちも同じように湧いてはこなかった。

 どうでもいい。そう、自分以外の者達のことなどどうでも良いのだ。

 民子は苦しんだ分だけ、これからは幸せが待っている。と信じて疑わなかった。


 だから―――。


 地球に帰還した翌日に民子が莉愛にした行為が世間に知れ渡って、幸せどころか虐められていた頃よりも不幸に落ちていくことに民子は戸惑いを隠せなかった。

 名前と家の住所と通っている学校がネットの特定班達によって特定されて、民子は現実世界で人々から白い目で見られるようになった。

 ネットの世界では格好の餌食。玩具。

 一時期は可哀そうな女性として時の人となっていたが、今は汚い裏切り者として腫物扱い。

 全ての原因は莉愛が真実を書いた遺書を残してこの世を去ったことにある。

 莉愛の亡骸と遺書を見つけたのは、彼女が冤罪を民子に掛けられても最後迄彼女のことを信じていた祖母。遺書の定型文の最後に民子に対する恨みつらみが血文字で書かれていた。

 それを読んだ莉愛の祖母の怒りは凄まじかった。

 民子の家に乗り込んで遺書の内容を大声で読み聞かせ、その声が民子の家の近隣に住む人々に伝わり、近隣の家の人々の誰かがSNSに投稿。

 そして、民子は現在の状況に置かれることになった。


 道を歩けば「最低な裏切り者」やら「人殺し」やらと罵られる日々。

 民子は外に出られなくなって引き篭もりとなった。

 だが、引き篭もりはそんなに長くは続けられなかった。

 民子の両親が娘が起こした[事]によってリストラの対象になったせいだ。

 

「育て方を間違えた」


 虐められていた頃は味方だった両親。

 それが今回の件では敵となった。

 家から追い出されて民子は父方の親戚に預けられた。

 [ド]が付く田舎。自宅に帰る方法は無いに等しい。

 父方の親戚は厳格で古い考えの持ち主。

 女は男の劣等種。本気でそう思っている程の生きた化石。

 そんななので、ただでさえ民子は窮屈で苦しい思いをしているが、こんなド田舎にも民子が起こした事件の話は伝わっていて、彼女は文字通りの生き地獄な毎日を送ることを強いられている。


 美玖のように壊れられれば幸せだっただろう。

 しかし、どんな目に遭わされようと壊れられない。

 人生に絶望した民子は自死を図った。

 目が覚める。

 天国でも地獄でもない。自宅。

 今迄のことは夢だったのだろうか?

 民子は"ほっ"と息を吐いたが、翌日夢と同じ[事]が起こった……。


**********


 エルフの里の聖域の洞窟の家。

 アデリアはレティエルと共にソファに座ってくつろぎ中。

 レティエルの肩に頭を乗せて、今頃民子に起きているであろう[事]をアデリアは柔らかな口調で話す。


 民子は贖罪の日々を送っていること。

 どんな目に遭おうとも絶対に狂うことが出来ないこと。

 どんな形で死んでも1万回同じ日から人生が繰り返し(ループ)になること。

 1万と1回目にやっと赦されて狂うなり、死ぬなり出来ること。

 莉愛の亡骸は魔法で創られた土人形であること。

 遺書はアデリアが書いた物だが、ここでこうしてのほほんと生きているので偽物であること。


 酷い裏切りにあった当事者たるアデリアが民子を何事もせずに地球に帰還させて終わり。

 そんな甘い話は何処にも無かったのだ。

 虐めは勿論、悪で犯罪だが裏切りだって同じだ。

 1万回の繰り返しの人生の中の何処かで民子がそれに気が付いて、心から反省をしてくれたら良いなとアデリアは思う。

 いずれにしても、もう2度と会うことは無いと断言出来るが。


「容赦ないな」


 アデリアの話を黙って聞いていたレティエルが会話が終わってから苦笑いする。

 美玖への罰も凄惨なものだった。だが、彼女は壊れることが出来た。

 それに比べて民子への罰という名の仕打ちは……。


「リアはそれだけ彼女に心を開いていたんだな」


 苛烈な罰。裏を返せば、アデリアが民子をそこ迄慕っていたということ。

 罰を下されている民子に嫉妬心を覚えるレティエル。


「リア」

「なぁに? レティ」

「愛している」

「うん。私もだよ」


 身体を横向きにさせて妻を抱き締めるレティエル。

 アデリアもレティエルの身体を抱き締め返す。

 漂う甘い雰囲気。レティエルはそのままアデリアを抱こうと(よこしま)なることを考えていたのだが、その雰囲気を他でもないアデリアがぶち壊した。


「民子達のことは解決したけど、人間とエルフ達との対立を終わらせることと神に懲罰を与えることはまだだよね。どうしようか」

「へ? あ、あぁ……。そうだな」


 折角良い雰囲気だったのに。

 興を削がれて肩を落とすレティエル。

 アデリアは落ち込んでいるレティエルに気付くことなく話を続ける。


「この世界の人間ってさ、全員漏れなくエルフ族と仲違いしてるの? 友好的な人間もいたりする? 後、守護獣ってレティしかいないの? 他にもいる?」


 民子のことを話していた時と違って妙に活き活きとした声。

「どうしようか」とか自分に聞いてきつつ、実はアデリアは何かしらの作戦を考え付いているらしい。

 やれやれと強引に心を持ち直させるレティエル。


「エルフ族に友好的な人間もいるにはいるな。だが、数は極僅かだ。それと守護獣は他にもいる。ドラゴンとかアラクネーとかな」

「なるほどね。で、人間が精神の拠り所にしてるのはパルテンキ神聖国だよね?」

「そうだな」

「じゃあそこの元首……。教皇と幹部の首を全員総挿げ替えしようか」

「は? いや、しかしあそこは神の力で守られていて私達は入国は不可能だぞ」

「だよね。だから……」


 "くすっ"と黒くて悪い笑みを浮かべるアデリア。

 その顔を見て頬を引き攣らせるレティエル。

 アデリアは一体何を考えているのか。知りたいが、知りたくない。

 少なくとも良からぬ企みでは無いことは確かだろう。

 レティエルでは到底思いつかないような企み。


「レティ。他の守護獣と連絡を取り合うことは出来る?」

「転移をして話をするということなら出来るが、それだと不十分か?」

「ううん、それで大丈夫だよ。早速明日から実行するよ! 楽しみだなぁ」


 本気で楽しそうだ。

 一抹の不安も感じるが、レティエルはこの長く終わりが見えないくだらない対立をアデリアが奇策を用いて終わらせてくれることに賭けてみることにした。



 翌日。

 アデリアはレティエルと共に動き始めた。

 まずはレティエル以外の守護獣達と実際に会い、自分が思い付いた企みについて話を持ち掛ける。

 素直に応じる者もいれば、断る者も当然いた。

 アデリアの企みに乗るか、否かは自由だ。

 但し、乗らない者には企みが成功しても何も与えない。

 守護獣だけでなく、そこの里のエルフ達にも同じようにする。

 と脅迫めいた言われ方をされると、守護獣として自らが守護している者達に現在と変わらずに害が及び続けるのは心苦しいと考えるのが守護獣と呼ばれる所以。

 アデリアは守護獣達の心情を上手く突いた。

 結局、アデリアはレティを含む10柱の守護獣のうちの8柱の守護獣達から企みに協力するという契約書へのサインをもぎ取った。


 夜。

「フェンリルにドラゴンにカーバンクルにケット・シーにクー・シーにアラクネーにマーメイドにユニコーンからはサインを貰えた。ガーゴイルとケンタウロスには完全拒否されたけど上出来かな」


 本日守護獣達にサインして貰った契約書。

 1枚の紙きれを前に喜色満面なアデリア。

 いつ見ても愛らしい妻の幸せそうな笑顔。

 レティエルは彼女の横顔を見ながら思う。


『何故わざわざ契約書なんて作ったんだ?』


 暫く思考。後に思い付くはアデリアは自身の身を持って、裏切りを体験しているからだという答え。

 契約書には、裏切った場合は世界樹の蔓が自動発動してこの世界が終わる迄身体を拘束する旨の書記がある。

 これなら裏切り者なんて出てこないだろう。

 世界が終わる迄の間、自由を奪われたいなんて思うような変わり者は守護獣の中にはいない。


 それにしてもアデリアが思い付いた企み。

 レティエルはその話を他の守護獣達に話している妻の姿を思い出し、呆れと見事が入り混じった複雑な顔となる。

 彼女の企みはやはり自分にはとても思い付かないことだった。


「リア」


 両手を広げて愛する妻の名を呼ぶレティエル。

 アデリアは相変わらず少しだけ顔を紅色にさせて、レティエルが期待をするままに彼女の胸の中に飛び込んでいった。


「これからだな」

「うん、これからだよ。……ねぇ、レティ」

「どうした?」

「上手くいくかな?」

「リアなら大丈夫だ」

「……勇気付けて欲しいなぁ」

「それはつまり、脱がしても良いということだな?」

「え? いや、そこ迄は。それに、心の準備が……」

「リア」

「きゃっ!!」


 アデリアの羞恥心なんて無視。妻の寝間着(ナイトウェア)に手を掛けるレティエル。


「待っ……」

「ダメだ。待たない」


 その夜、アデリアは草木も眠る丑三つ時迄レティエルに愛を与えられ、代わりに大切なものを奪われた。

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