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05.対決。

 ~オリュンピアの光の乙女達~

 西暦2020年代の日本。ゲーミングPCを始めとしたあらゆるゲーム用媒体で発売されているゲームソフト。

 それなりに好評を博しており、近々続編かファンディスクが発売されるという噂もある。

 現状では人間とエルフしか人族はいないが、新作かファンディスクでは獣人やら魔族やらドワーフ達が追加登場してくる予定だ。

 そんな大人気ゲームソフト。

 実は隠し要素と隠しパラメーターがある。

 本来ならば最終的に主人公たる勇者(プレイヤー)の前に立ちはだかるのはレティエルなのだが、勇者(プレイヤー)が仲間に適切に接しなかった場合に仲間が裏切り、レティエルの代わりになるのだ。

 ゲーマー達の間ではこれを[裏切りイベント]と呼んでわざと仲間が裏切るように仕向けて遊ぶ者もいる。

 そうするとエンディングが変化するから。それにレティエルを相手にするよりも楽にゲームクリアが出来るから。

 その裏切り者が聖女でない限りは―――。


**********


 アデリアはこれ迄の人生の中で最も怒りの激情を覚えていた。

 気色の悪い笑みを浮かべながら自分に襲い掛かってくる美玖の攻撃をアデリアはさらりと避ける。

 まさか、いとも簡単に攻撃が避けられるとは思わなかったのだろう。

 激昂する美玖。自分に速度上昇の魔術を使って再びアデリアに斬りかかる。

 たった1度。それを避けられただけで激昂する美玖を笑ってしまうアデリア。

 美玖にとってはアデリアの笑いはとてつもなく癇に触る。

 自分(美玖)が1番じゃないと気に食わない。性格からくるもの。

 絶対にアデリアを殺すと決めて、美玖はパルテンキ神聖国で習った生物を殺す為の剣術を惜しみなくアデリアに振るう。

 凄く必死。なのが別の意味で可愛い。自分に振るわれる剣の舞いを全部紙一重で躱しながらアデリアは美玖のことを観察する。

 戦闘前にアデリアは自分に風の魔法を付与しておいた。

 それのお陰で美玖がどれだけ本気を出そうともアデリアに剣の切っ先が届くことはない。

 何しろ剣の風圧によってアデリアの身体は自然と動くのだから。


「なんで、なんで当たらないのよ! クソクソクソクソクソッ」


 攻撃が当たらずとも剣を振るうことを止めない美玖。

 アデリアは彼女が流す汗に免じてヒントをプレゼントしてあげることに決めた。


「例えば風船だよ。風船を斬ろうとする前に前後左右何処からか風を当てれば風船は動くよね? そしたら斬れなくなるよね」

「はぁ? 何が言いたいのよ。あんた」

「佐藤さんの攻撃は私には絶対に当たらないってことだよ」

「あんた、何処で私の名前を知って……」

「ねぇ、私の顔に見覚えはないかな?」


 アデリアに言われて美玖は一旦攻撃を止める。

 不意打ちされないように距離を取って眺めるはアデリアの顔。

 見覚えがある。民子とは違う形で自分達が虐めていたクラスメイト。

 守っていた民子に裏切られてざまぁと影で笑ったクラスメイト。


「まさかあんた、桜庭 莉愛?」

「ご名答。今はアデリアって名乗ってるけどね」


 アデリアが右手に杖を出現させる。

 これも魔法の一種。洞窟の家に置いてある物を転移させる魔法。

 異空間(アンラウム)移動(ヴェゲ)魔法(マギア)


「ねぇ、ここに来るまでに貴女達は2つのエルフの里を壊滅させたんだよね?」


 杖を手にしたアデリアの雰囲気が変わる。

 憤怒しつつも飄々としていたものが禍々しいものへ。

 空気も若干重くなり、美玖の背筋に冷たい汗が流れる。


「貴女達が2つ目の里を襲撃中に私とレティは[事]を食い止める為にそこの里に転移したの。でも、間に合わなかった。情報網がない世界って不便だよね。襲撃の場所が分かってたら、貴女達なんかに好き勝手なことをさせたりしなかったのに」

「な、何よ! 偉そうに」


 動揺から立ち直った美玖が再び剣を手にアデリアに向かう。

 今度は炎の魔術を剣に付与しての攻撃。


「これなら風に揺られる風船だって割ることが出来るわ!」

「……攻撃が届けばね」


 走る美玖。その彼女を背後から捕まえる何者か。

 

「誰よ!」


 と背後を振り返った美玖が「ひっ」と悲鳴を上げる。

 そこにいたのは肉体が腐敗した下半身の無い男性エルフ。


「ねぇ、僕の下半身何処にあるか知らない?」


 彼は"ニタニタ"とした顔で美玖に問い掛ける。

 これ以上ない不気味さに半狂乱となる美玖。


「し、知らない。知らないわよ! 知らないから放しなさい」

「でも、僕の下半身を僕から奪ったのは君だよ?」

「桜庭 莉愛。あんたの仕業でしょ? 何なのよこいつ」


 美玖は自分にしがみ付いて放れない男性エルフをどうにかして振り解こうと懸命に藻掻く。

 初めて見る美玖の情けない態度。アデリアは真顔で一連の様子を見守りつつ言葉を紡ぐ。


「光と闇って表裏一体なんだよね」


 杖を振るうアデリア。

 それによって彼女の姿が変化を遂げる。

 純白だったケモミミと髪と尻尾が烏の濡れ羽の如く漆黒に。

 黄金だった瞳が緋色に。

 その姿はまるで……。


「魔王」


 美玖が意識せず口走る。

 先程迄の元気は何処へやら? 今の美玖は蛇に睨まれた蛙。

 全身の震えが止まらない。冷や汗が噴き出してくる。

 本物の恐怖。脳は絶えずアデリアから逃走するようにと命ずるが、怯えと下半身の無い男性エルフのせいで今いる場から1歩たりとも動くことが出来ない。


「逃げないの?」


 美玖が動けないことを理解していながら彼女に問い掛けるアデリア。


「逃げないなら、私からそっちに行くね」


 返事がないので宣言した通りにゆっくりとアデリアは美玖に近付いていく。


「こ、来ないで。お願いだからこっちに来ないで」

「なんで? 接近戦が得意な剣士の佐藤さんにとっては寧ろ私に近付かれる方が都合が良いんじゃない?」


 1歩。また1歩。アデリアが自分に近付いてくるのが美玖は堪らなく恐ろしい。

 来るなと願うがアデリアに願いが届くことはない。


「佐藤さん、もうすぐ貴女に手が届くよ」


 アデリアの言う通り、美玖との差はアデリアが手を伸ばして美玖の身体に届く迄5cm程の距離。

 アデリアはわざとそこで立ち止まり、身体を少しだけ折り曲げさせて美玖の顔を覗き込む。


「し……」

「し?」

「死ねーーーーーー!!」


 美玖の決死の攻撃。

 次の瞬間、アデリアの髪の中から現れた漆黒で巨大な蜘蛛によって美玖の右腕は食い千切られた。


「ぎゃあああああ。腕が。私の腕がぁぁぁぁ」


 激痛に喚く美玖。彼女の不幸はこれで終わりではない。

 美玖の腕を食い千切った巨大な蜘蛛の身体が崩れ去る。

 そこから現れたのは、これ迄美玖が殺してきたエルフ達。

 美玖に取り付き、彼女を死へと(いざな)う。


「あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 下半身から液体と湯気。美玖の無様な姿。

 次々と与えられ続けた恐怖によって数分後、美玖は壊れてしまった。

 "へらへら"と笑みを浮かべながら人形のように先程の場所に座り込んでいる。

 アデリアは変わり果ててしまった美玖に「散々、人を貶めてきた者にお似合いの末路だね」と吐き捨てて彼女に背を向け、全ての出来事をただ見ているだけだった民子を睨みつけた。


**********


 時間は少し遡ってアデリアと美玖との戦闘が行われているその最中。

 レティエルは美玖に加勢しようとしている彼女の取り巻きである理央と知佳の前に現れて彼女達と戦闘を繰り広げていた。

 レティエルは人化せずにフェンリル・狼の姿。

 戦闘は一方的で一瞬だった。

 理央の攻撃も知佳の攻撃も見極めて躱して魔法による攻撃をお返し。

 そうしてから己の周りに浮かばせる水の球。

 彼女はそれを解き放ち、理央と知佳の頭を包むように張り付かせて2人を窒息死する寸前迄追い詰めて魔法を解いた。

 気を失った2人。次にレティエルが使ったのは土の魔法。

 彼女達の身体に絡み付く木の蔓。

 ただの木ではない。聖域に生えている木。

 それすなわち世界樹。魔素(エーテル)を生み出している木。

 世界樹はこの世界が終わる時迄決して枯れることはない。

 魔法も魔術も物理攻撃も何も通じない。最強の木。

 暴れれば暴れる程に身体を強く強く締め付けて苦しませる添え物付き。

 これでもう、彼女達は無力と化した。

 そうした後はレティエルは妻と美玖との戦闘を観戦していた。

 アデリアにあんな一面があることなんて知らなかった。

 寒気がしたレティエル。

 アデリアは怒らせないようにしようと静かに頷いた。

※この物語はフィクションです。

~オリュンピアの光の乙女達~というゲームは現実にはありません。

(念の為)

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