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04.四季の移ろいと因縁の人物達との再会。

 アデリア達がこの世界ユーファニアに転移してきてから1ヶ月。

 当時はネムノキ(夏)も終わりに近づこうとしている頃だったが、季節は移ろってメープル(秋)を迎えた。

 ユーファニアと地球。四季の移ろい方は日本のそれと似ている。

 但し、呼び方が異なる。季節を代表する木の名前が季節名となっている。

 しかし言語は日本語ではない。ユーファニアでは世界を4つに分けて東西南北とそれぞれの言語が使われている。

 東ユーファニア語、西ユーファニア語、南ユーファニア語、北ユーファニア語。

 このうちアデリア達が使っている言語は西ユーファニア語。

 転移の際にアデリア以外の者達は神から。アデリアは世界から。言語理解(ラングコンプラード)の能力が付与されて、その恩恵によりアデリア達は不自由のない生活が送れている。

 カレンダーを捲るアデリア。

 四季の移ろい方もそうだが、1日の時間が24時間であることも地球と同じ。

 ただ、1ヶ月は12ヶ月だが必ず32日と決まっているところは地球とは違う。

 今日から9月。カレンダーを捲り終わって今朝方エルフの里を散歩している最中にエルフ達から聞かされた話を思い出すアデリア。

 アデリア以外の異世界人で同郷の者・勇者達の話だった。

 元親友の勇者:御手洗 民子。

 民子を虐めていた主犯格の剣士:佐藤 美玖。

 美玖の取り巻きその1の重騎士:近藤 理央。

 美玖の取り巻きその2の魔導士:遠藤 知佳。


 アデリアと違い、予定通りにパルテンキ神聖国に召喚された彼女達。

 ここ1ヶ月は何の音沙汰も無かったが、どうやらそれはパルテンキ神聖国で戦闘の仕方の訓練をしていたかららしかった。

 そして訓練を終えていよいよ彼女達は動き出したらしい。

 近隣のエルフの里が彼女達による奇襲を受けて壊滅的な被害を負ったとエルフ達は顔を青褪めさせながら言っていた。

 と、なればこの里にも彼女達は近いうちに現れるだろう。

 全員揃って2度と見たくない顔ぶれ。

 それでも放置するわけにはいかない。

 エルフ族を守る使命が自分にはある。

 過去は背負ったモノの重さにびびっていたが、現在(いま)はもう違う。

 覚悟を決めた!!


 握り拳を作って気を引き締めるアデリア。

 因縁の相手との直接対決は間もなく―――。


**********


 民子はこの世界ユーファニアに召喚されたその日からずっと、『どうしてこんなことになったのだろう』と自問自答を繰り替えしていた。

 中学校で漸く虐めという犯罪から逃れることが出来て、ライバルの親友も冤罪を被せることで孤立させることに成功した。

 それでも虐めに遭っていた頃の自分と同じく学校に登校して来ていたが、以前と比べて明らかに覇気が無くて鬱病に近い状態になっていた。

 そんなライバルの姿を見て安心したことは記憶に新しい。

 あれでは志望校を受けたところで合格することは出来ないだろう。

 他にもライバルはまだまだいたが、自分と比べると成績が劣る者ばかり。

 一番のライバルは親友だった。だから、蹴落とした。

 これで残りの人生は順風満帆な日々が続くと信じて疑わなかった。

 

 それなのに―――。


 今のこの状況は思い描いていた生活とは正反対だ。

 虐められていた日々に逆戻り。毎日美玖達に暴力を振るわれている。

 更にエルフ族を無理矢理始末させられている。

 この世界はゲームの世界。


 ~オリュンピアの光の乙女達~


 という名のRPGの世界。

 人間とエルフ族が対立していて、勇者(プレイヤー)は人間達を勝利に導く為にこの世界に召喚される。

 道中、仲間達と手を取り合い魔獣退治をしてレベルを上げてエルフ族との戦闘に挑むというストーリー。

 ラスボスはエルフ族の守護獣フェンリルのレティエル。

 彼女を倒すことで勇者(プレイヤー)はユグドラシルの杖を手中にし、元の世界へと戻るのだ。


 じゃあその杖を手に入れる為にエルフ族を滅ぼさないといけない。

 分かってはいる。分かってはいるが、実際にエルフ族を殺すとなると……。


「何やってんのお手洗い。あんたも手伝いなさいよ」


 美玖の声が戦場に響く。

 彼女は自分達と異なる者・エルフを殺すことに何の罪悪感も覚えていない。

 それとは対照的に震えながら剣を構える民子。

 彼女は美玖に逆らえない。

 何故なら虐められていた頃の恐怖心がまだ消えていないから。

 最初のうちはただのからかいからだった。

 御手洗という苗字がお手洗いと読めるから美玖達は民子をからかい始めた。

 言葉の暴力。そこから真の虐めへと発展する迄は左程時間はかからなかった。

 例えばひと気のない場所で人目に付きにくい箇所を殴られ、蹴られた。

 例えば人としての尊厳を土足で踏み躙られた。

 例えば教科書を隠されたり、酷い時は目の前で破られて捨てられた。

 他にも美玖達が民子にしたことを挙げるとキリがない。

 地獄のような日々。民子は耐えられず1度は自死しようとしたことがあった。

 学校の裏庭に生えている太い木の枝にこの日の前日の放課後にホームセンターで買ってきた麻縄を結び付けて……。


 首を括ろうとしたところで民子は莉愛。今のアデリアに助けられた。


「大丈夫?」


 そう言って民子に手を伸ばした莉愛を民子は罵った。


「なんで? なんで邪魔したの? 後1歩だったのに」


 これには莉愛は困った顔になった。

 助けたことに深い理由なんて無かったからだ。

 単純に死んで欲しくなかったから。それだけのこと。

 泣き喚く民子。莉愛は民子が落ち着く迄隣で寄り添って、落ち着いたら彼女から死のうとしていた理由を聞いた。

 その時迄莉愛は自分達のクラスで虐めが起きていたことなんて知らなかった。

 知った莉愛は激怒し、以後は民子と行動するようになった。

 民子の傍に常に莉愛がいるせいで民子を虐めにくくなった美玖達が取った行動は莉愛にとっては滑稽そのものだった。

 莉愛と民子の無いことや無いことを真実のようにクラスメイト達に伝えて2人がクラスメイト達から無視されるように仕向けて美玖達は見事目論見を成功させた。

 美玖達はこれは2人には堪えることだろうと思っていたに違いない。

 が、まったくの計算違い。莉愛はそんな幼稚なことなど気にも留めなかった。


 民子が過去を思い出しながらエルフの女性の腹部に背後から剣を突き立てる。


「う……っ。あ……。嫌よ。まだ、死にたくない」


 エルフの女性の悲痛な叫び。

 民子にはそれが怨念のように聞こえる。


「煩い。煩い。煩い煩い。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 突き立てた剣を抜いて、次は何度も何度もエルフの女性に剣を刺す。

 もう、声は聞こえてない。

 代わりに水音が民子の耳に小さく聴こえる。


 その音は民子の足元に広がった赤い湖。

 エルフの女性の身体から流れ出たもの。

 民子はそれを見て泣き笑った。


 だって仕方ないじゃない。私は元の世界に帰りたい。だからエルフを殺さないといけないんだ。私のせいじゃない。私のせいじゃない。そうだよ、莉愛と同じだ。邪魔だから蹴落とした。潰した。殺した。社会的に殺すか、物理的に殺すか。

 違いはそれだけだ。私のせいじゃない。世界はそういう風に出来ているんだ。


 大義名分。民子はそれからエルフ達を何人も殺めた。



 数日後。

 民子達はレティエルとアデリアのいるエルフの里の前に立っていた。

 ゲームならここに来る迄にはもっと時間が掛かるのだが、この世界はゲームとは違う。現実の世界。

 そのせいか。民子達の強さは初めからカンスト状態にある。

 民子達のことは噂話でこの里にも流れてきていたが為に彼女達の姿を見ただけで逃げ惑うエルフ達。

 美玖は恐慌に陥ったエルフ達を見ながら愉快そうに嘲笑う。


「じゃあ狩りを始めましょうか」


 そう言って剣を抜く美玖。

 走りだそうとした彼女の前に1人の女性が立ちはだかった。


「……させないよ」


 その顔は怒りに満ち満ちた顔。

 容姿などは変わっているが、民子は思わず声を上げてしまった。


「まさか……、莉愛ちゃん?」


 返事はない。代わりにあるのは憎悪の睨み。

 恐怖で震えあがる民子。美玖は構わず自分達の前に現れた女性・アデリアに躊躇なく斬りかかっていく。

 ここにアデリアと民子達の因縁の戦い。

 エルフ族と人間の命運を掛けた戦いの火蓋が切って落とされた。

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