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14.鼻のへし折りと変わらないもの。

 リリアテーゼ連邦共和国の一地方・ジョセルマ。

 ここはエルフ族の守護獣が1柱・ユニコーンが統治している領地。

 アデリアとレティエルはユニコーンことローレンに招待されてこの地に訪問して来た。

 同じ国でも統治者が変われば土地柄も変わる。

 この土地は女性ばかり。男性を1人たりとも見掛けない。

 リコベルは女性が7で男性が3の人口比率なので男性もそれなりに見掛ける。

 地球でもユニコーンは無類の女性好きであるとされているが、この世界の彼女もどうやらそうらしい。

 街中を見回してアデリアはローレンに企みを持ち掛けた日のことを思い出す。

 アデリアを一目見ただけでローレンは契約書にすぐさまサインした。

 悩まなかった理由に納得だ。逆に言えば、アデリアがもしも男性であったならばローレンは話も聞かず、契約書も見ずに突っぱねていたかもしれない。

 企みに賛同してくれる守護獣が減らなくて良かったと思う。

 でも、自分が男性であった場合は今回反対に回ったガーゴイルが賛同をしていた可能性がある。

 であれば、『どちらにしても守護獣は8柱集まってたのかな』。

 そこ迄考えて、自分の隣を歩くレティエルを見る。

 男性であった場合、レティエルの伴侶になれなかった可能性が高い。

 それ以前にユーファニアへの召喚者に選ばれなかったかもしれない。


 レティエルが傍にいない―――。


 想像しただけで涙が出てくる。

 所詮、空想は空想でしかないのに。


「レ……」


 いらない空想をしたせいで心に穴が空いた気がして、その穴を埋める為にいつものようにレティエルのことをアデリアは呼ぼうとする。

 そこにローレンが割って入ってきた。


「アデリアちゃん、ボクの街はどう?」


 今はそれどころじゃない。レティエルに甘えたい。邪魔して欲しくない。

 鬱陶しい。頭の中にその言葉が浮かぶが、無理くり笑顔を作ってアデリアは質問された内容について感想を応える。


「そう、ですね。まずは女性ばっかりだなぁって思いました。後は石造りの家屋が多いなぁとも」


 ちなみにリコベルで見掛ける建物はログハウス風味のものもあれば、ここと同じ石造りのものもある。他に煉瓦作りの建物もたまに見掛ける。

 一番多いのはログハウス風の建物。リコベルは木の文化が発達している。


「うんうん。ボクの土地は男人入地禁制地方だからね。ところでアデリアちゃん、良かったらボクの愛人になる気はない? 君なら大歓迎だよ」

「おい。ふざけたことを言うな」


 ローレンの誘いに怒りの声を上げたのは当然レティエル。

 愛妻家の彼女が他者に妻を愛人に召し抱えられようとしている場面を見て黙っていられる筈がない。


「リアは私の妻だ。もし手を出すなら……」


 アデリアを自分の背後に隠して、レティエルはローレンを魔法で威嚇する。

 彼女の本気度がローレンに伝わったのだろう。

 肩を竦めてローレンは両手を上げる。

 レティエルは守護獣の中。ドラゴンのカレンの次に強い。

 相手取るには分が悪すぎる。


「悪かったよ。しかし君は本当に一途だね」

「そういうお前は多情だな。確か正妻が5人で愛人は30人を超えているとか自慢をしてたよな」

「さんじゅ……」


 レティエルの背後。ローレンの愛人の数の多さに唖然とするアデリア。

 ローレンは勘違いも甚だしい。アデリアに鼻高々な表情を見せる。


「それは数年前の情報だよ。今は正妻が10人で愛人は100人を超えてるよ」

「……。その中に私も加えようとしてたんですか?」

「そうだよ! ボクと愛人になることはとっても名誉なことなんだよ。だから是非に君もと思ったんだけどね。邪魔者がいなければ……」


 頭が痛い。アデリアにはローレンの考えが全く分からない。

 レティエル以外の者に愛慕なんて湧かない。

 他の者は心を開いたとしても精々友人止まりだ。それ以上は踏み込ませない。

 というか、よくも女性達が正妻・愛人になることを承諾したものだ。

 その女性達に「何を思ったの?」って聞いてみたい。


「アデリアちゃんはレティエルの何処がそんなに好きなの?」

「えっ」


 突然の質問。顔が紅くなるアデリア。

 心なしか。ローレンは顔を紅くするアデリアに苛立っているように見える。


「何処ってそれは……」

「応えられないとか? それってつまりはアデリアちゃんの思い込み……」

「顔が良いし、体型も良いし、声も好きだし、優しいところも好きだし、私を一途に愛してくれるところなんて大好きだし、時々間が抜けてるところも好き。レティっていう存在が大好き」


 ここ迄1度も息継ぎなし。

 自分の背後にいるアデリアに振り返るレティエル。

 愛する妻に存在が大好きなんて言われたら顔が深紅に染まるに決まっている。

 対するローレンは茫然自失としているが。


「リア。今のは全部本心か?」

「え? うん。ごめんね。私、重いかな?」

「いや……。嬉しすぎて言葉が見つからない」


 本気で何を言えばいいのか分からない。

 顔を両手で覆ってレティエルは幸せを噛み締める。


『妻が可愛い、妻が可愛い、妻が可愛い、妻が可愛い、妻が可愛い、妻が可愛い』


 妻が可愛いbot。悶えるレティエルにアデリアは爆弾を落としてきた。


「レティは? レティは……、私の何処が好きなの?」

「うっ……」


 顔を覆っている両手。指を少し開くと顔を紅色に染めて、少し俯きながら躊躇いがちに自分に問い掛けをしている妻の姿がある。


『えっ? 何だ? この可愛いがすぎる生き物。世界で1番可愛い。妻の好きなところ? そんなの……』


 アデリアに問われたことに返事をしようとするレティエル。

 口を開いたところでアデリアに「ごめん。さっきの質問は無かったことにして」なんて言われて止められる。

 それは酷すぎではないだろうか。好きなところを自分も言いたい。


「顔に身体に性格に何もかもが好きだ。リアを形作っている全部が大好きだ」

「い、言わなくていいって言ったのに」


 顔を覆っていた両手を離してレティエルは妻を見る。

 顔の俯き加減が先よりも下向きになっている。

 きっと妻は照れて愛らしく顔を深紅に染めているのだろう。

 尻尾が"ぶんぶん"左右に揺れていることから容易く想像することが出来る。


「でも私、捻くれた性格してるのに」


 左右に揺られていたアデリアの尻尾が揺れを止めて地面に向けて下がる。

 レティエルが思い描いているのは幻想だ。恋のフィルターが掛かっている。

 顔は純日本人の平べったい顔をしてるし、体型は華奢。胸なんて決して大きいとは言えない。

 何より性格。民子にあんな罰を科す程に歪んでいる。


 ……。意気阻喪となるアデリア。


「はぁ……っ。リアはなんっにも分かってない」

「え?」

「よく聞けよ」


 落ち込むアデリアに対して始まるレティエルの説教? 講座タイム。


「本当に性格が悪い奴は自分で自分の性格が悪いとは言わない。それとリアは今、多分だが顔や体型のことも気にしてるんじゃないのか? 全部間違いだ。リアは世界で1番可愛い女性だ。異論は認めない!」


 鬼気迫る勢いだった。呆けるアデリア。


「リアは世界一可愛い。分かったら返事」

「あっ……。はい」

「うん、それで良い。例えリアでもリアのことを否定することは認めないからな」

「何それ」


 "ふふっ"と婦々どちらからでもなく笑い出す。

 ところでレティエルが「本当に性格が悪い奴は~」の下りにてローレンのことを見ながら言っていたのはレティエルの心の内の表れで合っているだろうか。


 ちらりと"ローレン"を見るアデリア。

 視線が交わった時にローレンから魅了の魔法が放たれた。


 アデリアが知っている魅了の魔法とは違う。

 本来の彼女よりも彼女の姿を美貌に魅せ、彼女と交際することに栄誉を感じる。

 というところは同じだが、強制力が無い。魅了の魔法を掛けられた本人が魔法を受け入れるかどうかを決められるようになっている。

 腐っても守護獣。女性に自分との交際を強制するような汚い真似はしないということだろう。

 じゃあローレンの正妻達は自らその道を選んだということになる。


 やっぱり理解出来ない。


 アデリアはローレンの魔法を強く拒絶した。


「アデリアちゃん」

「残念だったな。リアに魅了の魔法を掛けても無駄だ」

「……? レティ、今回は指輪の力は使ってないよ?」

「そうなのか?」

「うん。だって、ローレンさんの考えも彼女の周りにいる女性達の考え方も私にはこれっぽっちも分からないし、私、ナルシストって大嫌いだし、大体ローレンさんって自分が思ってるよりも綺麗じゃないよね。それに私服のセンスが凄くダサい。後、鼻毛出てるの恥ずかしくないのかなって思う。ドン引きだよ。本物の美を持つレティの爪の垢を煎じて飲ませてあげたいって思うよ。要するに指輪の力が発動をする迄もなく、私にはローレンさんは恋愛の対象外ってこと」

「そ、そうか……」


 ここ迄のことを言われるとは。

 流石にほんの少しだけローレンを気の毒に思うレティエル。

 当のローレンに目を向けると、鼻毛が出てるとアデリアに言われたことが心理的に致命傷だったのか? 顔を両手で隠すようにしながら屈み込んでいる。


 本当はこの後、ローレンの聖域でお茶会の予定だったが……。


「帰るか」


 聖域の主があれではお茶会は無理だろう。

 レティエルはアデリアにリコベルへ帰還することを促す。

 しかしアデリアは元気に一言レティエルへ言葉を紡いだ。


「私、ローレンさんの聖域見てみたい」


 目を輝かせての妻からの願い事。

 断れない。レティエルはローレンを無理矢理立たせて聖域への案内を促した。 


**********


 ローレン・ユニコーンの聖域。

 そこは石造りの神殿のような荘厳な建物が多く並ぶ場所。

 守護獣によって土地柄も違えば聖域も違う。

 レティエルの聖域は自然溢れる森のような場所だし、カレンの聖域は彩鮮やかな宝石やら数えきれないほどの金貨やら宝箱やらが沢山ある場所だった。


「ここがローレンさんの聖域かぁ」

「そうだよ。気に入ってくれたかな? アデリアちゃん」


 鼻毛はいつ剃ったのだろう。今はもう無い。

 額に手を置いて格好良い決めの佇まい。

 聖域を自慢するローレン。


 彼女のことを"じっ"と眺めるアデリア。


「個人的には好きになれそうにない場所ですね。ところで、Tシャツにでかでかとユニコーン(自分)の刺繍。ポーズと合ってなくて面白いです」


 これでも一応アデリアは褒めたつもりだ。お笑い芸人みたいだと。

 残念ながらローレンには伝わらず彼は膝を曲げた。


「なぁ、リア。もう充分だろう。私達の洞窟の家に帰らないか。リアが私に気持ちを伝えてくれてから、私はリアと愛し合いたくて堪らないんだが」

「お茶会はいいの?」

「ん? ああ、主催者があれでは無理だろう。気にしなくて良いと思う」

「そっか。じゃあ私達の居場所に帰ろう。レティ」

「ああ」


 リコベルの聖域に転移。

 レティエルは戻って来たと同時に愛する妻を抱き締めながら唇を奪う。


「レティ」

「存在が好きだなんて言われて、リアを愛せずにいられる程私は我慢強くはない。火を点けたのはリアだ。……ということで、覚悟してくれ」

「……大好きな人から求められるのって幸せだね」

「っ。……この、爆弾魔」


 アデリアを自分の部屋へ搔っ攫うレティエル。

 現在夕方。彼女達はその時間から翌日の明け方近く迄愛を深め合った。


**********


 数年後。

 リリアテーゼ連邦共和国は守護獣達と国に住む人々(エルフ族)の手で様々な物を作りだしては世の中へと送り出して、ますますの経済的な成長・発展を遂げる。特に食文化に至っては今や世の中の誰もが羨むくらいだ。

 インフラの進んだ国。しかし、それ以外は特別に変わりはない。

 経済に余裕が出来たから、高層ビルを建てよう。

 とか考えもしないのは、エルフ族という種族の特性にあるのだろう。

 建物は建国以来、修繕や改装、新装がされても昔の名残りがある。

 アデリアはそのことを好ましく思いながらリコベルの街を眺める。

 その彼女の元に歩み寄って来る1つの影。


「リア、何を見ているんだ?」

「見ての通り、この街だよ」

「街? そう言えば人口も増えたし、飲食店が増えたな」

「ふふっ」

「ん?」

「何でもない」


 リリアテーゼ連邦共和国で変わらないことがもう1つ。

 [愛]。大切な人を想う愛、地方を想う愛、国を想う愛。

 それは今後も変わることなく……。


-------

裏切られた少女はフェンリルの妻となりて

番外編 Fin.

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