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10.愚者達の末路と相変わらずの2人。

 リリアテーゼ連邦共和国建国から半年後。

 これ迄エルフ族を虐げてきた戦犯達の粛清が始まろうとしていた。

 元教皇アレクスの時代は自分達に逆らう者の末路はこうなるのだという見せしめを兼ねた公開処刑が一般的だった。

 彼の匙加減1つで決められる罪の重さ。

 罪によって処刑方法は異なった。

 ギロチン刑、火刑、溺死刑、石打ち刑、八つ裂き刑などなど。

 人間も少なからず彼の犠牲となっているが、主に犠牲となったのはエルフ達。

 老若男女関係なく、彼の命令で処刑された者は数百名にも上る。

 エルフ達の犠牲はそれだけじゃない。

 戦場で生命を落とした者もいるし、元教皇アレクスの前には引っ張り出されずに理不尽に生命を刈り取られた者も多くいる。

 なので人間に殺められたエルフ達の犠牲者の数を正しく数えると、とてつもない人数となるだろう。

 それなのに、この時の主神アテビナはそれを良しとしていた。

 エルフ達が死にゆくのは自然の摂理だと考えていた。


 故に世界から無能の烙印を押され、徹底的に嫌われた。


 アデリア達の手によって元無人島。

 現・リリアテーゼ連邦共和国が所有する幾つもの島のうちの1島。

 その島に建造された刑務所に送還されて監禁されていた元教皇アレクス達が本日は自分達が処刑される日だと知り煩く騒ぐ。


「朕に触るでないわ。ええい、放さぬか無礼者め」


 元教皇アレクスにはすでに何の力も無い。価値も無い。

 で、あるのに過去の栄光が忘れられずにこの物言い。

 世界から嫌われた神アテビナと同じだ。反省していないことがよく分かる。


「……哀れな連中だ」


 元教皇アレクスを処刑場へと連行している看守が呟く。


「下層民如きが朕に生意気な口を利くとは何事であるか! 朕は上層民であるぞ」

「今のあんたはただの囚人だ。いい加減に立場を分かれ」

「な、なんと生意気な。貴様は死刑だ。火刑に処する」

「処刑されるのはあんただよ」

「貴様!」

「いい加減に黙れよ」


 看守に全力で殴られる元教皇アレクス。

 囚人とはいえ、看守が囚人に暴力を振るうことはアデリア達に禁止されている。

 しかし、元教皇アレクスの目に余る物言いに他の看守の誰もが先に起きた[事]は見なかったことにしようと無視を決め込むことにした。


 

 処刑場に到着。

 元教皇アレクスを筆頭に数十人の者達が看守達によって首と両手を麻縄できつく縛られて横一列に並んでいる。


「これはなんじゃ! 朕を解放せよ」


 心臓に毛でも生えているのだろうか? それとも鋼で出来ているのだろうか?

 ここ迄来ても尚、暴言が吐けるとはなんたる豪胆。

 おつむの方は足りていないようだが、腐っても元教皇。

 人間の代表であっただけのことはある。


「まぁ、どうでもいいけどな」


 この日に処刑が行われるのは彼らだけではない。

 まだまだ後ろに囚人がいる。

 全部の囚人を片付けるのに掛かる日にちは1週間・8日の見込みだ。

 なので数十人。1番目の処刑人達に長い時間を掛けている余裕はない。


「始めるぞ」


 看守長の声で囚人達に目隠しをしていく看守達。

 元教皇アレクス達はこの日、予定通りにこの世から去り、あの世へと旅立った。



 1週間・8日後。

 看守達は漸くひと仕事を終えて休憩中。

 仲間の(かたき)を討てて胸が"すっ"とすると思っていたが、意外とそうでもない。

 虚しくはないが、なんとも言葉にし難い気持ちになっている。


「なんだろうなぁ。もっと"スカっ"とすると思ってたんたがなぁ。俺は」


 看守の1人が熱いコーヒーをちびちびと飲みつつ愚痴る。


「だな。案外そうでもないな」


 彼の愚痴に同意する彼の同僚。


【復讐なんて虚しいだけ】


 世の中にはそういう綺麗事を言う者がいるが、もしも自分が、もしも自分が大切に想っている人達が理不尽な目に遭っても同様の言葉を吐けるだろうか。

 吐けるならその者は聖人君子だと思う。

 大抵の者は実際に理不尽な目に遭えば、2度と綺麗事は言えなくなるだろう。


 その点で仲間達の無念を晴らせた自分達。

 胸を張っても良い行いの筈なのに、鉛が心臓に巣食ったように感じる。


「はぁ……っ。なんでため息が出るんだろうな」

「この仕事に就いたこと、後悔してるか?」

「いや、してないな」

「さっきお前の意見に同意した俺が言うのもなんだが、割り切れ。それがこの仕事の本質だ」

「……。そうだよな」

「それが出来ないなら、お前はこの仕事に向いてねぇよ。辞めちまえ」

「きつい言葉だな、おい。けど、ありがとうよ」

「おぅよ。さて、休憩時間は終わりだ。行くぞ」

「ああ」


 ブエルキリソン刑務所。

 リリアテーゼ連邦共和国随一の巨大で広大な刑務所。

 建物が中央で壁に仕切られていて、左右に分けられている。

 左側が女性用刑務所。右側が男性用刑務所。

 元教皇アレクス達は有無を言わさずの極刑が適用されたが、処刑する程でもないと判断されて刑務所に捕らえられているだけの者はまだ多くいる。

 アデリア達が世界1周の旅行中に捕らえてきた囚人達。

 エルフもいるが、ほぼほぼ人間。

 この刑務所は囚人達の反省の度合いによって出所が認められる規定がある。

 が、彼ら・彼女らに反省の様子は残念ながら見られない。

 看守達はそんな者達をどうにか更生させようと今日も働く。

 この先、看守達の努力が報われるか否かは誰も知らない。


**********


 リリアテーゼ連邦共和国の一地方・リコベル。

 ここはレティエルが統治している地方。

 アデリアは日課の朝から温泉を終えて私室に篭もっていた。

 そこで何をしているかというと、今日着るに相応しい服を選んでいる。

 それというのも今日、夕方にレティエルの家族との顔合わせの約束があるのだ。


「レティの家族……。緊張する」


 レティエルからフェンリル一族についての話は聞いている。

 レティエルの母親シェーラと娘のレティエル。それからアデリア。

 一族は全員で2柱と1人。尚、シェーラはレティエルが成長するとさっさと守護獣の座を娘に任して自分は人里離れた遠い無人島で隠居生活を始めたらしい。

 シェーラにとって守護獣という立場は窮屈で自分を縛る足枷のようなものでしかなかったようなのだ。

 レティエルは母親に似ずに統治者の立場を悪くは思っていないが。


 そんな者なので、レティエルには長年会っていない。

 それが急に会いに来ると言い出したのは、一体何処で聞いたのか? レティエルがアデリアという女性を妻に迎えたことを知ったから。

 数日前に転移の魔法でその旨が書かれた手紙が送られてきた。


「こっちの都合も考えないで。相変わらず自由で羨ましい限りだ」


 手紙を読んだレティエルが吐いた皮肉。

 アデリアはそれどころではなく、心中で焦りまくった。

 愛する者の家族との対面。落ち着いていられる訳がない。

 レティエルには「別にいつも通りで良いからな」と言われたが、それは失礼だし、相手に対する敬意というものを重視するアデリアには無理な話だ。


「どうしようどうしよう。これ? それともこっち?」


 下着姿でクローゼットの中にある服を漁ってはベッドの上に放り投げる。

 このベッド。活躍の場が殆ど無い。可哀想なベッド。

 ちょっとした休憩時にしか使われることがない。

 ベッドが本領を発揮する夜という時間帯はアデリアはレティエルの部屋で一緒にいるから。


「白か黒の上品に見えるワンピース。2つに絞った。さて、どっちにするか」


 視線で穴が空きそうな程にアデリアは服を眺める。

 まだ本決定ではないが、白のワンピースに手を伸ばした時に無造作に私室のドアが開放された。


「リア」

「きゃっ! ノックくらいしてよ。レティ」

「済まない。忘れていた」


 絶対に嘘だ。わざとだ。白のワンピースで身体を隠しながらレティエルをジト目で眺める。


「レティ……。恥ずかしいから部屋の外で待ってて欲しいなぁ」

「眼福な[事]をむざむざ辞退させようとは。鬼畜の所業だぞ、リア」

「そんなこと言われても……」


 レティエルの視線が突き刺さる。

 愛する妻。もしくは愛らしい女性を見ているような視線。

 だからこそ余計に恥ずかしい。


「レティ……。お湯にのぼせたみたいな感覚がするから、ね?」


 顔は深紅。他全身はほんのりとピンク色。

 愛してやまない妻から一瞬目を離して、レティエルはアデリアの部屋の壁時計を見やる。


「母が来る迄はまだ時間がたっぷりとあるな」


 視線を再び愛する妻へ。"そわそわ"してるのが堪らなくそそられる。


「私の妻が可愛すぎて辛い」


 レティエルが少しずつ自分に近付いて来ている。

 後ずさるアデリア。


「レティ……。ダメだからね?」

「何がダメなんだ、リア。説明してくれ」

「えっ……。それは……」


 口に出来ない。想像して頭が茹で上がる。


「リア、そこでますます可愛い顔になるのは反則じゃないか?」

「……………。大好き」

「……っ。もう無理だ」


 アデリアはレティエルに攫われる。

 彼女の部屋のベッドへ押し倒されて、アデリアはレティエルに……。

看守は地球では刑務官。

こちらは異世界ということで諸々の事柄、ご了承よろしくお願いします。

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