01.異世界転移・フェンリルとの邂逅。
新連載です。本編は全11話。
2024/07/07中に本編全話UPされます。
番外編も執筆中で、そちらは数日後にUPされます。
※途中、賛否両論とは思いますが人によっては胸糞と感じる話があります。
パルテンキ神聖国。
そこは戦と人間に安寧を齎す女神・アテビナを祀っている国。
その国の元首である教皇アレクスは今まさに異世界より人間を召喚し、その者達を使役して人間以外の人族の排除をさせようと目論んでいた。
人間以外の人族。すなわちエルフ族の排除。
人間とエルフ族。2大人類はこの世界ユーファニアで幾千年にも渡って対立。
世界の覇権を巡る戦を繰り返してきた。尚、現在人間側が優勢の状態にある。
短命だが、子孫を多く残せる人間。
長寿であるが故に子孫に恵まれにくいエルフ族。
人間が優勢となっているのもここに鍵がある。
もしもエルフ族も人間と同じくらい子孫に恵まれる種族であったのならば、今頃は人間を絶滅寸前に迄追いつめていただろう。
何しろエルフ族には人間には使えない武器・魔法があるのだから。
まぁ人間の中にも魔法を使う為の力・魔力を持つ者がいる。
だが、魔力があっても人間が使えるのは魔法ではなく魔術。
魔法と魔術では大きな違いがある。
魔法は自然界から力を借りて行使する力。
魔術は云わば呪いの一種。
この2つは似ているようで全然違う。
魔法は自然界から力を借りて行使するので威力・再現力が高い。
一方、魔術は人工的なもの。その分、当然、威力・再現力が低い。
更に身体に魔法陣のタトゥを彫っていないと使えない。
魔法の方が魔術よりも断然優れていると言える。
人間族にとって厄介なことこの上ない力・魔法。
その力を行使するエルフ族。目の上のたん瘤な存在。
しかし、そのエルフ族も度重なる戦争によって人数の減少が著しい。
ここで教皇アレクスは一気にエルフ族を滅亡させてしまおうと考えたのだ。
その方法が異世界からの人間の召喚。
パルテンキ神聖国に残された逸話によって実行された事柄。
その昔、魔獣によって滅亡の危機に陥った人間を救う為に女神アテビナが人間達に教えた秘術。
この秘術によって人間達は滅亡の危機から無事に逃れることが出来た。
異世界から人間を召喚出来るのは100年に1度だけ。かつ人数は5人のみ。
そういう制約はあるが、異世界から召喚された人間達はこちらの世界の人間達とは違って一騎当千の力を持っている。
勇者・剣士・重騎士・聖女・魔導士。
異世界から召喚された人間達に与えられる特別な称号。
教皇アレクスは召喚の儀で召喚の間に現れた人間達に目を輝かせた。
のだが、おかしなことが1つ起こっていた。
5人いる筈の異世界人が1人足りていなかったのだ。
聖女となるべき人間が―――。
この想定外の出来事により、この世界は様々な人々の予想外の方向へ動き出す。
そんな未来をこの時の教皇アレクスはまだ知らないでいた。
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時間は少しだけ遡る。
地球からユーファニアへの次元の狭間。
桜庭 莉愛こと聖女となるべき者は外からの侵入者と1人対峙していた。
その者はエルフ族の守護獣たる者。聖獣フェンリル。
黄金の瞳と純白の毛皮。莉愛よりも一回り大きな体躯を持つ女性の狼。
彼女は悠然と莉愛の前に立ち、「取り引きをしよう」と口を開いた。
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時間は戻ってパルテンキ神聖国に他の4人が召喚されたその頃。
ここはエルフ族の里。
フェンリルことレティエルとの取り引きに悩むことなく速攻で応じて、ついでにとある契約にも応じた莉愛はエルフ族に大いに歓迎されてレティエルと共に彼女が普段暮らしている聖域の森の中にいる。
美しく咲き誇る色とりどりの花々、東京スカイツリーよりも高いのではないかと思われる森の多くの木々、澄んでいる空気が心をリラックスさせてくれる。
「ん~~~っ。すーっ、はーっ」
肺一杯に美味しい空気を味わう莉愛。
そんな彼女を見て微笑むレティエル。
自分が持ち掛ける取り引きを莉愛が断ることはないだろうという確信はあった。
教皇アレクスの企みを前もって知って、その後この世界に召喚されて来る者達の心の中をこの聖域の森にある清浄の湖。別名:真実の鏡により見ていたから。
本当は教皇アレクスの召喚の儀そのものを止めたかった。
それが出来ていれば極上だったが、パルテンキ神聖国はエルフ族にとっては忌々しくも女神アテビナの力によって守られている。
レティエルと言えど神の力には抗えない。
召喚の最中に横槍を入れるのが精々だった。
「ねぇ、レティ」
美味しい空気を存分に味わって大満足。
満面の笑顔を浮かべた莉愛がレティエルのことを愛称で呼ぶ。
「どうした? 莉愛よ」
そう呼ばれても特に気にせず莉愛の呼び声に応えるレティエル。
「私の姿ってどんな感じになってるか見たいんだけど、見る方法あるかな?」
莉愛の問い。目を細めるレティエル。
そう、今の莉愛は人間だった頃の莉愛とは異なった姿をしている。
次元の狭間で莉愛がレティエルの契約に応じたから。
レティエルと婦々となるという契約に。
この契約で莉愛はレティエルと同様の魔力を身体に宿すことになり、その副作用で身体が作り替えられて人間ではなくなった。
「ふむ。では―――」
莉愛の為に魔法を使おうとするレティエル。
その前に聖域の花々と木々が騒めきだし、莉愛の前に花々と木々の化身・妖精達が群がる。
「え!? 何? 何?」
慌てる莉愛。唖然とその様子を見守るレティエル。
妖精達は両掌をくっ付けて前に差し出してと思念で莉愛に伝える。
言われた通りにする莉愛。掌に妖精達が集い、やがて彼女達は1本の杖と化す。
短杖。莉愛の手に馴染むその杖は杖の名前と魔法の使い方を教えてくれた。
「杖の名前はユグドラシル。そして魔法の使い方は……。水晶の鏡」
杖を振るった莉愛の眼前。現れるは縦に長い水晶の鏡。
じっくりと自分の姿を見る莉愛。
長い睫毛に細めの眉毛。レティエルと同じ黄金色で丸めな双眼。
日本人女性の平均的な鼻の形と高さ。
紅色よりもやや薄い色。ふっくらの1歩手前な厚さの唇。
純白のミディアムボブ。頭の上にこれまた純白のケモミミが生えている。
身長と体型は人間だった頃と同じ。
14歳の日本人女性の平均身長よりも低い148cmで華奢。
お尻に純白の尻尾が生えている。
「思っていたよりも[私]が残っているね」
魔法の鏡を消してレティエルに伝える莉愛。
レティエルは苦笑いしながら返事をする。
「婦々の契りを交わしたことによってフェンリルになる筈なんだが、何故だか莉愛はそうはならなかった。原因は分からん。不思議だ」
「そうなんだ? でも、これはこれで私的には可愛いと思うから好きかな」
「ふふっ。私もそう思うよ」
「本当?」
「嘘を吐く意味があるか?」
「そっかぁ。レティにそう思って貰えるの嬉しいな」
「ははっ。これから末永くよろしく頼む。私の妻、莉愛よ」
「それなんだけど」
「うん?」
「私の名前変えようと思うんだよね」
「ほお。どういう名前にするんだ?」
「アデリア。愛称はリア。どっちで呼んでくれてもいいよ」
「アデリアか。良い名だな」
莉愛 改め アデリア。
レティエルは伸縮自在の尻尾を器用に使って己の妻の頭を優しく撫でる。
心地良さそうなアデリア。レティエルは妻の顔を見て、一生大事にしようと胸中で誓いを立てた。
この物語では人間のことは[人間]。
他種族のことは[人]と呼称しております。
よろしくお願いします。
追記:魔法名などは造語が含まれています。