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6、どちらが愛しているか愛されてるか

パーティで言い渡された謹慎が解けてから、フランツは男爵家に足を運んだ。

花束を持って現れた王太子を見ると屋敷の者は驚き、すぐに応接間に通した。

元から娘を王太子に近づける心積もりだった男爵はあっさりと訪問を受け入れた。


「マリーの誕生日のパーティでは、父上がキャロライン嬢に失礼な事を言って申し訳なかった」


この通り、と頭を下げて花束を渡した。


「フランツ様、この花はなんですの?」

「ああこれは、父上の失礼のお詫びというか」

「それで、今日のご用件はお詫びに?」

「そうじゃなくて…正直、マリーの友達が必要なのは俺もわかってたから、キャロライン嬢の申し出は俺は嬉しかったんだ。ああ優しい子なんだって」


ああそういうこと、とキャロラインは花を受け取った。


「でもね、国王陛下からはマリールー様に近寄るなと言われてるの」

「そこは何とか、俺から父上を説得する!父上だってマリーを孤立させるのは良くないって思ってるはずだから」

「多分難しいと思うわ。でも私以外にもマリールー様の友達になりたいと思うような奇特な御令嬢っているのかなあ」


ふふっと嬉しそうに花の匂いを嗅ぎながらキャロラインはちらりとフランツを見遣る。


元はと言えば自分の蒔いた種だ。

悪かったと謝って優しく接して仲睦まじい所を周囲に見せ続ければすぐにでも彼女の評判は好転しただろう。

でもそうはいかないくらい、もう既に婚約者との仲は拗れてしまっている。


「そうだね。やっぱりキャロライン嬢は優しいね」


寂し気にそう言うと、男爵邸を辞した。


帰っていく王太子の馬車を見送りながら、キャロラインは贈られた花束をもう一度抱きしめた。


婚約者に最初に贈ったのは虫、私に最初に贈ったのは花。

これ、世間から見たらどちらが愛されてるかって一目瞭然でしょう?


筆頭公爵家の令嬢ですら得られない物を得た優越感にキャロラインは浸る。



それから数日おきに、花を持って王太子が男爵邸を訪れた。


「これからあと少しで王立学園に入学するだろう?そうなれば父上が近付くなって言ったってマリーとの接点ができるよね。君はマリーと同級生なんだし」


良い事を考えた!とばかりにフランツは目を輝かせる。


「入学してからマリーが独りぼっちになると良くないと思うんだ。俺がついてあげればいいんだけど、マリーは嫌がるだろうし」


何を本末転倒な事を言ってるんだと思うけど、まあいい。

色々気付いてない残念な王太子だとは思う。


「そうねえ、私も嫌がられるかもしれないけど」


そう言って焦らしてやると、何度も熱心に王太子は頼みに来るようになった。



やがて、花を持って男爵令嬢の元に熱心に訪れる王太子の事が噂に上る。

貶めたまま放置した婚約者ではなく、男爵令嬢の愛を乞うていると。



国王はまたもや頭を痛くして、愚息を叱りつけた。


「私はあの女をマリールー嬢に近付けさせるなと言ったが、勿論それはお前も含めてだぞ」

「でも彼女は人から嫌われてるマリーの友達になろうという、優しい子ですよ」

「馬鹿者!!元はと言えば、お前がマリールー嬢が嫌われるように仕向けたのだろうが!!」

「だからっ、俺は何とかしようとして」

「友達にも好かれる良い子だと思わせるつもりだとでも言うのか。そんなもの、男爵の思う壷だ」

「父上はマリーに折角好意を向けてくれる優しい子をそんな風に言うのですか!」


もう何を言っても無駄だ。

国王は息子の廃嫡を決意した。


学園に入学する頃には、既に王太子の傍には常に男爵令嬢が侍り、愛想を尽かした公爵令嬢は孤高に学園生活を送っていて、周囲も王太子は公爵令嬢を捨てたのだという認識になっていた。

代わりに公爵家の嫡男のアレクセイがマリールーの傍で支えるように守っている姿が見られた。

男爵令嬢と睦まじく見える婚約者に傷付いているのだと周囲は思っていたが、既にマリールーは諦めの境地だった。


「いいんですか、マリールー嬢。人目も憚らずあんな…」

「構いませんわ。殿下の真実の愛のお相手とは幸せになっていただきたいの」


親身になってくれるアレクセイだけは信じられるかもしれない。


「私ね、殿下に婚約破棄していただきたいの。悪評も広まったこの国で幸せになれるとも思わないし、またそれを覆すための努力も馬鹿げてると思えて。もしも私が何かしら罰を受ける様なことをした結果なら甘んじて頑張れるかもしれないけど」


そして婚約が破棄された後には母親の祖国の帝国に身を寄せるつもりだと告げた。


「それは…」


表情を曇らせ、アレクセイが止めようとする。



必ず王国と帝国の軋轢が起きる。

それも王国側にとっては良くない方向に。

でも何が起きてもマリールーには与り知らぬこと。

それにフランツからは悪意を向けられたわけではない事もわかっていた。

だから勝手に幸せになりやがれと思うこともできたのだ。


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