4、側近候補達は考える
その声も聞こえなくなると、国王は私にへにゃりと申し訳なさそうに謝って来た。
「申し訳ない、マリールー嬢。無礼を働いた男爵家には後程王家から抗議を申し入れるつもりだ。あの話は忘れて欲しい。私に免じて許してはもらえないだろうか」
依頼という形を取っていても、国王の望みだ。
断るわけにはいかなかった。
「仰せのままに、国王陛下」
そうカーテシーをしながら答える。
男爵令嬢と同じ11歳とは思えない対応に、国王は益々マリールーを大切にしなければ、と考える。
王太子が退出して、手持無沙汰になった側近候補の3人は隅の方で話し合っていた。
本来なら王太子を囲んで場の中心に居るはずだったのに。
「あの子の事、知ってた?レイブン、カイト」
アレクセイの言うあの子とは、男爵令嬢の事である。
「いいや、知らない」
「ふうん」
マリールー嬢の近くで見た事も無かった。
「胡散臭いな」
ぽつりとアレクセイが漏らした。
「まあ、いきなり玉座に近づいてきてお友達になりましょう、は普通ないわな。しかも王家主催のパーティの席で」
まだこれが子女だけを集めた気軽なお茶会の席ならわかる。
アレクセイが気にしているのは、それを言ったのが本人の前でだけではなく、国王夫妻や王太子、他貴族の衆目の中での宣言だったことだ。
友人のいないマリールーへの友達の誘いを断るのは、王家としてはしたくないだろう。
だから国王は、非礼を理由に追い出すしかなかったのだ。
「やけに気にするんだなアレク。ああいう子が好みなの?」
ぶっきらぼうにカイトが話しかける。
「別にそういうんじゃない。ただ得体のしれない女が近づくのは不気味だなって思っただけ」
「…フランツがバカだからなあ」
元はと言えば原因を作ったのはフランツだ。
でもカイトにしてみてもマリールーは頭の切れる可愛げのない女という評価なので、強ちコロンゾ虫の例えは間違っていないと思っている。
「お前、未来の主君に言う言葉じゃないだろ」
「じゃあアレクはフランツが利口だと思ってる?」
「…まさか」
思わずアレクセイは苦笑した。
そこはさ、思ってても言っちゃいけないやつなんだよ。
そんな腹芸ができないようでは宰相になんてなれないぞ。
余程そう言ってやろうかと思ったが、言葉を呑み込んだ。
アレクセイの父親、クリスチャン・フェルベール公爵は現王弟であり、王太子に次いで王位継承権2位にある。
その嫡男のアレクセイも、実は王位継承権が3位であった。
王太子に何かあれば、王権はフェルベール家に移る。
だからと言って王家を乗っ取ろうという野心はない。
そんな事をすれば国が内乱状態に陥る。
「友達なら俺達がなれば済む話だ」
と言いたかったが、婚約者の王太子の側近候補を3人も侍らせるとなるとただでさえ評判の良くないマリールーに男にふしだらという悪評まで加えることになってしまうのでその提案はできなかった。
兎に角あの一件は、マリールーはともかくフランツにはあの女は好印象を与えた筈だ。
自分のせいで評判の落ちた婚約者に寄り添おうとしてしてくれる優しい女の子だと。
マリールーの友達ともなれば、その婚約者の王太子との接点もできる。
どう考えても良い方には転ばない。
アレクセイ自身はマリールーは好ましい人物だとは思っていたが、自分が奪って王太子を廃嫡させて国を荒らすのは得策ではないと思っていた。