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戻された宝物(4)

「セイ、苦しい」


マリールーがそう言って、アレクセイははっとして抱きしめていた腕の力を緩めた。


「ごめん、リル」

「いえ、あの、あんまりこういう所では…」


ちらちらとマリールーは周囲を気にする。

できたもので、アレクセイに付いている近衛達は表情を変えることなく控えている。


「悪かった。父上が待っておられる」

「…国王陛下が私に…どういった御用なのかしら」


それには答えず、奥の国王の私室に案内する。


「王妃様?」


国王の私室には先客がいた。

前王妃、今の国王の義姉になる。


マリールーは久しぶりに会う王妃に顔を輝かせた。

それも一瞬の事。

余りにも王妃は窶れてしまっていて、前国王の隣に立っていた頃の美貌は輝きを曇らせていた。


「マリールー、…いえ、ディケンス公爵令嬢。お元気そうで良かったわ」


僅かに微笑んでくれたが、その笑顔は寂しそうだった。

心なしか震えているように見えた。


「マリールー嬢。突然の呼び出しにも関わらず、来ていただいてありがとう」

「いえ、国王陛下におかれましては…」


ご健勝をお慶び申し上げます、と言おうとして思わず口を噤んだ。

国王も何故か悲しそうな顔をしてる。


アレクセイも今日は会った時から何か変だった。


ざわざわと心臓に虫が這っているような嫌な感じがする。

国王は手を上げて、マリールーの挨拶を制した。


「昨日、帝国から使者の方が訪れてきてね。これを置いて行かれた」


国王と前王妃の間には、帝国の紋章が彫られた箱がある。


「兄上と、フランツの遺品が入っているそうだ」


国王の口から告げられた言葉が一瞬理解できなかった。

遺品?

遺品…


「陛下。あの、フランツは…」

「亡くなったそうだ」


その刹那、呼吸が止まった。


亡くなった?

フランツが?


国王は前王妃に、帝国で囚われとなった前王がフランツの命乞いをして我が身を差し出した事、フランツは父の死も知らず自害した事、その際にその小箱をしっかりと抱きしめていて、死んでいるのを見つけた牢番の兵が取り上げようとしてもなかなか離れなかった事を淡々と告げた。


「中身は一応帝国で検められていて、それでも尚これを我が国に返したと言うことは、マリールー嬢に関係あるものではないかと考えたのだ」

「そう…ですか」


驚き過ぎると涙も出ないんだな、とマリールーは思った。


フランツの事は大嫌いだったけど、死んで欲しいなんて思わなかった。

婚約者の自分を裏切って、男爵令嬢に真実の愛を囁いたどうしようもない人だったけど。

長年一緒に居て、それなりに情も湧いていた。


先に前王妃はこの事を聞いていたのだろう。

眦に涙が浮かんだ痕があった。


「我々もまだこの中身を見ていない。一緒に改めて欲しい、マリールー嬢」

「はい…」


箱の中には少し艶の衰えた黄金色の毛髪が束にされているものと、小箱があった。


「マリールー嬢、この箱に見覚えは?」

「いえ…」


王家の紋章が彫られた小箱だ。

マリールーもフランツの私室には何度も行っていたが、見たことはなかった。

でも紋章で王家の者の持ち物であることはわかる。


箱を開けると、マリールーは目を瞠った。

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