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1、コロンゾ虫の公爵令嬢

初めての投稿作です。

よろしくお願いいたします。

「本日をもってマリールー・ディケンスとの婚約を破棄する!」


クソッタレ王太子が校庭に繋がるテラスからその場にいる在校生、卒業生の前で宣言する。

皆デビュタント用の衣装を身に着けていて真っ白な花が咲き誇っている。

私は在校生だが、卒業生の王太子がエスコートする相手なので、同じくデビュタントの白いドレスを着ていた。

皆何事かとその阿呆の方を見ているが、私は心の中でガッツポーズをやりまくりながら飛び跳ねてる状態。

ヤッホークソ王子、よく言った!!

そして普段なら絶対に言わないようなバカ丁寧な礼を返すのだ、満面の笑みで。


「謹んで破棄を受け入れますわ、王太子殿下」


脳内でファンファーレが響き紙吹雪が舞う。

世界はキラキラ輝き、輝度8割マシマシでめっちゃ明るい未来が扉を開いた。

ああ、この日を待ってたの。

さらばクソ殿下。

もう顔も見なくて済むわね!!




「…あ」


何か痛い。

ドテッという音と身体の痛みで目が覚めた。

視界に映るのは天井のシャンデリア。

普段はベッドの天蓋が見えるはずよ?


「おはようございますお嬢様。今朝はまた随分楽しそうな夢をご覧になったようですね。運動大会でもやってらしたんでしょうか」


侍女のエレンが呆れたようにカーテンを開ける。

なんだあ、夢かあ。

さっき夢で見たキラキラの陽光が部屋に入って来る。


あら、でも正夢かしら?

すんごく幸先がいいわ。


私は夢の中でやった通りのバンザイをしたままの姿勢で仰向けになってベッドから落っこちていた。

取り敢えず腕をぱたぱたと畳んで、そのまま床にむっくり起き上がる。


「おはようエレン。そうなの、良い夢見たの、聞いて聞いて!」

「はいはい、どうせ王太子殿下と婚約を解消する夢ですよね」

「あったりー!…もう、つまんない、すぐわかっちゃうの」


なんで判らないと思ったのか、と言いたげにエレンは呆れながら返事をする。

大体、王族との婚約の解消なんてことになれば疵物令嬢として結婚市場では負け組確定になる。

国の筆頭公爵家のお嬢様が疵物になって喜ぶ事自体がおかしいのだ。


それでも公爵家の人間なら末席の使用人に至るまで全員が理解していた。

国の中枢ヒエラルキーの最上位の王太子殿下であっても、彼はディケンス公爵家の敵。

この上なく高貴なはずの令嬢の評判を、地の底にまで落としてしまったからだ。




私は生まれてすぐ、王命で第一王子のフランツと婚約を結んだ。

一歳年上のフランツと初めて顔合わせをしたのは私が4歳、フランツが5歳の時だった。


同じような年頃の高位貴族の子女が集められた王家主催の茶会でのことだ。

王太子と婚約者の顔合わせだけでなく、将来の国王の側近となるべく育てられる子息達もいる。

これから末永くその子達と仲良くして行かなければならない。

おそらくこの先も、彼等と頻繁に顔を合わせる事になる。


先に声をかけたのはフランツだった。


「おまえ、変わった頭してるな」

「へっ?」


第一声がそれだ。

艶のある黄金色の髪とコーンフラワーブルーのサファイアの瞳。

王家の色を持つ少年。

ずんずんと近付いていて、いきなり私の髪をひっつかんで引っ張った。


「ヘンな色。ババアみたい」


私の髪はこの国にはない透ける様なプラチナで、陽の光の具合で虹色の光沢が出る。

瞳はアメジストで、やはりこの国にはない色。

私のお母様が北の方の帝国の人間で、そこにしか出ない色を持っている。

この髪も目も、私はお母様に似たのだ。

フランツは面白がって私の髪を引っ張り、あろうことか私のお気に入りの髪飾りを外して


「そうだ、こっちの方が似合ってるぜ」


と言ってポケットから何かを取り出し、私の頭にくっつけた。


「痛い!…え、何?」


それを少し離れた所から見ていた王妃様が悲鳴を上げてすっ飛んできた。


「フランツっ!お前何してるの!」


あ、やべ、と言って走り去っていくが、王妃の護衛がすかさずフランツをつかまえた。

やがて、上の方からブウン、と羽音が聞こえた。


嘘、まさか、虫!?


幸い私は虫で気絶するような御令嬢ではなかったけど、そんなものを頭にくっつけるなんて信じられない。

見ていた他の御令嬢達がキャアキャア騒ぎ出した。

侍女達も青い顔をしている。

王太子の婚約者の御令嬢の髪に、大きな甲虫がくっついてるのだ。

しかもそれをくっつけたのが王太子殿下。

叱り飛ばせるのなら王妃陛下か国王陛下しかいない。

虫を頭に付けられただけでも腹立たしいのに、北の帝国のおばあさまからいただいたお気に入りの髪飾りを持って行ってしまった事に腹が立った。


「マリールー嬢、ごめんなさいね。フランツが乱暴な事を」

「いえ、王妃様、それよりも…」


髪飾り、返してほしいんですけど。

そう言いたかったのに、王妃様も真っ青になりながらハンカチで私の髪の虫を取ろうとしてくれる。

やっとのことで虫が震える手の王妃様によって取られると、王妃様は気絶してしまわれた。

そのコロンゾという名の甲虫は玉虫色の羽を持ち、動物のフンをダンゴにして餌にする。

羽が美しいのでアクセサリーに加工されることもあるが、当然アクセサリーに加工する段階で羽だけを毟り取って綺麗に清められている。

だから幾ら見かけが美しくても天然の虫状態では不潔な存在なのだ。


この騒ぎで茶会はその場で中止になり、後日私は居合わせた令嬢達から「コロンゾ虫の公爵令嬢」という不名誉な二つ名を付けられる羽目になった。



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