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シバが作った全身甲冑とチェーンメイルは、提出期限に余裕がある時期に教師二人に提出したところ、一部作り直しの判断が下された。
理由は、人が着るように出来ていないからだった。
「見た目優先で雑なところがある、か」
そう教師に指摘されて、実際に使用してみれば、着心地から理由を理解できた。
関節部の駆動部に干渉する部分があり、身体に胴体部を着けた際には重量の分散も上手くいっていない。
これらの問題は、カッコイイ見た目にするために、鎧の形を参考にしたものからモデル体型以上にスマートな形にしたのと、ヒロイックな造形にし直したことが原因だ。
チェーンメイルにしても、甲冑の形を保持することを優先するために、着て動くことを考えない編み物のような方法で制作した。
これはシバが甲冑を芸術作品として制作したため、鎧の見た目やチェーンメイルの形が崩れないことを優先した結果だった。
実際、シバが作った全身甲冑は、置物としての見た目は抜群に格好良く、出品すれば買い手がつきそうだと誰もが思う出来に仕上がっていた。
しかし教師たちは、芸術作品であろうと実際に使えるようにしなければいけないと、甲冑の作り直しの評価を下した。
シバも一理あると考えて、鎧の不備の修正と、チェーンメイルの作り直しを行うことにした。
修正して作り直された全身甲冑は、マネキンに着させた立ち姿が緩く見えた。これは関節部を修正して自由度を上げたことで、四肢がだらりとして見えるためだ。
チェーンメイルについても、動きやすさ優先で、余裕を持たせた大きな作りになっている。甲冑の隙間から見える部分が若干膨らみ、緩い印象がある。
四肢とチェーンメイルの緩さから、立ち姿の見た目としては、各部がピシっと整っていた修正以前の方が格好良かった。
だからこそシバは、つい疑問に思ってしまう。
「今の時代、甲冑を着る人はいないんだ。着心地より、飾った際の見た目を重視したほうが、買い手のウケはいいんじゃないのか?」
教師からの指示に従って修正してみたが、シバは腑に落ちない気持ちになる。
とりあえず修正は終わったので、改めて提出したところ、今度は教師二人から修正指示は出てこずに受け入れられた。
提出後しばらくしてから、再び教師二人から連絡が来た。
なんでも『先方がデザインを気に入ったので、デザイン料を払うから量産化させてほしい』と打診があったらしい。
シバは、全身甲冑が売れる未来が想像できなかったが、教師に依頼した企業が言うのならと、デザインの利用を了承した。もちろん、デザインの参考にした資料を明記して、参考先からの訴訟リスクがどれほどあるかの証拠の提出も忘れずに行った。
「色々と疑問は残るが、学生としてと製作者としての評価が上がるんだ、文句はないな」
そうシバは楽観的に構えていたが、しばらくしての後日にニュースを見て驚くことになる。
なにせ自身が制作した全身甲冑と同じデザインで、要人護衛用人型ロボットが制作されたからだ。
そのロボットの販売用のコマーシャルでは、護衛対象者を確実に護りますとの標語の後に、色々な弾丸や刃物で攻撃されるロボットが映し出される。攻撃のほとんどを新素材の装甲が跳ね返し、弱点である関節部もチェーンメイルで防御は完璧だと、胡散臭い笑みの販売員が語っている。
もちろん人型のロボットであるため、装甲は限定的にならざるを得ない。そのため、至近距離からの対物ライフルや、ロケット弾の直撃には耐えられずに破壊されている。そうした映像も隠す事なく披露されるため、逆にその他の攻撃なら防げるのだという安心感がある。
ロボットには盾も付属するようで、色々なデザインのものがある。こちらの盾も、きっとシバ以外の学生の制作物を参考にして作られたものだろう。
その盾があることで、対物ライフルの弾が盾を貫通した後に全身甲冑に当たったが、その甲冑部分で防ぎきっていた。
ロケット弾でも同じで、盾とそれを持っていた腕が吹っ飛ばされたが、その他のロボット部分は無事なようだ。
護衛者として、破格の防御力を発揮する、甲冑ロボット。
そのコマーシャルで映る姿を見て、シバは溜息を吐きたい気分になる。
「護衛として働いてきた人が失職するぞ、これは」
その懸念の通りに、大企業が抱えていた護衛者や委託の警備会社の多くが雇い止めなったと、後日にニュースになった。
雇われたままで置かれたのは、甲冑ロボットを指揮できる能力がある人たちだけで、身体を動かすしか能のない実働護衛者は放逐される憂き目にあっているようだ。
「いままで以上に、人間は価値を生む活動に従事するようになり、その他の仕事はロボット任せになりそうだな」
シバは国の行く先を予想し、自分の身の振り方をどうするべきかを考えるよう気に留めておくことにしたのだった。




