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流行の移り変わりは早い。
特にシバが住む国では、高度に情報化された社会であることもあり、流行の消費スピードも早い。
そして流行とは、一般社会だけでなく、上流社会や政府製作にもあることである。
シバは流行の移り変わりを、学業と政府の犬の仕事という形で感じていた。
先日シバが新たに提出した宝石を使った芸術作品が、過去最低額で落札された。その理由が、流行の移り変わりだという。
「自然物よりも、機械的かつ人工的な芸術が好まれる傾向がでてきているわけか」
少し前、シバに大量にカタナやナイフの製作依頼があったのも、そうした人工物が好まれ始める兆候であったらしい。
そして政府の依頼についても、シバのもとに依頼くることが少なくなった。
たまに来る依頼も、誰かが失敗した後の尻拭いであることが多くなっている。
「その失敗したヤツの情報も依頼内容に載っているが、任務を受けたのは大抵が身体を機械化した連中のようだしな」
政府の中でも、依頼を送る先が超能力者から機械化人間に変わりつつあるようだ。
その理由について、シバは理解を示していた。
「もともと超能力者の開発は、大企業が欲しがったA級やB級ぐらいの能力者を生み出すことを目的としていたって聞いていた。政府がC級やB級、少し前ならD級まで抱えていたのは、大企業が要らないと放置した超能力者の有効活用のためだったらしいしな」
無為に捨てるぐらいなら有効活用する。当時最新技術で作り出された、超能力者が対象なら猶更だ。
そうして、もったいない精神で使っていても、何年も立てば粗や問題がでてくるもの。
超能力者は、超能力が使えるという特別感から変にプライド高い問題児ばかりで、C級以下だとその大半が使い方が難しい能力ばかり。
つまり政府が抱える超能力者は、プライドだけが高い無能者が多いというわけだ。
だから使える方の超能力者であるシバやシーリに依頼が来るし、少し前には使えない超能力者たちの在庫一斉処分を行った。
そうした人員整理の果てに、足りなくなった人材を、新たに機械化人間で補っているわけだ。
機械化人間を雇うメリットは、値段相応のスペックを発揮してくれる点だろう。
機械化した身体が安値の者なら低難度依頼を与え、高値の者には高難度の依頼を与える。
そうした基準が見えやすく、依頼を振る作業の難易度も下がる。
加えて、機械化した身体はメンテナンスを必用とするため、政府がメンテナンス料と技術者の雇用料を負担する契約を持ち出せば、機械化人間たちの離反を防ぐことにもつながる。
そうした理由があるため、政府の犬として、機械化人間たちは使い易い。
「超能力者と違って、任務で死んでも、同スペックの別個体を入手しやすいのも利点だよな」
機械化人間のスペックは、物を考える頭以外は、機械化した身体に依存している。
だから物騒な話だが、死んだ者の頭を取り外し、その残った体に別の者の頭をすげかえれば、戦力補充が済んでしまう。
これが超能力者なら、同じスペックの者を用意するとなると、同じ能力者が出るまで何人もの被検体に超能力開発を行う必用がある。
機械化人間と超能力者、どちらが補充費用に優れているか、示すまでもないだろう。
「俺が超能力者になった約十年前は、超能力がもてはやされたが。時代は変わったってわけか」
超能力者の良いところは、見た目が普通の人間と大して変わらないこと。
その姿によって、要人警護の際には会談相手に威圧を与えずに済むし、いざという時は強力な隠し札として機能もする。普通の仕事の際でも、他の作業員や会社員に変に警戒されずに済む。
そうした利点から、大企業は強力な超能力者を欲し、そして今でも保持し続け、新たな人材の獲得にも積極的だ。
政府も、多少能力は劣っても、普通の見た目をしている超能力者の方が、政府の犬として扱いやすいと考えて囲ってきた。
だが、一般社会で四肢を改造する人が多くなり、全身を機械化する兵士も少なくなくなっている。
そうした身体を機械化することが当たり前になりつつある世の中になってきたので、見た目が普通の人間であることのアドバンテージが薄れてきている。
だから政府の犬についても、扱いや再入手が難しい超能力者よりも、扱いも入手も簡単な機械化人間に、雇う方向をシフトしているわけだ。
「世知辛くはあるが、時代の流れには逆らえないもんだしな」
人工物が持て囃される流れなら、芸術の製作物をそちらに寄せればいいだけだ。
幸いなことに、シバにはカタナやナイフという製作実績が既にある。
更には、念動力によって超絶細やかな作業だって得意としている。小さな機械部品を組み上げることは造作もない。
政府からの依頼だって、機械化人間が失敗した後の尻拭いだとしても、行うことは以前からの依頼と大差ない。
時流の変化は、シバには影響がない。
シバはそう思いつつも、根拠不明の予感として、自身にとって悪い時代になりつつあるような気がしていた。




