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制御を失ったイザーン型を、とあるギャング組織が入手している噂があるという。
シバとしては半信半疑の心持ちで、問題のギャング組織が支配する地区へと向かった。
その途中で、噂が本当であることを知ることになる。
ギャング間抗争が起きていて、そこに四機のイザーン型が矢面に立っていた。
その四機のイザーン型は、片方のギャングに肩入れしているようで、もう一方のギャング構成員を銃撃と超能力とで殺害していっている。
「……どうやったら、ああできるんだ?」
シバは近くの家の屋根に乗り、ギャング抗争の様子を見る。
ギャングに制御されているらしきイザーン型。その戦い方は、一見すると普通に戦っているかのよう。
しかしシバは、初期機体であるイザーンの教育者の一人だ。
だからこそ、ギャング抗争をしているイザーン型の戦い方に、違和感を抱くことが出来た。
「変に残虐的だな」
戦っているイザーン型の一機が、敵対ギャングの構成員の胴体を回転鋸で薙いだ後、失血死するまで腕や足を切り落とす攻撃をしている。
別の一機は超能力で炎を生み出し、炎に恐怖して逃げる構成員を追いかけてまで炎で炙り続けている、
また別の一機は、敵の急所を外すように銃撃し、穴だらけにしてから殺している。
そして最後の一機は、突進で敵を轢きつつ、機体に取り付いた敵は家屋の外壁に押し付けてつぶしている。
それら四機の行動は、電子制御で動いているはずなのに、機械的なソリッドさがなく、逆に生物的なウエットさがある。
例えば、機械的に敵の排除を最上するのなら、回転鋸で狙うべきは首筋や心臓などの急所であるべきで、炎で敵を燃やして戦意喪失させたら別の攻撃で止めを刺すべきで、敵を銃撃で穴だらけにしたり突進で轢いたりという非効率的な行動を選んだりしない。
そして敵の排除を最上としつつも、感情や利益などの他の目論見も入れた攻撃をするのは、知能を持つ生物的に見られる行動である。
「イザーン型には人造した生体脳が使われてはいる。だが、あの脳は超能力を発言させるための部品で、脳自体がイザーン型の期待を動かしたり、ましてや自意識が芽生えるような仕組みにはないはずだが……」
どういう事かと疑問に思いつつ抗争を見ていると、襲われていた側が三々五々に逃げだしていた。
戦いに勝った方のギャングは勝鬨を上げつつ、拳銃や機関銃などで祝砲を上げている。
勝って喜ぶギャング構成員たちは、功労者であるイザーン型の円柱形の身体を叩いて喜びを伝えている。
対してイザーン型も、褒められたことが嬉しいのか、機体や操作腕を揺らして喜色を表現している。
「まるで、飼い主に褒められて、尻尾を振る犬だな」
なかなかに貴重な映像なので、シバは顔に着けているバイザーの録画機能を使って、ギャングとイザーン型の光景を映像として収めていく。
「さて、どうするべきか」
ここでシバが突撃して、戦勝に浮かれているギャング構成員とイザーン型を始末することは容易い。
しかしそうしてしまっては、どうしてあのギャングたちがイザーン型を入手することができたのかの理由が分からなくなってしまう。
せめて、あのギャングの誰もがイザーン型を奪取できる特殊な装置を持っているのか、もしくは特定の誰かがその技能によってイザーン型を奪取したのかが判明すれば、選択肢の取りようがあるのに。
シバが行動を決めかねていると、四機のイザーン型がとある人物のもとに集まっていることに気付いた。
その人物の容姿は中性的――いや、細身の筋肉質の身体を女性向けの衣服で覆った、男性とも女性ともつかない見た目をしている。
そんな不思議な容姿の人物が、大仰な身振り手振りで何かを語り始める。
すると、大演説家の言葉に酔いしれる聴衆のように、ギャング構成員がうっとりとした目を向け始めた。
イザーン型も、顔がないため感情は分からないが、不思議な容姿の人物の言葉に聞き入っている様子で身動きを止めている。
それだけでなく、攻撃を受けて虫の息な敵ギャング構成員も、命を繋ぐための呼吸すら忘れて言葉に聞き入っている。
誰も彼もが釘付けとなっている様子を見て、シバはこの手の現象に心当たりがあった。
「まさかな」
シバはバイザーの望遠機能を全開にして、語り聞かせを行っている人物の顔を映す。その後で、超能力開発機構のデータベースにアクセスして、顔で人物検索をかけた。
シバはC級の超能力者なのでアクセスできるデータには限りがあるが、幸運なことにあの演説家のデータを検索することができた。
「C級の催眠能力者。多少の思考誘導が可能ではあるが、薬物による洗脳にすら劣る能力のため、C級の認定か」
シバは人物像の情報を得て、あの催眠能力者が騒動の鍵であると直感した。
何かしらの方法で、ギャング構成員だけでなく、イザーン型も催眠にかけて手駒にしているのだと。




