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 特C級がどの程度のものかを見せ終えて、シバは役目を終えた。

 そのはずだった。


「俺にアイツと戦わせろ!」


 そうパワードスーツを下りていた青年に言われて、研究者は困り顔になっている。


「特C級とは、あの者のように、一芸に秀でたもののことを言うのだよ。君はその基準に達していないと、見てわからなかったのかね」

「アイツは戦闘に秀でているっていうんだろ! なら、アイツを倒すことが出来たら、俺の方が優秀ってことじゃないか!」


 自分なら勝てると言いたげな青年の主張に、研究者の表情が冷笑に変わる。


「君が、あの者にかね? 正直、勝ち目など毛筋ほどもないと思うが?」

「良いからやらせろ!」


 青年の聞く耳のない様子に、研究者は苛立っている。

 研究者は言い返そうとして、その途中で行動が停止する。

 そのまま数秒停止した後で、研究者は肩を落とす。その姿は、まるで結果が証明されている実験を命じられたかのような、徒労感を滲ませるものだった。


「……見学者の中にいる偉い方から、お前の要望を受けるようにとお達しがあった。良かったな、戦えるぞ」

「よし! そうこなくっちゃな!」


 勝手に進んだ話に、シバが休憩で口に当てていた水のボトルを顔から離す。


「おい、勝手に決めないでくれるか。こっちは政府から出向しているんだ。政府からの許しがなかったら、余計な真似は出来ないんだが?」


 シバが至極真っ当な主張を放った直後、顔に着けている軍用ゴーグルにメールが受信された。

 受け取ったメールの中身を確認すると、パワードスーツの青年と戦えば特別報酬を与えるという文言が書かれていた。

 その文面を見て、シバは思わず見学者たちの方へ顔を向けてしまう。

 政府がこうも迅速に対応するからには、あの見学者の中にはどぞこの大企業の重役以上の存在がいることが確定だ。

 その重役以上の役職者が誰かは分からないが、ゴーグルの機能で見学者たちの人相を記憶しておくことは、なにかしらの役に立ちそうだ。


「……まあいい。政府からの依頼なら、従うだけだ」


 シバがやる気なく同意すると、パワードスーツの青年が早速戦おうとする。

 しかしここで、研究員から待ったがかかる。

 どうして止めたかというと、先ほどの戦いでパワードスーツの各所に負担がかかっている様子なので、簡易にでもメンテナンスをした方が良いという判断からだった。




 検証に使われなかった予備のイザーン型が、器用なことに、パワードスーツの調整を手伝った。

 そのため、さほど時間をかけずに、パワードスーツの青年とシバの対戦が実現される運びとなった。


『俺は、お前を倒す! そして特C級の資格を得る!』

「……はいはい、勝手に言ってろ。こちらとしては、さっさと済ませて帰りたいからな」


 シバの素っ気ない返答に、パワードスーツの姿が怒り肩になる。

 その肩回りの関節のフレキシブルさから、パワードスーツの品質の良さが伺える。

 しかし質が良かろうと、それは機械部品の集合体でしかない。

 そして専用の対策がされていない機械なら、シバの念動力の敵ではない。


「まあ、程ほどにやるとしようか」


 シバが呟きを放った直後、戦闘開始の合図が電子的な信号として送られてきた。

 シバは軍用ゴーグルで、パワードスーツの青年は脳に埋め込まれた生体機械で信号を受け取ると、両者は直ぐに行動を開始した。

 シバは自分の超能力を活かすために接近を試み、パワードスーツの青年はシバの念動力を警戒して接近を阻止しつつ距離も取ろうと動く。

 パワードスーツの腕の部分が展開し、単銃身の機関砲が現れる。

 ドッドッとバスドラムを叩いたような音が響き、大口径の鉄鋼弾がシバに撃ち出される。

 生身で食らえばひき肉になる威力がある弾丸。

 だが、その重さは一kgもない。

 この軽さなら、シバの念動力は楽々と制御下に組み込むことができる。

 シバは自身の足元に撃ち込まれようとした弾丸を奪取する。その弾丸を自身の胴体部の周囲を旋回させてから、パワードスーツへと撃ち返した。

 命中重視で胴体部を狙ったが、パワードスーツの装甲が一番厚い部分ということもあって、弾丸は受け止めてしまう。


「胴体じゃなくて、機動力を削ぐため足を狙った方が良かったか」


 シバは反省の弁を呟きつつ、逃げるパワードスーツを追いかける。

 シバが本気を出せば、パワードスーツには一瞬で近づける。しかしあえて、傍目にも常識的に映る速度で追いかけていく。

 なぜかというと、この戦いは見学者の要望があって実現したもの。つまりは見学者の目を楽しませる戦いをする必要がある。

 つまりは、パワードスーツの青年にやるだけやらせた上で、シバが圧勝しなければいけないのだ。

 シバが考えを巡らせている間に、パワードスーツの機関砲が再び腕の中に戻る。弾丸を撃ち切ったのか、それとも効果がないと見て銃撃を取りやめたのか。

 どちらにせよ、パワードスーツは次の動きに入っていた。

 関節のモーターの駆動音が高まり、装甲表面に紫電が走り始める。

 どうやら、シバへ接近戦を挑もうとしているようだ。


「遠距離攻撃の手段は、銃撃以外に持ってないのか?」


 シバは煽るように言うが、パワードスーツの行動に変化はない。

 それを見て、シバは舌打ちする。

 シバの得意分野である接近戦などされたら、逆に手加減がしずらいからだ。


「さっき、俺がイザーン型を撃破した様子を見て、どうして接近戦を選ぶんだか」


 シバは失望したように言ったが、パワードスーツの青年が何も考えていないといことはない。

 モーターを高稼働させることで、素早い身動きを実現させる。装甲表面に電気をスパークさせておくことで、接触に危険性を持たせる。

 どちらも、接近戦を得意とする相手を尻込みさせるには、どちらも良い示威行為である。

 しかし悲しいかな、どちらもシバには通用しない。

 シバなら、自身を念動力で操れば音速以上の速さで行動できるし、電気には重さがないため仮に十億ボルトあろうとも念動力で捻じ曲げられるのだから。

 つまり接近戦を選択した瞬間から、パワードスーツの青年は見せ場もなく終わる結末しかないことになった。


『うらあああ!』


 パワードスーツのスピーカーから声を出しつつ、青年が殴りかかってくる。

 シバはあえて紙一重のところで避けつつ、念動力でパワードスーツの腕部を分解する。その間、装甲表面に走っていた電気がシバに伸びてきたが、念動力で弾き飛ばして無力化もしている。

 両者が交差した後、殴り伸ばしていたパワードスーツの腕が、フレーム以外の部品がバラバラなって地面に落ちた。


『んな!?』


 驚きの声を上げる青年。

 だが同時に、シバも念動力でパワードスーツの中身を把握して驚いていた。


「面白い造りだな。電源コードを一切持たないパワードスーツってのは」


 そう、青年が乗るパワードスーツには、各部に電力を供給するための線が一つもなかった。

 しかし青年の超能力と、電流の仕組みを考えれば、あり得る仕組みではある。

 青年は電気を操ることができる、超能力者だ。

 その超能力で必用な部分に必用なだけの電力を供給できるのだから、電力の通り道でしかない電源コードは必用ない。むしろ、コードを通すことでロスが生まれたり、荷電流でコードが燃えたりすることを考えると、コードがあることは害悪とすら言える。


「惜しむらくは、電力がバッテリー依存ってところだな。超能力でパワードスーツを駆動させられる電力を生めたなら、一芸特化として認定されたかもしれないな」

『余裕面をして!』


 パワードスーツが全身でタックルを仕掛けてくる。

 その総重量は百kgを越えているため、その全体を止めることは、シバの念動力には出来ない。

 しかし見え見えの攻撃なら、避けることは造作もない。

 シバは突っ込んでくるパワードスーツの横を通り抜けるように動きながら、自身の能力の範囲内に入ったパワードスーツの部分を解体した。

 バラバラと部品が地面に落ちた後で、大半の部品を失ったパワードスーツが擱座する。


『「なんと?!」』


 肉声とスピーカー音声の二重に、青年の声がする。

 見れば、表面装甲が外れて、中にいる青年の姿が見えてしまっている。

 シバは少し距離を開けてから向き直ると、青年に声をかける。


「俺の勝ちってことで良いよな?」

『「まだ――」』


 戦闘の続行を言おうとした青年の顔のすぐに、シバは念動力で拾った小石を撃ち込んだ。

 装甲が失われているため、撃ち込まれた小石はパワードスーツの表から裏へと通り過ぎていった。


「次は当てるが、その言葉の続きを言う気はあるか?」


 シバが最後通告のように言うと、青年は顔を百面相した後で諦めた表情になって降参を告げたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 範囲内の物を動かせるなら粒子は無理なのかな? 特に素粒子などを動かせて加速させれば高エネルギーが抽出できるし他にも加速させた素粒子同士をぶつけさせればえげつない事を出来るしな
[一言] なんとなく「その子の裸が見たいわ」と言っているオバさんの一コマが浮かびました
[一言] お偉方は見世物として楽しめるかもしれませんがシバからしたら仕事が増えただけ面倒ですわな
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