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パワードスーツ乗りの超能力者の再認定は、D級のままという判定になった。
シバとしては、さりもありなん、といった感想だ。
しかし当の超能力者は、不服のようだった。
「なんでだ! ああして、有用性は示せただろ!」
パワードスーツを下りて抗議している青年。その見た目は、身長は百七十cmほどの背丈で、手足を人間の手足に沿ったフォルムのままに機械化している。股間から首にかけてノースリーブの水着のようなボディースーツを着ていて、その背部の首から尾てい骨にかけての部分に背骨を模したような作りの金属機械がくっ付いている。
機械化した手足と背中の金属機械の各所に接続端子があり、パワードスーツと直結できるようになっている。
その青年が機械化した手を振って示す先には、全て大破したイザーン型たち。
確かに青年は、パワードスーツを用いてイザーン型を倒してみせた。
しかし研究者たちも見学者たちも、青年の主張に対して冷笑を返す。
その中で研究者の一人が、青年に評価を改めて告げる。
「いやいや、残念でもない当然な結果でしょう。自身の超能力だけでなくパワードスーツまで持ち出して、イザーン型にあれほど苦戦していたら、とてもとても特C級どころかC級とすら認定することはできませんねえ」
「なんだと!」
怒る青年を無視する形で、その研究者はシバに手招きする。
ここでようやく、シバは自身がこの場に呼ばれている理由が、特C級のサンプルとしてなどだと理解した。
「この彼は、コードネーム、コンバット・プルーフ。特C級の超能力者だ。彼がイザーン型と対戦する光景を見てから、また同じ主張をしてくれたまえ」
研究者はそれだけ言い残すと、他の研究者と見学者を引き連れて、セーフゾーンへと入った。
一方で青年は、間近で見学する気なのか、パワードスーツに乗り込んでから立ち尽くしている。
シバは勝手に決められた戦闘に面倒くささを感じつつも、対戦相手の登場を待った。
やがて現れたのは、新たなイザーン型。数は二十一体。
二十一はキリの悪い数字のように感じられるが、三体一組の運用で七組と考えると、そう悪くはない数字でもある。
「あー。もう倒していいのか?」
シバが軍用ゴーグルの機能で研究員に通信を送ると、了承の意が返ってきた。
そういうことならと、シバは念動力を発動し、自身を前へと高速で吹っ飛ばした。
あっという間にイザーン型の一体に触れられる位置までやってくると、念動力を再発動させる。
シバが念動力で把握した、目の前のイザーン型の中身。
イザーン型の肝と言える、生体脳を用いた超能力発動機器はイザーンと同じもの。
しかしそれ以外のモジュールについては、生産効率と整備性を考慮してか、ごく普通の機械と同じ作りになっている。
つまりは、シバの念動力で解体されないよう、各部を繋ぐ留め具を溶接したり、機内の電源コードの端子を接着することを、全くしていなかった。
重量についても、量産性を考慮してか、前より軽量化されている感じだ。
それこそ、幾つかのパーツを外せば、シバの能力上限である百kg以内の重量に出来そうなほどに。
「量産型だけあって、色々な部分が簡素化されているわけか」
こういった相手なら、シバは無敵だ。
発動したままの念動力で干渉して目の前のイザーン型を、生体脳があるブラックボックス以外の部分を、完全にバラバラにしてしまう。
そうして生み出した数ある部品を更に操り、周囲にいる他二機のイザーン型へと射出する。
近距離かつ高速で撃ち出した部品を、機体のカメラで捉え切れなかったのか、攻撃を受けたイザーン型が成す術なく蜂の巣になって大破した。
シバは大破した二機のイザーン型の部品を幾つか外し、どちらも念動力の適用重量であることを確認する。
その間に、無事な十八機のイザーン型が、シバを取り囲んで攻撃しようと移動と武装展開を開始していた。
シバは軍用ゴーグル越しにその行動を見つつ、その隊列の先頭にいる機体へと、大破させたイザーン型を念動力で投げつけた。
銃弾もかくやという勢いで飛んできた百kgほどの残骸が、飛翔先にいるイザーン型へ。そのイザーン型と僚機の二機が念動力で残骸を防ごうとした素振りがあったが、一瞬だけ止めることが精一杯で、残骸が衝突した。
そして同じ方法で、シバはもう一機を破壊した。
これで残りは十六機。
ここまでと同じ方法を繰り返せば、さほど時間も要らずにイザーン型を全滅させることは可能だ。
しかしシバは、チラリとパワードスーツの方に目をやると、戦い方を変えることにした。
「特C級がどの程度のものか見せるには、この戦い方じゃインパクトが足りないよな」
シバは最初に壊したイザーン型の残骸から破片を出来るだけ念動力で浮かせると、自身の周囲で高速回転させ始めた。
その周回運動の中で、各破片の重量と挙動のクセを掴みつつ、更に加速を加えていく。
やがて、破片と破片の間に見えていたシバの姿が、高速回転する破片の残像で像が遮られるようになり、やがて姿が見えなくなった。
明らかな攻撃準備中の様子に、生き残っているイザーン型がシバの攻撃を阻止するべく動く。内蔵武装である銃器で銃撃しながら、丸鋸攻撃を狙って接近していく。
しかしある程度まで近づいたところで、シバの周囲を回っていた破片たちが、まるで炸裂弾かのように周囲へと放出された。
特攻を決めて動いていたイザーン型も、破裂の予兆を察知して飛び退ろうとしたイザーン型も、それらの破片を機体のそこかしこで受ける羽目になった。
量産性を考えて装甲厚も以前より薄くしていたため、全ての機体が破裂する勢いで飛んできた破片によって大きく傷つけられた。
運悪く脚部に当たった機体は行動不能になって擱座する。運よく軽傷で済んだ機体たちは、無事な仲間を集めてフォーメーションを再編し始める。
しかし擱座して動けない機体があるということは、次にその機体がシバに利用される運命であることと同義でもある。
シバは破片を放出した後、念動力で自身を高速移動させて擱座した機体へと取り付く。そして擱座機体を分解して破片や部品を念動力で掌握すると、再び自身の周囲を高速回転させ始める。
しかし今度は、先ほどのような破裂させはせずに、破片や部品を超高速で移動するままのスピードで一つずつ投射し始める。
音速を優に超える勢いで投射された破片や部品たちは、イザーン型のセンサーで捉えられる限界速度を越えていたらしく、なんの妨害も受けないままにイザーン型の機体を次々と破壊していく。
未だ無事なイザーン型たちも黙ってやられるわけはなく、シバに攻撃しようとしたり、シバからの攻撃を避けようとしたりする。
しかしシバに近づけば、その分だけ投射される物体に当たる猶予時間を失うことになるため、攻撃を選んだ機体は直ぐに大破の運命へ。
回避を選択した機体は、最初の一発を運よく逃げることができたものが多かったが、第二射、第三射までは避けきれなかった。
こうして、時間にしてみれば三分も経ってないのにも関わらず、二十機いたイザーン型はシバの念動力の前に全て大破した。
「ふう。これで良いか?」
シバは顎先から垂れようとした汗を手の甲で拭いつつ、軍用ゴーグルの機能で通信を送ると、能力判定する研究員から『要望通りだ』との返信がやってきた。




