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政府からの広報によると、カジノにいたD級念動力者のように、弱い超能力者たちは一般企業に就職したり国外のスパイになったりと、順調に新たな道に進んでいっているようだ。
しかし真っ当な職に就くことを選ぶ者ばかりじゃない。
超能力という特異な力を活かしつつ、自身の金銭欲を満たすために、犯罪組織に身を売る超能力者もいる。
犯罪組織に超能力者が所属すると、その犯罪組織の武力が高まる。犯罪組織の武力が高まれば、その分だけ社会の平和が脅かされることに繋がる。
だから政府は、超能力者を手に入れた犯罪組織を、積極的に壊滅するような措置を取ることにした。
「そういった思惑で、警察特殊部隊と多数のイザーン型の円柱機械を主力にして、俺とシーフキーがバックアップで、犯罪組織の撲滅が行われるようになったわけか」
「これから先、イザーン型が増えれば増えるほど、この国の治安は改善していくだろうしね。警察機構は、大規模な成果を上げられる最後の機会だって、張り切っているみたいだよ」
犯罪組織が居住している建物に、特殊部隊が押し入っていく。イザーン型も、その特徴である複数の超能力を駆使して、特殊部隊とは違う場所から入っていく。
その様子を、シバとシーリはドローンからの映像で眺めている。
二人がいるのは、警察車両の一つ――複数のモニターが壁に貼られているバンタイプの防弾車の中。
そのモニターたちの映像には、複数個所で犯罪組織の撲滅にあたっている人と機械の映像が映し出されている。
「不測の自体のバックアップたって、戦力は俺だけだろうに」
「いざとなれば、ドローンを特攻させるぐらいはできるけど?」
「ドローン一機の犠牲で、どれだけの成果が得られるって思ってるんだ?」
シバが不測の事態が起こった場所に急行する役であり、シーリは各地の情報収集と犯罪組織がいる建物の電子制御の奪取を任されている。
しかし、犯罪組織に超能力者が所属したといっても、所詮はC級以下の超能力者だ。
各種超能力の特異性は危険性を孕んでいるが、多数の特殊部隊員やイザーン型の物量の前には無力でしかない。
実際、手から火の球を放つ超能力者が矢面に立って抵抗しているが、特殊部隊からの銃撃によって無力化されているし、ビルの屋上から上空へと飛んで逃げようとした超能力者はイザーン型自身が飛翔突撃して撃ち落としている。
「俺たちの出番は無さそうだな」
シバは座席の背もたれに体重を預けながら、目を覆っている軍用ゴーグルの機能を使って、インターネットニュースサイトに接続する。
その最新記事欄にあるのは、犯罪組織の撲滅に政府が動き出したというものだけ。
ニュース記事の中身も、犯罪組織の危険性や撲滅への打倒性に終始していて、特殊部隊やイザーン型が活躍しているといった感じの文言は書かれていない。
あきらかに情報統制されていた。
「特殊部隊やイザーン型を書いても、治安維持に貢献こそすれ、悪い方向には働かないと思うんだがなあ」
「ニュース記事の検閲は、超能力者が犯罪組織に関わっているって点を隠すためでしょ。一般企業に超能力者が就職する際に、変な色眼鏡でみられかねないし」
人間社会ではよくあることだ。とある野球選手が違法薬物に手をだしていたら、野球界全体が不道徳とみられてしまったり。とあるバンドメンバーが淫行に走ったら、他のメンバーまで性に奔放なイメージを持たれたり。
いま政府は、下級の超能力者たちに一般企業にて職を得させようとしている。
その方針の障害に、超能力者が犯罪組織に入っていたというバッドイメージがなるかもしれない。
そういった障害を生まないために、メディアに情報統制をかけた。
そんなシーリの説明に、シバはそういうものかという表情になる。
「類似の人間が悪人でも、当人が必ず悪人であるわけじゃない。そういった人となりを判別するために、人事の採用担当がいるはずなんだが」
「人は他人の心の内までは見透かせないもんだし、類似品から内容を推測するのはおかしい真似じゃないよ」
「工場が作る同一ロットでも良品があれば不良品が出るんだ。その違いを見極めなきゃ、損をする」
「そういった見極める目を持つ人は稀だよ。誰も彼もが、培った常識という眼鏡で、目を曇らせているって。私たちもね」
「俺は違う――と言い切れないな。業が深い」
そんな会話をしながら、二人が複数のモニターに目を向けていると、幾つかの戦場で変わった状況が起こっていた。
その中でも三箇所が、特異な状況に陥っていた。
一つ目は、全身を機械化した三メートル大の男が大暴れして、特殊部隊やイザーン型を攻撃している。
二つ目は、建物内の未制圧最後の部屋への出入口が、半透明な壁で覆われて中に入れない。
三つ目は、とある男の後ろ頭から伸びたコードが犯罪者たちに鹵獲されたイザーン型に繋がれていて、その男が火炎放射や念動投射で固定砲台化している。
「手助けに入る?」
シーリの問いかけに、シバは数秒考えてから首を横に振った。
「助けに行くまでもないだろ。少し助言すれば解決できる」
「状況を打破する手段を思いついたわけだ」
「まあな。あの巨大サイボーグは、普通に力押しで倒せる。壊れても補充が可能なイザーン型を全面に押し出して、火力で叩けばいい」
「半透明の壁の方は?」
「あれは障壁系の超能力者が張っている壁だ。発生させているのがC級以下の超能力者だと考えると、障壁を張ったのは出入口がある壁一面が限界の広さだろう。その部屋の横の部屋から、壁を破壊すれば中に入れるはずだ」
「固定砲台は?」
「本人を狙うんじゃなくて、コードの先にある鹵獲されたイザーン型を狙う。あれが破壊できれば、あの男の能力は弱体化するはずだ」
「固定砲台にならないほど弱くなれば、対処可能になるわけね。それにしても、そうポンポンと対策が思いつくものね」
「任務で転戦してきたからな。似たような状況に陥ったことがあるからな」
シバの対象法がシーリによって、各地の部隊に届けられた。
すると間もなくして、各地の戦況が好転し、続々と犯罪組織が撲滅されていった。
それからほどなくして、作戦終了の知らせと、シバとシーリの任務完了の通達が来たのだった。




