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シーリが懸念していた通り、政府と大企業とが主体となって低級超能力者の取り締まりに動き出した。
しかし予想に反して、その活動は穏当なもの。
それはシバに送られてきたメールを見ても明らかだ。
「C級以下の超能力者への一斉送信メールと、俺個人に当てたメールか……」
シバが中身を確認すると、一斉送信メールの方は、今後の身の振り方に対する忠告が書かれていた。
装飾部を外して要約すると、政府および大企業からの任務や依頼を頼むことが少なくなるので、超能力を使用する以外の仕事に就け、という内容だ。
「超能力者故に許していた特約も解消される、ねえ。つまり、他の仕事を持ってなきゃ、無職扱いってわけだな」
シバが住む国において無職は、価値を消費するだけの存在であり、資本主義社会の敵と位置づけられている。
職種を問わなければ、就職やバイト先は沢山ある。希望した業種に空きがなかったら、とりあえずは別業に従事し、後に転職しろ。それもいやなら、バイトしろ。それでも無職でいるのなら、重税を課し、ありとあらゆる保護や権利を失効させる。これが、この国の常識だ。
いままで超能力者たちは、政府や大企業に仕事を与えられる、個人事業主扱いされていた。たとえ、年に一度しか依頼が来ないような、低級の超能力者であっても。
つまり働いている扱いだったので、手厚い保護や権利を与えられていた。
しかし今回の一斉送信メールによって、そういった特権は失効となり、C級以下の超能力者は別の働き口を探さないといけないことになった。
「これは荒れそうだが――反乱を起こしたら粛清だろうな」
いままであった権利を取り上げられれば、人は騒動を起こすもの。
しかしこの国において、無職の主張は塵にも劣る価値しかない。
価値を損じるだけの存在は、始末して損失を生じさせないようにしようと、国が動くのは目に見えている。
もっとも、国もC級以下の超能力者たちを無暗に殺したいわけではないようだ。
一斉送信メールにはリンクがあり、その先には就職斡旋ページに繋がっていた。
「色々と斡旋先はあるが、外国内でのスパイ活動ってのもあるのか。スパイ活動費が配られるから滞在先で働く必要はないって書いてあるってことは、国内で無職になられると困るが、外国でなら目を瞑るってわけだな」
国内で無職を許せば、悪貨が良貨を駆逐する現象で、さらなる無職を生む土壌となる。これは国と経済の価値を減じさせる許せないことだ。
しかし外国で無職生活を遅らせれば、外国で無職を感染させる病原体となり、その外国の価値を下げさせることに繋がる。そして外国の価値が下がれば、相対的にシバが住む国の価値が上昇することに繋がる。
そういう考えの下、就職したくない超能力者たちには、スパイという肩書を与えて外国へ放逐したいと計画しているのだろう。
「逃げ道まで斡旋されているってことは、これを拒否したら問答無用だろうな」
政府と大企業たちの方針に従えない人物は、この国で生きてはいられないということだ。
シバは一斉送信メールを閉じると、シバ個人に送られてきたメールを開封する。
「へー。俺は今までと同じく政府からの依頼がくるから、特約解除にはならないのか」
シバは、自身から二メートル以内の空間限定なら、ほぼ最強の念動力者だ。
加えて、自身を念動力で飛ばせる機動性に、百kg以内の人物なら救助や警護することだって可能。
その効果範囲と能力適用重量の低さからC級として扱われているものの、限定状況下ではA級の超能力者以上の働きができる。
そんな特異な念動力を持つ存在を、政府は手放したくなかったのだろう。
しかしながら、シバはマルヘッド高等専門学校の生徒であり、駆け出しではあるが作品を売り出している芸術家でもある。
超能力者に与えられる特約がなくなっても、価値を生み出す存在になれているため、対して困らない。
「不必要だと感じる人に特約が残り、必用だと思う人の特約は解除される。社会の仕組みというのは、得てしてそういうものだな」
今回の騒動に関係しないと分かり、シバは自身の製作物に取り掛かるため学校へ行くことにした。
先日に課題として提出したカタナは好事家に購入され、評判となった。
そのため、同じ製法のカタナやナイフを作ってくれという依頼が、何件か舞い込んでいた。柄や鞘は必要ないと付け加えられて。
シバとしては、柄や鞘の造形に力を入れたので、カタナだけ評価されたことが面白くはなかったが、求められたからには作ろうという職人根性で依頼をこなす決意をした。




