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 シバは、五メートル大の人型兵器の射線に移動し、射撃された弾丸を念動力で受け止めた。

 シバの眼前二メートルの場所で停止した弾丸は、子供の握り拳ほどもありそうな大きさだった。

 一発で二百gはありそうな弾頭。

 それが、人型兵器が持つ銃器から次々と発射される。それもマシンガンのような連射速度で。


「んな、馬鹿な!」


 シバが驚くのも無理はない。

 弾丸が重いということは、それを押し出す火薬の量も増やす必要がある。火薬の量が増えれば、爆発の威力が上がる。爆発の威力が上がれば、銃身にかかる負担も大きく増える。そして銃身の負担が設計以上になれば、銃身は破裂してしまう。

 そのため、対物ライフル用以上の重さの弾頭を連射するなど、銃身の寿命を加速度的に減らすようなことは現実的じゃない。

 そう、現実的じゃないはずなのに、相対している人型が持つ大きな銃からは絶え間なく銃弾が発射されている。

 これほど連射しても銃が壊れない自身があるのか、人型兵器の背部マウントには弾薬が詰まった箱が収まっていて、その箱からベルト式で銃に銃弾が供給されている。

 シバは混乱しかかった頭を努めて冷静に保つと、銃になにかしらのカラクリがあるはずだと注視する。

 そして、ある事実を理解した。


「銃口から、マズルフラッシュも、白煙もない。火薬式じゃないのか? レールガンやコイルガンのような電気式――でもないな、銃の構造が電磁を発生させるものにしてはシンプル過ぎる」


 最新の無煙火薬であろうと、爆発という化学反応を起こすからには、多少の光と煙の発生は避けられない。

 普及が始まった電気式の発射機構は、使用する膨大な電力を支えるバッテリーと、電気を発射の力に換える仕組みが必用となる。

 そのどちらも銃にないとすると、弾丸を発射する仕組みは別にあるということ。

 そしてシバは、いままでに例の要人を襲いに来たものたちの特徴を思い返して、理解する。


「あの銃で銃弾を発射する仕組みは、念動力か。弾を念動力で押し出し、銃身は向かう先を修正するガイド役。そして、この一連の襲撃は、量産可能な超能力兵器のお披露目会ってわけか」


 シバは、そう護衛の裏事情を予想して、肩をすくめる。自分の役目が、兵器の性能評価試験に置く障害なのだと理解して。

 そして要人を守るため、職務に殉じた護衛たち。

 捨て駒にされたからには、戦闘技能と要人警護しか能のないような、この国の資本主義社会においては『非生産階級』という価値なしと判断された者たちだ。

 そうした面々は、イザーン型の円柱機械という瞬時に量産可能な戦闘と警護を両立できる兵器の登場によって、将来的には職を追われる未来が待っている。

 その未来における失職に則した退職金に失業手当や次の仕事の斡旋などの世話を、雇った側が面倒に思って、すぐに殉職による見舞金という金払いだけで終わらせられるよう、この舞台を整えたことが予想できた。


「この国に住む人間は価値を産め、さもなきゃ死ねってわけか。段々と主義主張が過激になってきているな」


 シバが考察を終えて溜息を吐いたところで、人型機械からの銃撃が止まった。弾薬箱からのベルトがなくなっているため、どうやら弾切れのようだ。

 これで銃撃はなくなったと、シバが安堵しようとする。

 その想いと裏腹に、人型機械の銃口から今度は火炎放射が始まった。

 シバは念動力で炎とそれに伴う熱気を遮断しながら、苦笑いする。


「イザーン型がそうだったように、複数の超能力を使えて当たり前か。しかし、困ったな」


 シバは念動力で防御を続けながら、背後に守っている車のドアをノックする。

 二度、三度と続けると、ドアのガラスが下がり、女性の護衛の一人が目を覗かせた。


「どうしたんです?」

「退避勧告だ。何秒か火炎放射を止めさせるから、護衛対象を連れて車から出て逃げてくれ」

「どうしてですか?」

「俺は炎と熱気を防ぐことはできるが、炎で焙られた車体が伝える熱気までは防げない。そして車体の一部は、俺の能力の範囲外だ。言いたいことはわかるよな?」

「このままいけば、車の中の温度が上昇始め、やがて車内が蒸し焼き状態になり、我々は死ぬわけですね。わかりました。退避します」

「いまから十秒後に、火炎放射は止める。十、九、八――」


 シバがカウントダウンを行うと、車の後部座席が慌ただしくなる。シバが横目で確認すると、太って体重が重い要人を、女性の護衛二人が抱えて移動する準備を行っていた。


「――三、二、一、ゼロ!」


 カウント終了と同時に、シバは自身の足元に落としていた拳大の弾丸の一つを念動力で掴むと、防いでいる炎の向こうへと射手した。

 直後、金属同士が衝突する音と同時に、炎の向きが車から空へと変わった。

 視界から炎が消えたことで、人型兵器の様子が見えた。

 銃を持っていない方の腕でシバが放った弾丸を防御したようだが、衝突で受けた衝撃で仰け反ってしまっている。そして仰け反ったことで、手にある銃の銃口が上へと逸れたようだ。

 こうして火炎放射の切れ目が出来た直後に、シバがいる場所とは反対側の後部座席のドアが開き、要人と護衛二人が走って逃げ始める。どうやらパンクした車に変わる足に目星をつけていたようで、荷台に覆いがかかったトラックへ向かって走っていく。

 シバは三人が逃げる方向に合わせて移動して、常に人型兵器と三人の間に位置するように心掛ける。

 一方で人型兵器は、弾丸を防いだ腕を垂らしながらも、再び火炎放射による攻撃を向けてきた。

 シバは火炎放射を防ぎつつ、今度は自分から相手へと近づいていく。

 さっきまでは車という停止物を守る必要から、あの場から動けなかった。

 しかしいまは、要人と護衛を背に守ればいいだけだ。

 位置関係さえ気を付ければ、人型兵器からの攻撃を防ぎつつ反撃することも可能である。

 だからこそシバは、自分から動いてでも人型兵器を破壊することで、状況を安定化させようと試みた。

 このシバの判断は、いままでで得られた情報からすると、決して間違いないではなかった。

 しかし知り得ない情報を知っている者からしたら、このシバの行動は悪手でしかなかった。

 なにせ、要人と護衛がトラックの運転席に入り込んだ直後、トラックの荷台にある覆いの内側から巨大な手が突き出てきて、まるで起床時に頭上の目覚ましを止めるような手つきで、運転席を潰すなんてことをやってみせたのだから。

 シバは接近して人型兵器の脚部を念動力で分解した直後に、運転席が押しつぶされた音を聴き、慌てて振り向いた。そして、自分が鉄器の策にハマっていたたことを理解した。


「マジか。もう一機潜んでいたってのかよ」


 トラックの荷台から、覆いを剥ぎながら現れたのは、いまシバと相対しているのと同じ人型兵器。どうやら膝を抱えた状態で寝転がることで、荷台の中に収まっていたらしい。

 シバはトラックの運転席に目を向け、完全につぶれた金属の隙間から大量の血が流れ出ている様子に、舌打ちする。


「チッ、任務失敗か」


 シバは失敗の腹いせに、いま相対している方の人型兵器を、可能な限り分解してやった。そうして現れたのは、コックピット部分に納まる、五個のガラス筒と同じ数の培養脳。ガラス筒と培養脳の大部分は機械ユニットに組み込まれていて、そのユニットから人型機械の操縦部にコードが伸びていた。

 シバは舌打ちし、念動力で培養脳を全て潰した。それでも人型機械がシバの排除に動こうとしているあたり、本当に培養脳は超能力を使うための部品でしかないようだ。


「これ以上の戦闘は無駄だな」


 シバは状況判断を下し、大きく飛び退いた。

 直後、シバの護衛用のバイザーの通信機能が復旧した。そしてメールの着信があった。

 シバが二機の人型機械を警戒しつつメールを開封すると、それは政府からの任務終了通知だった。

 その通知によると、どうやらシバへの任務が護衛というのは表向きであり、本来の任務は襲撃機に対する評価員ということらしい。そして評価員だからこそ、相対した兵器に対する寸評レポートの提出が求められた。


「任務報酬の他に、レポートに対する報酬もあるのか。隠さずに先に言ってくれれば、もっと兵器のことを観察したってのに」


 シバは物々と言いながら、近場に置かれていた資材から鉄筋の一つを念動力で持ち上げる。そして、トラックの荷台から出てきた方の人型機械に高速で投射した。

 投げつけられた鉄筋は、人型兵器に命中する直前で一瞬減速したように見えたが、結局はコックピット部を貫かれてしまう。

 その光景を見て、シバは満足した。


「培養脳を何個も積んで、俺以下の念動力しか出せないのか。ここは問題点としておくべきか」


 シバはアレコレと文面を考えながら、現場を後にする。その思考は既に提出するレポートのために割かれていて、殉死した護衛のことや、要人の正体などについては、もう気にした様子がなくなっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 逆恨みした研究者達が伝手を使って出した"騙して悪いが"する為の偽任務でしただったりしそうですね
[一言] 失敗前提みたいな護衛任務だったんですねえ 量産できる兵器でここまでシバを追い込めるのなら結構アリな感じもしますが上はどう判断するやら
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