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 バラバラと銃弾がやってくる。

 だが、車の天板の上に乗るシバに近づいたところで、ピタリと銃弾が空中に静止し、飛来してきた順にバラバラと道路へと落ちていく。

 無傷の車を見れば、発車した弾丸が無力化されていることが、襲撃者にも分かったはず。

 しかし銃弾は途切れなくやってくる。

 シバは、この状況を不思議に思い、周囲に目を向ける。


「車は走っているんだぞ。どうして火線が止まらないんだ?」


 通常の襲撃なら、ある地点に銃火器を集中して集め、標的がその場所を通過するときに集中攻撃して仕留める。

 その性質上、場所を移動してしまえば、攻撃は納まる。

 しかし襲撃開始から現在まで、襲撃者側の攻撃が途切れたことがない。

 いま車が走っている道に沿って、広く襲撃者と銃器を分布させているのなら、この途切れなさに説明はつく。

 しかし、そんな方法は現実的じゃない。襲撃側の人員や銃器が、あまりにも大量に必用になるからだ。それこそ、一軍を総動員して配置しなければ叶えられない戦法である。


「可能性はもう一つあるな」


 シバが目を向けるのは、車の進行方向先にある高層ビルの上。

 中州の街は、その名の通りに広大な河の中にある中州に作られた街。経済活動の活性化のために道路は広くとられていることもあり、更に限られることになる住居用の土地を生かすために、高層ビルが乱立している。

 そのビルの屋上となると、裸眼で見通すには高い視力が必用となる。

 シバの肉体は機械化を一切していないため、その視力でビルの上を見たとして、何かがいてもゴマ粒ほどにしか像が見えないので、判別ができない。

 だからこそ、あえて上を見ることはせずに、念動力による防御に集中していた。

 しかし長く続く襲撃の正体を知るためには、その頼りない視力でも生かす必要がでてきたのだ。

 そしてシバがビルの上を見ると、子蜘蛛のような形のものが、ビルとビルの上を飛んでいる光景が見えた。

 シバの目には子蜘蛛と見えるが、高層ビルの屋上という離れた場所にある像と考えると、その大きさは小型車程度は確実にある。


「四脚ないしは六脚の戦闘車ってことか?」


 シバはイマイチ自分の視力に自身がない。しかし、襲撃者が脚部付きの戦闘車を持ち出してきたのなら、この長い襲撃にも説明がつく。

 なにせ脚部を持つ戦闘車とは、まさしく中州の街に合うよう設計された戦闘用の車で、ビルの上を飛び回りながら目的地に迅速に着くことを目指した設計になっている。

 つまるところ、何機かの脚付き戦闘車を運用していれば、この中洲の街に限れば、延々にビルの屋上を移動しながら攻撃をし続けることが可能なのだ。

 敵の正体が判明したが、シバに打つ手は限られていた。


「あー、どうしたものかな……」


 そう困ったように呟いてしまうのは、限られた手が防御か攻撃かの二択しかないからだ。

 防御は、いまと同じで、シバが念動力で車を防衛し続けること。敵が脚部付き戦闘車といえど、弾薬は無限じゃない。防御を続けていれば、弾薬が底をついて撤退するしかない。それまで粘り切れば、要人護衛は成功となる。

 攻撃は、シバが車の防御を捨てて、脚部付き戦闘車を排除しに向かうこと。この状況を手っ取り早く終わらせるには、これが一番の手段であはある。しかし車の防御力が著しく低下するため、要人の護衛を失敗する可能性が高まる。

 どちらも一長一短があり、護衛と考えれば防御一択だが、シバの心情的には攻撃一択。

 シバはどうしたものかと考えて、とりあえず中間の選択肢を取ることにした。


「この距離じゃ、牽制射にすらならないがな」


 そんな愚痴を零しながら、シバは飛来してきた弾丸を、真反対へと向かうように念動力で弾き返した。

 弾いた弾丸は、近くのビルの屋上へと飛んでいくが、それだけで終わったような感じだ。


「チッ。やっぱり射撃地点に返しても、既に移動しているよな」


 ビルの屋上から道路を走る車へ、そして車から再びビルの屋上へ。

 その弾丸の行き来にかかる時間が、敵の居場所がズレている理由になってしまっている。

 しかしシバには打開する手はない。なにせ裸眼では、ビルの屋上の様子などみれないのだから。


「軍用の多目的ゴーグルならともかく、護衛用のバイザーは望遠機能とかないからなぁ」


 どうしたものかとシバが悩んでいると、車が左に急ハンドルを切った。

 シバは念動力で車の天板に立っているため、落ちることはない。しかし、どうして急ハンドルを切ったのか、理由が分からずに混乱する。

 シバが進行方向だった場所に目を向けると、丁度多数のロケット弾が道路に着弾して爆発する場面だった。


「うおっ!? ロケット弾を避けるためってのは分かったが、これは誘い込まれているな……」


 軽自動車ほどしか大きさのない、脚部付きの戦闘車。そこに積めるロケット弾は限られる。

 その貴重なロケット弾を多数消費してまで、車の進行方向を変えさせたのだ。シバでなくとも、キルゾーンに誘い込もうとしているという意図が見え見えだった。

 車の運転手も理解はしているようで、道を外れようと試みる。

 だが、進路を外れた瞬間に濃い弾幕が進行方向とボンネットに集中してくるため、車の安全を考えると誘導されている道に戻るしかないようだ。


「仕方ない。キルゾーンに入ることは既定だな」


 シバは逃げ切ることを想定から外し、この車が進む先に何があるかを、護衛用のバイザーを用いてマップ検索してみた。


「中州の街の外縁か。あるのは、土地を広げるための工事現場だが……」


 中州の街は土地が限られているため、河を土砂で埋め立てて土地を広げる公共事業が常に行われている。河の水に土砂が流されないよう元の土地から少し先の場所に堤防を作った後に、元あった堤防を爆破解体して、その瓦礫と新たな土砂で埋め立てるのだ。

 その工事が行われている現場にしか、この先の道路は続いていない。


「工事現場ということは、周囲の建物を気にせずに戦闘できる場所ということ。もう嫌な予感しかしない」


 そんな場所に誘導するということは、周囲に被害を及ぼすような高火力兵器を持ち出してくるという、襲撃側からの意思表示に他ならない。

 一発で百kg以上ある弾道ミサイルが撃ち込まれたら、シバには防御する手段がない。


「敵が何をしてくる気か確認してからで、遅くはないか」


 シバだけなら、敵がどんな攻撃をしてきても、逃げ切る自信がある。

 だから護衛対象が護れなくなる最後の最後まで、状況を見極めることに決めたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一人の人間を始末するために随分と用意してきてるなあ そんな奴らが誘い込もうとしてるキルゾーンとか何が待ち受けているのやら
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