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イザーン型の新型円柱機械が、本格的に大企業たちが支配する中州の街にて、本格的に運用され始めた。
シバがマルヘッド高等専門学校へ行く道すがらにも、数機の新型円柱機械と出くわした。
しかし、円柱機械の全てがイザーン型になったわけではなかった。
その理由は、製造コストと運用コストだ。
「イザーン型は、従来機の倍の戦力はあるけど、従来機に比べて製造と運用の両コストが倍以上に高い。重要施設や重要人物の周辺に集中的に配置して、他は従来機のままにすることで、費用対効果に適した運用を目指しているみたい」
そんな事情を語るのは、政府からの任務で大企業のシステム部に出向している、シーリだ。
その任務は、シーリはホワイトハッカー役として大企業のシステムへ進入を行うことで、システムの脆弱部を暴露すること。
シーリの腕前が良過ぎるせいで、システムの穴が次々に発見されているらしく、その穴埋め作業が終わるまで暇になった。
だからこそ、こうして高専帰りのシバと、中州の街にしかないカフェで席を共にしているわけだった。
「それにしても、イザーン型って名称は、正式名称に決まったのか?」
「そうみたい。まあ、最初期型の名前に型名をあやかるのは、大昔の戦艦からの伝統だし」
「しかしイザーン型が蔓延るようになるってことは、超能力者の転換点に入ったってことかもな」
唐突なシバの感想に、シーリは目を瞬かせている。
「それって、どういう意味?」
「生体脳を使って低級の超能力者が量産できるのなら、人間を超能力者に改造する理由が薄れるだろ」
人間が成人するまでには、成長する際に使用する飲食物の消費に限ってすら、多大なコストがかかる。
その人間を超能力者に作り変えるなら、更にコストが上乗せされる。
しかしイザーン型の円柱機械なら、生体脳の培養と機械部品の組みつけだけなので、コストは限定的。むしろ量産すればするほど、単体のコストは下がる傾向になる。
それに人間の超能力者と違い、イザーン型の円柱機械は売り物だ。作れば作っただけ、売却益が期待できる。
そうしてコストと収入を考えると、人間の超能力者よりもイザーン型の円柱機械が重用されるであろうことは、予想するまでもない事実だ。
「じゃあ、人間の超能力者は今後作られなくなるってこと?」
シーリの疑問に、シバは首を横に振る。
「低級の超能力者を作らなくなるってことだ。B級以上、もしくはA級に限って超能力者を作ることは考えられる」
「それはまたどうして?」
「なんとなく、A級の超能力者は人間でしか成れないと、そんな予感がするからだ」
「なんとなく、ねえ」
根拠不確かな理由に、シーリは胡散臭げに見て来る。
だが少しして、シーリの顔つきが笑顔になる。
「シバの意見は直感のようだけど、政府も企業も似たような意見みたい」
シーリが指を一振りすると、シバのかけている電子バイザーに資料が送られてきた。
その資料とは、政府や大企業の超能力に関する研究のもので、最新のものだ。
シバがざっと確認すると、人造した生体脳を利用した、超能力兵器に関する資料だった。
「F級の超能力者の脳と生体脳を繋げて、超能力が向上するかの実験。機械化した身体に小型の生体脳を入れることで、機械化兵を超能力者に手軽に改造する研究。多数の生体脳で念動力を発揮させ、超大型の陸戦兵器を作る構想。色々と考えているみたいだな」
「それらの研究結果から、生体脳を用いて作れる超能力者はC級が限度みたい。技術的に難しいのもそうだけど、B級以上になる兆候すらないんだって。しかも、私やシバのような限定特化も無理って感じでね」
「それは、使い道が限られるな」
シバもシーリも、得意分野に限れば、A級にも匹敵する超能力を有している。
そうした強みのない超能力者となると、十把一絡げな強みのない存在でしかない。
「消耗品と割り切れば、使い道はでてくるが」
「だからイザーン型っていう消耗品を作ったわけでしょ」
そうだったと、シバは頷いてから話を戻す。
「つまり俺が予想した通り、生体脳を使った製品に低級の超能力者の枠を任せて、B級ないしはA級の超能力者の量産を超能力開発機構は目指すと考えていいわけか」
「狙って作れるだけの技術力が、超能力開発機構にあるか怪しいけどね」
「その技術が確立されるまでは、まだまだC級の活躍場所はあるってわけか。まあ、俺たちは身の振り方を考えなくていいだろうけどな」
「限定特化型の超能力者だから?」
「俺は高専生で、お前はプログラマーだ。どちらも価値を生み出す者で、この国では重宝される存在だろ」
「超能力者としてじゃなくて、一般人としての道ってことね」
会話の流れが一段落ついて、シバとシーリは互いに飲み物に口を付ける。
「それにしても、イザーン以外にも、生体脳を使った超能力の研究はしていたんだな」
「イザーン型は、シバが手に入れた他国の技術の流用品だからね。一番最初にロールアウトできたんだよ。他は研究中で製品化はまだ先だね」
「俺の予感としては、その研究中のものが暴走しないかを懸念するな」
「それはまたどうして?」
「イザーンのように知能がAIじゃなくて、判断するのが人間だからだ」
そして人間の判断とは誤るもの。
研究中の生体脳を使った兵器、その討伐任務が政府から来ないと良いなと、シバは考えて溜息を吐いたのだった。




