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 シバは、またイザーンと任務を共にするよう政府から依頼を受けた。


「んで、なんで集合場所が川向うの街の廃工場なんだかなぁ……」


 この廃工場は、以前にシバが壊滅させた犯罪組織が所有していた工場。

 犯罪組織が所有していたのだが、表向きの登記は健全な住民な名義で行われ、土地と建物の購入代金は株式公開している会社という、社会の闇の根が二重三重に絡んだ場所なため、他者に売却できずないまま。

 そんな用途が浮いた工場の中に、いまシバは一人で立っている。

 色々と複合して作っていたようで、金属加工用の機械から、天井のレール付きキャットウォークや、化学合成に必要な器具に至るまでが、平屋の工場内に広がっている。


「合流してから、任務の詳細が知らされるってことだったが」


 待ちぼうけの暇つぶしに、シバが独り言をつぶやいていると、工場の出入口に影が現れた。

 シバが目を向ければ、そこにいたのは大型の円柱機械が一つ。


「イザーン、来たか……」


 シバは馴染みになった円柱機械に呼びかけようとして、途中で言葉を濁した。

 イザーンと同じ見た目ではあるものの、その雰囲気が別の機体のように感じられたからだ。


「同型の別機体か?」


 シバが訝しんでいると、そのイザーンに似た円柱機械が武装を展開した。遠距離用の銃器の筒や、近接用の回転鋸、強襲接近用のジェットパックまで出す、大盤振る舞いだ。

 それだけじゃない。その円柱機械の周囲に稲光が連続し、バチバチと空気を焦がす音を立てている。

 シバは冷静に状況を確認し、自分に都合の良い解釈をすることにした。


「実践データを取るために、俺は標的役ってところか?」


 シバの言葉を肯定するかのように、円柱機械がジェットパックを噴いて飛んでくる。

 あまり距離が開いていないため、三秒もすれば両者の距離はゼロになったことだろう。

 しかしシバが大人しく待つ理由もない。

 シバは手近な場所に放置されていた鉄くずを念動力で持ち上げると、拳銃弾をやや越える速さで、円柱機械へ射出した。

 ジェットパックで近づく速度と、飛来してきた鉄くずの速度。その両方の速度を合わせた破壊力が、円柱機械に叩き込まれた。


『――ビッガ』


 機体を破壊された際にスピーカーに異常電流でも流れたのか、意味のない電子音が円柱機械から漏れる。射出された鉄くずは、円柱機械の外装をへこませつつ、余った威力で円柱機械を工場の出入口まで吹っ飛ばした。

 よほど良い場所に命中したのだろう、絶命した昆虫よろしく、円柱機械はへこんだ面を上に転がったまま動かない。


「まったく、これで終わりなのか?」


 シバが疑問を口にした直後、地面に倒れている円柱機械が新たに現れた車に撥ね飛ばされた。

 シバが驚きで目を丸くしていると、その車――大型のトラックが工場の出入口の前に停車し、荷台のウイングを広げていく。

 果たして荷台に収められていたものは、イザーンと同じ形の円柱機械がギッシリと。


「おいおい。あれ全部を相手にしろとか言うんじゃないだろうな?」


 シバは面倒くささを隠そうとしない独り言を呟くが、シバの事情など知ったことかとばかりに、トラックの荷台から円柱機械たちが降りてきて工場内に殺到してきた。



 シバの念動力は百kg以下のものしか動かせない。そして円柱機械がイザーンと同じなら、その重量は百kgを優に超える。

 円柱機械自体に念動力が通じないため、シバは仕方なく天井に渡されたキャットウォークの上へと跳んで逃げた。


「接近して念動力で解体――って手もできなくはないが、ああも殺到されると、万が一がでるからな」


 円柱機械も機械なため、整備の必要性から外装は外せる作りになっている。

 その外装の留め具を念動力で外せば、円柱機械は内部機械が丸出しになる。そうなれば防御力は激減するし、内部機械も念動力で解体すれば無力化することも可能だ。

 しかし操れる重量はあくまで百kgまでだ。

 ああも大量に解体対象がいると、解体の際に操る操る部品の重量が百kgを易々と越える可能性がでてくる。

 それに解体されながらジェットパックで突っ込まれでもしたら、シバの念動力じゃ止められない。

 安全を考えると、キャットウォークへの一時退避は理に適った選択と言えた。


「といっても、ここに居続けるわけにもいかないんだが」


 シバが天井へと逃げたことを、円柱機械たちは理解していたのだろう。円柱機械たちの身体から突き出た筒が、シバへと向けられ、そして銃撃が始まった。

 多数の銃口からの連続射撃で、まるでスコールが来たかのような厚い弾幕が殺到してくる。

 シバは鉄骨のキャットウォークに身を伏せる形で被断面積を小さくし、直撃弾だけを念動力で防ぐ。

 足場の鉄骨を連続して叩く弾の音を手と足で感じながら、シバは眉を寄せる。


「まあこうなるよな。そんで、無人機械ってことはだ、犠牲もいとわない方法をとってくるってわけだ」


 シバが視線を巡らすと、円柱機械の数機がジェットパックを噴射させて空を飛んで近寄ってくる光景があった。仲間の円柱機械からの銃撃を食らいながらの、シバへの特攻だ。

 シバは飛来してくる銃弾を念動力で受け止めてまとめると、飛来してくる円柱機械たちへと放った。散弾銃の弾のように、前方放射状に銃弾たちが飛ぶ。

 飛んでくる円柱機械たちは、仲間からのとシバの攻撃とに晒されて、少なくない被害を受ける。しかし致命傷にはならなかったようだ。


「被弾傾斜が利いてるな!」


 円柱状の身体のため、命中弾の多くが歪曲した機体表面を撫でるようにして逸れてしまっている。

 シバはキャットウォークの上に立つと、バックステップで場所を移動する。銃撃の照準がついてくるが、いまは飛んでくる円柱機械たちからの回避が優先だ。


「廃工場を舞台にしてくれたのは、俺への配慮ってことかもな」


 ここが何もない平原なら、シバの念動力の使い方にも制限がついたことだろう。

 しかし廃工場内には工具もあれば鉄くずなど、シバが念動力で操って武器にできるものが沢山ある。

 現にいまも、キャットウォークの上に掛けられた鉄鎖を、念動力で操り始めていた。

 犯罪組織が使用していた工場だけあり、鉄鎖はリングを溶接していない安物だ。

 シバの念動力はリング一つ一つに作用し、紛っていた部分が真っ直ぐに変わり、人差し指程度の太さと大きさの鉄棒になる。


「装甲を貫くには、速度と重さが必用だからな」


 対物ライフル用の弾以上の重さがある短い鉄棒が、ジェットパックで飛ぶ円柱機械に命中。装甲を貫通して破壊力を機体内に振りまいた。

 開いた穴から部品や生体脳の破片を散らしながら、飛んでいた円柱機械たちは工場の床に落ちた。

 仲間がやられた腹いせのように再び銃撃が集中するが、シバはお返しにと鉄鎖から新たな短い鉄棒を作って射出し、円柱機械を次々に壊していく。

 しかし壊した数が十を越えたあたりで、ぴたりと与える被害が止まってしまう。

 その理由は、三機ずつピタリと寄り添った円柱機械たちの所為だった。

 よくよく状況を確認してみれば、シバが射出する短い鉄棒は、三機集まった円柱機械たちの直前で横に軌道が逸れていた。


「チッ。三機共同で念動力を使って、こっちの攻撃を防いでいるのか」


 あの円柱機械の強みは、装甲と内蔵機械に、超能力の多種発動。

 シバが念動力を用いて攻撃するのなら、念動力を用いて防ぐのは理に適っている。

 シバは短い鉄棒の射出で戦果を得ることを諦め、次の手を模索し始める。

 しかし次の手段を講じるより、円柱機械たちの反撃の方が早かった。

 円柱機械たちの直前に炎が生まれ、その炎が火炎放射のようにシバに襲い掛かってきたのだ。


「念動力の次は、パイロキネシスか!」


 シバは再びバックステップでキャットウォークの上を逃げる。シバがいた場所に炎が当たり、キャットウォークの鉄骨が赤くなる。熱で曲がるほどの高温ではないが、直撃すれば人間など丸焼けになる威力はある。


「炎は質量が乏しいから、念動力で防げはするが……」


 迫ってくる炎は、人間の生物的な危機感を呼び起こす。

 シバも理性では自身には効かないと分かっているが、本能の危険信号から炎に巻かれたままでいたいとは思えない。


「反撃を意図して炎の中に突っ込むのは、苦にならないんだがな」


 それは相手を倒せる算段――炎を止めることができるという意図があって、腹が決まること。

 先ほど短い鉄棒を防がれたばかりの心情では、シバは自身を炎に晒す決心はつけられない。


「ん、待てよ。反撃か……」


 シバは少し考え、鉄鎖から当たらな鉄棒をいくつか作る。それらを、今度は火炎放射してくる方の円柱機械へと射出してみた。

 円柱機械は三機ずつ集まって念動力で防御しようという動きを見せたが、先ほどまで火炎放射をしていた円柱機械に鉄棒が命中して致命傷を与えた。

 そして残る二機では、シバの念動力は防げないのだろう。追撃で放たれた鉄棒が、それら二機の円柱機械を貫いた。


「咄嗟の判断を迫られると、やっぱりタイムラグが出来るみたいだな」


 あの円柱機械が超能力が使える仕組みは、生体脳に蓄積した超能力の使い方を、電子的AIで切り替えることでなり立っている。

 つまりAIが切り替える判断を行い、生体脳が要求を受け入れて別の超能力を発現させるというプロセスを踏む必要がある。

 そのAIの切り替える判断材料か、または生体脳の切り替える速度かに、超能力の使用を変えるタイムラグが発生する隙が出来ているようだった。


「弱点が分かれば、それを突くだけだな」


 シバは短い鉄棒を射出しながら、キャットウォークから工場の床へと下りた。そして付近にある工具や金具に鉄くずなどを、矢継ぎ早に円柱機械へと射出していく。

 円柱機械たちは三機ずつ集まって念動力を使い、その射出されてくるものを防いでいく。

 シバは手当たり次第に射出を続けながら、円柱機械へと近づいていく。

 シバが何をするきなのか、円柱機械たちは気付いたのだろう。機体の隙間から覗かせた筒から銃撃を行い、近づけさせまいと試みている。

 しかしシバの歩みは止まらず、むしろ飛んできた銃弾を念動力で返すようなことまでして、円柱機械たちに近づいていく。

 そしてシバと円柱機械たちの距離が二メートル以内に入った瞬間、円柱機械の一つの外装がバラバラになった。シバが念動力で、円柱機械の装甲を留めていた金具を外したのだ。

 そうして装甲を失った円柱機械の内部に、シバは至近距離から念動力で工具を叩き入れて破壊した。

 残った二機の円柱機械たちが、丸鋸による攻撃や銃撃による攻撃を行おうとする。

 しかし二メートル圏内は、シバの独壇場だ。

 シバの念動力によって、丸鋸の根元部分が外れさて回転する刃が持ち主を襲い、発射された弾丸が筒の途中で止まって燃焼エネルギーが暴発して機体内部を焼く。さらには、シバの念動力は機体内部に及び、集積回路やバッテリーコードなどが外されて、機能が停止してしまう。

 その攻防の中、他の円柱機械たちがシバに殺到してきていた。その質量で押し寄せれば、シバに対抗する力はないと言いたげに。

 しかしシバは冷静に対処していく。

 空を飛んで近づいてくる円柱機械は、飛行能力に難があるのか、一機ずつ離れた状態で飛んでくる。つまり三機集まってようやくシバに対抗できる、念動力は使えないということ。

 念動力の脅威がないのなら、短い鉄棒や工具の射出で、空飛ぶ円柱機械を撃ち落とすことが可能になる。

 炎を出したり、電撃を使ったりしてくる円柱機械も、念動力を防ぐ能力が停止しているので、的でしかない。

 残るは頑なに念動力で身を守る三機編成たちだが、こちらも近づいて念動力で解体すればいいだけなので、問題はない。

 そうしてシバは時間がかかりながらも、トラックから出てきた円柱機械たちの全てを無力化してみせた。


「あー、面倒くさい相手だった……」


 シバが溜息と共に感想を漏らすと、顔に着けていた軍用ゴーグルにメール着信の報せ。

 メールを開いてみると、今回の円柱機械たちの動きや能力についての質問表だった。質問の数は、ざっと五十問はある。


「ここから書類仕事ってか」


 面倒くささが極まったと言いたげに、シバは近くにあった腰の高さにある工具箱を引き寄せると、その上に座って質問に対しての答えを拡張現実上で撃ち込んでいく。

 質問を半分埋めたところで、工場の出入口に新たな影。

 シバが視線を向けると、健全な円柱機械が一機立っていた。

 工具の一つを射出しようとして、シバは念動力を途中で止めた。


「遅い出勤だな、イザーン。仲間の仇討ちでもするか?」

『データ収集が、これらの機体の任務ですよ。仇討ちする理由などありませんが?』

「イザーンは、その任務を受けてないわけだ」

『これらが破壊されるまでの戦闘データを収集し、集約する、という任務は受けています』

「俺のように、評価を依頼先に送る任務もあるわけだな?」

『同型機から見た改善点などを報告に上げるつもりでいます』


 なるほどとシバは頷き、質問集に戻った。

 その心の中では、イザーンに情報が集約されているのなら、次があったら超能力の切り替えにラグがあるという弱点は消えてそうだなと、円柱機械の進歩に対する懸念が現れていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 直球で殺しに来てて草 大事なのは超能力をいかにして伸ばすかなのに教師役への殺意ばかり伸ばしてて本末転倒なんだ
[気になる点] 脳をぐちゃっとやるだけで超能力封じれそう
[一言] 事前連絡なし。契約外の事態として報告。 返事が無ければ町に帰る。
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