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 任務をこなし続けた後の、またとある日。

 シバはイザーンと共に、超能力開発機構へと赴くことになった。

 イザーンが超能力をどの程度仕えるようになったかの検査のためだ。


「それで、なんで俺まで同行する必用があるんだ?」


 シバの何気ない疑問に答えたのは、計測準備中の研究員の一人だった。


「今回は計測と共に、超能力の伸張を狙っています。そのためのサンプルが必用なのですよ」

「俺を当て馬にしようってことか?」

「ご不満が?」

「C級の俺より適任がいるんじゃないか? A級に頼むとか」

「あの機械に発揮させる超能力の程度を考えると、C級の方が望ましいと判断してのことです」

「量産するのならC級がコスパが良いと思ってか? それともA級なんて作れそうにないからって判断か?」

「費用対効果ですよ。仮に巨万の富を費やしてA級を作ったところで、市場のニッチに合致しませんし」

「とはいえ、C級でも高望みじゃないか? 現状のアイツの能力程度は、F級だぞ?」

「技術とは日進月歩で発展するものです。現状F級だろうと、C級程度まで能力伸張させることなんて、そう難しいことじゃありません」

「C級、程度、ねえ」


 一期生のシバは、そのC級に成れずに終わったどころか、F級にすら成れずに廃棄処分になった実験体が多数いることを知っている。そして、それらの実験体の担任研究者が『こんなはずはない』とよく口にしていたことも知っている。

 そのため、研究員の言う『その程度』に信用が置けない。

 シバと研究員が会話している間に、イザーンの超能力の検査準備が終わっていた。


「それでは、実験開始です」


 十メートル四方の真っ白な小部屋の中央に、イザーンが立っていた。シバや研究員たちがいる場所と続く部屋ではあるが、強化ガラスで仕切られている。

 その部屋の壁が少し動いて隙間が何か所かに生まれ、隙間から筒の先が迫り出してきた。

 それらの筒から、何かが飛び出してくる。

 オレンジ色の丸い玉――ピンポン玉だ。

 発射されたピンポン玉は、緩い軌道でイザーンへと飛んでいく。


『念動力、発動します』


 イザーンが機械音声を放つと、ピンポン玉はイザーンに当たる直前で空中に停止した。イザーンが念動力で受け止めたのだ。

 ピンポン玉は次から次へと筒から発射され、イザーンは念動力で次々にキャッチする。

 そうした光景が何度か繰り返された後、ピンポン玉の一つがイザーンの機体に命中した。


「念動力の制御に失敗したのか?」


 シバが疑問を口にした直後、イザーンの機体に次のピンポン玉が当たりそうになり、命中の直前でピンポン玉が停止した。その代わりのように、イザーンの機体の足元に空中に浮いていたはずのピンポン玉の一つが転がっていた。


「限界重量を越えていたから、ピンポン玉を受け止められなかったってわけか」


 シバが見当をつけたとおりに、それからのイザーンはピンポン玉が新たに来るたび、浮かしていたピンポン玉を一つずつ床へと落として対処していく。

 この念動力の使い方は、シバが任務中に銃撃を受けた際によくやる防御法だった。

 もっともシバの場合、いまのイザーンのように扱える重量の限界まで弾を保持するようなことはしないし、必用とあれば弾を撃ち返すこともやる。

 その対処の違いを考えると、やはりイザーンは念動力を使い慣れていないのだと分かる。

 そんな評価を下しつつ、シバはチラリと研究員たちの様子を見る。

 研究員たちは脳内に生体機械を入れて拡張現実を見れるようになっている。そして開発機構のサーバーにアクセスする専用権限を持っている。

 つまるところ、研究員たちは独自ネットワーク上で研究状況を見ているため、外様かつ脳内に生体機械を持たないシバには、彼らがなにを見ているかを窺い知ることはできない。

 しかし、研究員たちからなにも読み取れないというわけではない。

 むしろシバが生体機械を持っていないことから、情報を抜き取れないと油断しているため、研究員たちは研究結果に対する態度を隠そうとしない。

 研究員の一人があからさまに眉を寄せ、他の一人は舌打ちしている。もう一人の研究員は拡張現実上の装置か何かを操作する仕草を行い、その隣の研究員は残念がって首を横に振っている。

 それらの態度から示されるのは、イザーンの検査結果があまり芳しくないという情報だ。

 シバはその光景を見て、心の中で『やはり研究員たちの想定なんてあてにならない』とこき下ろす。

 そうして小一時間ほど検査が続いたが、検査の最後の方は、イザーンが持つ生体脳に疲労が蓄積して性能が落ちたのか、浮かせられるピンポン玉の数が数個だけという状態になっていた。

 検査終了後、イザーンは専用の整備機械の中に収められ、生体脳用の溶液と栄養剤の交換が行われた。

 その作業の中で、研究員の一人がシバに近寄ってきた。


「念動力をどう使うのか、お手本を見せてやってはくれませんか?」

「俺がか?」

「任務の内だと思いますが?」


 任務と言えば従うと思っている口調に、シバは若干の苛立ちを感じた。

 しかし従わない理由もないため、シバは研究員の申し出を受けざるを得なかった。


「小一時間も立ちっぱなしでは居られない。椅子を用意してくれ」

「椅子、ですか?」

「椅子すら用意できないというなら、他を当たってくれてもいいんだぞ?」


 シバの脅すような言葉に、研究員は仕方がないと椅子を一脚渡してきた。

 シバはその椅子と共に白い部屋の中に入ると、その中央に椅子を置いて座った。

 それからすぐに部屋の壁から筒が現れ、シバへピンポン玉が投射され始める。

 シバはピンポン玉を受け止めたり、念動力でピンポン玉を操って別のピンポン玉を弾いたりしながら、目にかけているバイザーの機能でインターネットニュース記事のチェックを行っていく。

 しばらくその調子の光景が続いたが、シバの不真面目な態度が研究員の怒りに触れたのか、ピンポン玉を投射する筒とは別の筒が部屋の壁に現れる。

 その新たな筒から放たれたのは、鉛玉――紛うことなく銃弾だ。

 ピンポン玉だと思ったら拳銃弾。

 これがイザーンなら対処できずに機体に弾が命中したことだろう。

 しかしシバは、数々の鉄火場を念動力で切り抜けてきた政府の犬だ。いまさら弾の種類の違いで念動力の操作を間違ったりはしない。

 当たり前に拳銃弾を受け止めると、ピンポン玉でやっていたように、止めた弾を操って新たに来た拳銃弾に当てて軌道を逸らさせた。

 それから継続して小一時間ほどピンポン玉と拳銃弾が混ざった投射が行われたものの、シバはネット記事を読みながら的確に対処してみせた。研究員の悪戯か、対物ライフルの弾やグレネード弾も飛んできたことがあったが、それらも怪我なく対処してみせた。

 シバは粗方のニュース記事を読み終え、もうこれ以上、この実験に付き合う気が失せていた。


「もうデータは十分集まっただろ。部屋から出て良いか?」


 シバが問いかけると、その返答のように部屋の至る所から筒が突き出してきた。その光景はまるで、ハリネズミを裏返したかのようだった。

 シバは面倒くさいと溜息を出すと、自身の身体から二メートルの範囲にあるピンポン玉や拳銃弾を操り、壁から突き出ている筒の一つ一つへと発射した。その姿は、まるでシバが破片手榴弾に変わったかのようだった。

 シバから発射されたピンポン玉や拳銃弾は、当たり前のように筒の中に入っていき、その筒の元にあった発射装置を破壊した。

 直後ビービーと警報が鳴り、白く四角い部屋のロックが外れて出入口の扉が開いた。

 シバが部屋から出てくると、苛立った研究員たちに迎えられた。


「あのですね。検査装置を壊さないでくれます?」

「あのな。意味もなくダラダラと検査を続けないでくれるか?」

「意味もなくって、検査が長時間に及んでいるのは、貴方の疲労度を図るためで」

「俺が任務でどれぐらいの時間戦っていたか、政府に問い合わせれば資料が手に入るだろ。ここで改めて計測する意味はないと思うが?」

「……参考までに、どのぐらいの時間、念動力を発揮し続けることができるか自己申告してもらっても?」

「全力全開じゃない状態なら、四六時中使っているぞ? 安全じゃない場所での任務なら、寝ている間も使っているぐらいだ」

「もしかして、いまも?」

「あんたたちの顔が、俺を殺したいって言っているからな。使用継続中だ」


 シバの返答に、研究員は眉を顰めてから肩をすくめた。


「検査装置が壊れたからには、これで検査終了だ。装置を壊したこと、政府に抗議するからな」

「ご自由に。こちらもそっちの検査方法が横暴だったと、報告を上げるつもりだしな」


 シバは研究員たちと喧嘩別れするように、この場から離れることにした。

 そんなシバと研究員たちの姿を、イザーンは整備装置に繋がれたままに記録していたようだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イザーン君が、人間の愚かな行動を学習しとるww
[一言] 自分達がまだ作れない価値に対して取っていい扱いじゃないよねwww まだF程度の実績しか上げられてない連中が何を偉そうにしているんだか
[一言] C級程度って言ってましたしシバの事もいくらでも替えがきくモノ程度にしか思ってなさそうですねー それでいて自分らの制作物がAどころかFでやっとだもんなあイライラもするわなw
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