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 シバは新たな任務――新たな治安維持ロボットの教育係を行うことになった。

 教育係とはいえ、相手はロボットだ。知能や規範はプログラムで注入できる。

 知能や規範を注入できるのなら、何を教育するのか。

 それは知能や規範を現実の世界で使用する、その事例を積み上げること――つまりは実地研修だ。


「どうして俺が選ばれたのかは、俺が任務に従事している際の態度から、とはな」 


 この任務にシバが選ばれた理由を尋ねたところ、政府の上司からメールで返答がきた。

 どうやらシバが、任務であれば命乞いをする相手にも容赦なく殺す性質が、治安維持ロボットに必用らしい。


「どうせ俺は、判断基準の閾値を広げる役だろうな」


 シバのように敵であれば容赦ない行動を取る者。そしてシバとは真反対に、真正のゴミクズ相手でも情けをかける者。

 そうした両極端のサンプル事例を学ばせることで、ロボットに判断の幅を持たせる。

 これは今までも良くやられていた、ロボットの思考能力を強化する教育手段だった。


「んで、これが俺に任されたロボットか」


 シバが視線を横に向けると、大型の円柱状の機械が立っていた。手足はない単なる円柱の全長は、地面からシバの胸元まである。その無塗装の金属表面はマット加工されていて、鈍く日の光を返している。

 その大型円柱の上部から三分の一のあたりに、一つだけ電飾のようなものがハマっていて、電源が入っていることを知らせるように緑色に光っている。


「おい。お前の名前はなんというんだ?」


 シバが問いかけると、緑色の電飾が瞬いてから、機械的に中性に整えられた音声がロボットから流れた。


『試験型都市治安維持用武装機械EXA―1273839、です』

「……略称とかないか?」

『ありません』

「俺が便宜的に呼びかける名前を付けるのに問題はあるか?」

『検証考察――問題ありません。呼び名を受け付けます』


 シバは少し悩み、品番に則した名前をつけることにした。


「下三桁をもじって『イザーン』と呼ぶことにする。問題ないか?」

『当個体は、イザーン、という呼び名に設定されました。ユーザー、コンバット・プルーフ。以後よろしくお願いします』

「ヨロシク。まあ、教育機関が終わるまでの間柄だろうけどな」


 質疑応答が終わり、シバとロボットの間に無言の時間が流れる。

 その無言の時間の間に、シバは次に何をするべきかを考えた。


「そうだ、イザーン。ちょっと触らせてもらってもいいか?」

『何をなさるのですか? 改造は推奨されていません』

「いや、イザーンの重量調査だよ」


 シバの念動力は、重量百kgまでしか動かせない。

 イザーンの重量が超過しているのなら、緊急時に念動力での退避に巻き込めない。

 政府もシバの能力上限は分かっているはずなので、重量超過はしていないだろう。

 そんなシバの考えは、外れることになる。


「うわ、マジか。ブラックボックス化しているコア部ですら、百kg越えとか……」


 シバが軽く念動力で調べたところによると、この大型の円柱ロボットは二重構造になっていた。

 武器やバッテリーを積んでいる外装部と、一塊に電装系を集めた上でブラックボックスにしているコア部。

 シバの能力であれば、ブラックボックス内の機械的な仕組みも調べられないこともない。

 だが余計なことを知れば、自身が危険な状況に追い込まれることは予想するまでもない。

 だからシバは、イザーンの重量が分かった瞬間に、念動力を解いた。


「おい、イザーン。いざというとき、俺の能力では守ってやれない。自力で自分の事は守ることだ」

『了解です、コンバット・プルーフ。危険は自力で排除します』


 イザーンは決意表明した瞬間に、外装に切れ目が多数入り、その切れ目たちから銃口や刃が飛び出してきた。

 それを見て、シバは自身の頭を抱えた。


「……イザーン。いま危険はないだろ。武器を構える必要はないと思うが?」

『危険とは、いついかなるときもあるものです。備えるに越したことはないかと』

「危険が起きた直後に対処できないほど、お前の性能は低性能なのか?」

『……そうですね。そう対処することは可能でした』


 説得されて、イザーンは展開していた武装を引っ込める。

 その姿を見て、シバはこのロボットの判断AIが意外にポンコツだと認識した。


「判断基準を育てるために、俺が教育係を任じられたのはわかる。それにしても、判断基準がポンコツすぎやしないか?」

『コンバット・プルーフに訂正を求めます。当機体は、製造されてから十日も経っていない新品です。ポンコツではありません』

「……やっぱりポンコツだ」


 シバは肩をすくめつつ、政府から送られてきた、イザーンの教育に最適だという次の任務を見る。

 対岸の街に出来た、他国から流入してきた宗教家が組織しているという、違法の宗教団体。その殲滅任務だ。


「信者の中には、この国で罪を犯していない者もいるが、それも殺すわけか。ああ、殺してはいけないリストもあるな」


 無慈悲に人を殺しつつも、国に必要だと判断した者は生かしておく。

 非情の判断を下すことと、利益によっては犯罪者も見逃す柔軟さ。その両方を学ばせるには、確かにいい案件だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 無機質な機械にポンコツAIがあるだけでかわいく見えるのは卑怯だと思うんだ。
[一言] なるほど、シバに教育の依頼が来るわけですね AI版シバみたいになれるかなあイザーン
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