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超能力者部隊の活躍と、新機軸の機械化躯体の開発。
その二つの潮流は、世界各国に変化をもたらした。
世界にある先進国や裕福な途上国では、機械化躯体の普及率が跳ねあがった。それこそ、身体に問題がない人が、わざわざ自身の四肢を切り落としてまで換装する事例が起こるほどだ。
より良い躯体で身体を改造し、脳の中にいれる生体機械のバージョンアップも行うことで、身体機能を普通の人間より一段も二段も上に押し上げる。
そうした機械化巧者が、世間をリードし始めた。
では貧乏な途上国では、どうなっているのか。
そういった国では、超能力に注目が集まった。
超能力といっても、シバが住む国のような科学的に確立した手法で目覚めるわけではない。
途上国に昔からある、呪術や宗教儀式を通して、どうにか超能力が発現しないかを試行錯誤し始めたのだ。
そんな方法で超能力が目覚めたら世話がない話なのだが、物事には何事も天才という存在がある。
科学的に間違っている方法であるはずなのに、ちょっとした切っ掛けや予想外の作用などが合わさり、ふとした瞬間に超能力が目覚めた天才的な人が現れたらしい。
その目覚めた超能力者も、大半が嘘や詐欺で作られた存在だったが、一握りの本物もいた。
そうして天才的に超能力が発現した本物が現れたことで、その天才が超能力を覚えた方法を行う者が増加する。
しかし天才には奇跡的に合致した方法であっても、その他大勢の凡人に適応できる方法ではないことは世の通例。どれだけ頑張ったところで、超能力を得られるわけもなく、超能力の指導料を取られて貧乏へと落ちていくだけ。
それでも、超能力が発現したら、それら途上国では一生安泰だ。
宝くじに挑戦する感覚で、人々は怪しげな超能力開発の方法を行い続けている。
それらの世界の動向を、シバはニュースで見て知った。
シバは念動力者であり、最先端技術を扱う大企業が支配する中州の街の住民である。そのため超能力にも、機械化躯体にも、馴染みがある。
そのシバの感性から言わせてもらうと、世界は間違った方向に進んでいるんじゃないかと言う気がしてならない。
「中州の街の住民は、脳に入れる生体機械を抜かしたら、事故や病気などで仕方がなく身体を機械化している。自分から望んで手足を切って機械に置き換えるなんて馬鹿な真似はしない」
中州の街の住民は、支配する大企業の社員や子会社の上役、その家族が主だ。
機械化躯体の開発の大元ともいえる企業の社員や幹部が、自身と家族の機械化を嫌がっている。
その一点だけで、身体を機械化することは問題があると、そう疑うべき理由になる。
「超能力の開発にしたって、方法も確立していないものを信じるなんてな。この国でだって、俺がいた第一期に超能力を開発した連中だって、大半が失敗に終わったってのに」
研究に研究を重ねて机上では上手くいくと太鼓判が押された手法ですら、超能力を発現する被験者が少なかった。
途上国では大昔にあったという祈祷師やら呪術師やらを生み出す手法を参考にしたとて、それの効果の程が信用できない。
「それらの国では超能力を開発するのに、植物由来の麻薬を使っているらしいが、正気じゃないな。薬で狂って、自身が超能力を仕えているっていう錯覚を起こしているだけないんじゃないか?」
こうした愚痴が出てくるのは、いまシバが乗っている飛行機に理由がある。
旅客機とは違い、巨大な積載室の両端にベンチがあるだけの、簡素な内装の軍用輸送機。
どうしてそんなものに乗っているのかというと、件の大昔の手法で超能力を発現したと語る人を殺しに行くからだった。
さらに、どうしてその人を殺さなければいけないのかというと、その超能力者が途上国の一つの国主になり、超能力者を集めた部隊を作ろうとしているから。
超能力部隊は、シバの住む国にだけあればいいし、他の国にあっては超能力部隊の価値が下がると、大企業たちが判断を行った。
唯一性が薄れることもそうだが、仮に他国の超能力部隊が偽物だった場合でも、風評被害で価値が下がることが懸念された。
その価値の下落を恐れて、大企業は下請け先の政府に命令したのだ。
『あの他国にいる邪魔な超能力者を消せ』と。
だからこそ、シバはこうして機上の人となっているわけである。そしていい様に使われているからこそ、愚痴が止まらないのだ。
「まったく。あまり重い装備は着けたくないんだがなぁ」
シバはボディースーツに接続する形で、色々な機械を自分に取り付けていく。
それらは自身の姿を風景と同化することができる、光学迷彩の機械。
テストで始動させてみると、ヘッドギアをまだ着けていない頭部だけ、空中に浮かんでいるように傍目からは見える。
こうして姿を消した状態で、例の超能力者を暗殺しようというわけだ。
一通りの動作チェックを終えると、ビーっと目的地近くまで来たことを伝えるブザーが鳴った。
シバがヘッドギアを着けた直後、輸送機の後部ハッチが開き、室内の空気が外へと出始める。
シバは格納室にある多数のつり革を手で握って渡りながら、後部ハッチの近くへと移動する。
少し時間が空き、ビービーと目的地上空に到達したことを報せるブザーが鳴った。
シバはつり革を手放すと、走って後部ハッチから空中へと飛び出した。
上空特有の暴力的な風を身に受けつつ、シバは念動力を発動。自身の肉体の落下方向を操作する。そして光学迷彩を起動させ、自身の身体に空中と同じ風景を投射した。
そうしてシバは、人知れずに他国に不法入国した。ヘッドギアの中に収められたデータにある標的を再確認しながら、標的がいるとされている建物へ向かって急降下していった。




