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各企業から、機械化躯体の新モデルの発表が連続した。
国の内外問わず、新機能や新機軸の躯体に大いに注目が集まった。
それと反比例する形で、超能力者の話題は急速に廃れてきている。
戦争直後は超能力開発機構に長蛇の列が出来ていたのだが、いまでは物好きな数人が訪れてくるだけになっている。
その理由は、機械化躯体に身体を換装する手軽さと、超能力開発が個人の才能に左右されるため。
スペックを約束されている機械と、適性が必用である上に超能力を開発できても何になるかはわからないこと。
その両方を比べた際、確実性を考えて、機械化躯体の方に興味が流れてしまうことは致し方がないことだった。
特に、中州の街の外にいる国民の多くは、不具合が出た生身を機械に置き換えることに積極的だ。
そうした意識的な背景もあり、新モデルの機械化躯体がもてはやされ、超能力は話題にも昇らないようになっていった。
しかし、そうした話題転換は、国を牛耳る大企業たちが望んで行ったことだった。
「戦争で戦力の手札が十分にあることは分かったんだ。もう超能力者の数を確保する必要はなく、確実にA級の超能力者を生む技術を確立するほうを優先するってわけだな」
シバは、新たに受けた任務の資料を読みながら、独り言をつぶやく。
今回の任務は、シバが超能力を使う際の、シバの脳波を計測すること。
シバはC級と超能力の位階を位置づけられている。だが、その念動力には特筆するべき点がいくつかある。
自身から二メートルの圏内かつ総重量が百kg以下であるなら、操る物の速度を銃弾以上に加速できること、その速度を維持したまま意のままに操れること、操る数は無制限であること。後は自身の肉体であっても、同様に加速させて操れ、空を飛ぶことが可能なことも加わる。
仮にシバの能力の制限である、二メートルの圏内や百kg以下という条件が取っ払われたら、A級を越える超A級として認定されることは間違いない、特異な能力といえる。
しかしシバは、その身体に機械を一切入れないことを条件付けた、能力成長を経過観察中の実験個体でもある。
シバの能力の制限を取っ払おうとして、シバの体に機械的な補助を組み込んでしまっては、今までのとこれからのデータ収集に意味がなくなってしまう。
そこで超能力開発機構は考えた。
シバの特異な能力の部分だけを受け継いだ、新たな念動力の超能力者を生み出せば良いと。その新たな念動力者なら、仮に制限まで受け継いでしまっても、機械的な補助を組み入れることができると。
なんとも非人道的な話ではあるが、超能力開発機構の研究者たちにとっては今更な話でもある。
そしてシバは政府の犬。任務だと言われれば、非人道的な行いに通じる物事であろうと、実行することが当然のこと。
そうした両者の思惑があり、シバの脳波計測は順調に進んでいく。
『――では、ウォーミングアップはこのぐらいにして、最大能力の発露に移ってください』
真っ白な部屋の中、シバは脳波計測の機械を頭に着けた他にはパンツ一枚の姿で、研究員が用意した総重量百kgを少し越える物々を、自身の念動力で持ち上げた。
軽くて大きい発泡スチロールや、重くて小さな鉄球に、数量と重量調節用の砂などを、シバは自身の二メートルの圏内で高速移動させていく。
高速移動させる分、毎日の朝と晩に行っている重量と距離を伸ばす訓練以上に、脳に負担がかかる。
シバは目を閉じて意識を集中させ、念動力を限界点まで振り絞る。
そうしたシバの頑張りがデータとなって現れているのだろう、実験室の外でモニターしている研究者が色めきだった声をスピーカーから放ってきた。
『いいよ! その調子で続けてくれ! とても有用かつ特異な脳波が観測できてる! 他の念動力者では低活性だった部分が、こんなに生き生きと動いているだなんて!』
シバは念動力を最大限まで発揮し続けていく。
しかし時間を置くと、その最大限の状態に慣れて余裕が少しだけ生まれた。
その少しの余裕を埋めるために、操ってなかった砂をミリグラム単位で接収して、操るものの中に加えた。
どうせ同じことをやり続けなければいけないのだからと、自身の超能力の訓練の時間に利用することにしたのだ。
そうして限界の上乗せをすると、さらに良いデータが出てきたのか、研究員たちが色めきたつ声がスピーカーから聞こえてきた。
『これが、超能力を限界まで酷使し続けた脳波か。我々は、間違った部分を刺激して、超能力を増大させようとしていたのかもしれないな』
『それはどうでしょう。彼は機械的な補助を一切入れていない個体なのでしょう。天然モノゆえの揺らぎなのでは?』
『なに、次期の研究のテーマにすればいい。機械補助を入れた者が最大限に超能力を発揮したときの脳波と、この彼の脳波。どちらが超能力の開発をより促進させるか、研究比較すればいいだけの事じゃないか』
研究者としては真っ当な意見だろうが、その被験体が人間であることを加味すると、途端に人権倫理を無視する邪悪な企みでしかなかった。
そんな声が聞こえていたが、シバは気にしない。
念動力を限界まで発揮しているため余裕がないこともそうだが、研究者の怪しげな企みの矛先が自分でないのなら良いという自分本位の考えからだ。
そうした超能力の限界使用を続けていくと、ある時点で研究者から止めるように言われた。
シバが素直に従い、操っていた物品を元の位置に戻してから、念動力を止めた。
これで実験は終了かと思いきや、部屋の中に新たな人物が入ってきた。
頭と顔を覆うヘッドギアをつけた、成長途上の身体の少年少女が五人。
シバが意味を図りかねていると、研究者の声がスピーカーから出てきた。
『その五人は、ちょうど能力開発を終えた念動力者だ。これから君には、彼らと綱引きをしてもらう。もちろん念動力でね』
「綱引き? 綱はないが?」
『では、言い換えよう。君が念動力で浮かせたものを、彼ら五人が念動力で奪い取ろうとする。それを念動力だけで堪えてくれ』
「最大重量をあげた状態でか?」
『その通り。頼んだよ』
シバは、この実験になんの意味があるのか分からなかったが、とりあえず指示された通りにすることにした。
シバは自身が念動力出持ち上げられる限界まで物を持ち上げて、保持する。
シバの準備が整ったと見たのだろう、年若い少年少女たちがシバの方へと両手を掲げた。
少年少女たちは念動力を行使して、シバの浮かせている物を奪おうとしてくる。その手応えを、シバは超能力で感じる感覚に捉えていた。
しかし、感覚で感じただけで、それ以上のことはない。
シバは念動力で物体を浮かし続けたままだ。
少年少女たちは、自身の念動力を必死に使っているのだろう、ヘッドギアの隙間から汗が滴り落ちている。
それでも変化が現れていないと、急に少年少女たちのヘッドギアの溝が光を放ち始めた。
「あああああああ!」「うおおおおおおお!」
口々に雄叫びを上げる、少年少女たち。
その直後、シバが感じる超能力の感覚に、より強く物品を奪い取ろうとする力を感じた。
どうやら、あのヘッドギアは超能力を増幅させる装置のようだ。
そんな物まで持ち出して、シバが操る物品を奪い取ることに、いったい何の意味があるのか。
シバは疑問に感じつつも、念動力で物品の保持を続ける。
やがて少年少女たちに限界が訪れたようで、急にヘッドギアの光が消えたかと思うと、全員が床に崩れ落ちた。
シバは物品を保持したまま、倒れた少年少女たちに困惑する。どうしたものかと考えていると、スピーカーから声。
『はい、お疲れ様でした。いやー、良いデータが収集できましたよ』
「……それは良かったな。それで、こいつらはどうするんだ?」
『ちゃんと回収するので、その場に放置でいいですよ。単に疲れて動けないだけですし』
研究者がそういうのならと、シバは脳波計測の装置を頭から外すと、パンツ一枚の姿で少年少女を跨ぎ越えて部屋の外へ。
部屋の外に待っていた研究者が、タオルを渡してきた。それを受け取り、シバは全身に薄っすらと浮いた汗を拭った。
そしてシバは、ここに来るまでに着ていた服を着直しバイザーを着けると、タオルを渡してくれた研究者に向き直る。
「これで任務終了でいいんだよな?」
「ええっと、ちょっと待ってくださあい――はい、終了ということで、いいようでえす」
許可が出たので、シバは超能力開発機構の建物から出ることにした。
先ほど収集された自身の脳波が、今後どのように扱われるのか。
気にならないと言っては嘘でも、気にする意味もないと、シバは自己完結して日常に戻ることにした。




