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機械化した義手義足に武器を内蔵する改造を行った人たち、その調査が終わった。
調べ始める前は、超能力者に対抗するために行われた改造だと思われていたが、蓋を開けてみればそれ以外の目的があることが判明した。
特に、例の社員寮で起こった騒動は、あらゆる方面へ波及する問題に発展したようだった。
そのことについてシバは、学校に向かう最中の拡張現実上の街頭モニター、そこに映し出されたニュース映像で知ることとなった。
『~~は国家ぐるみでスパイを送り込み、我が国の企業や政府機関から情報を盗み取っていたことが判明いたしました。このことに対し、我が国は強く抗議するとともに、必用とあれば実力行使も辞さない構えを取る事を表明しました』
ニュースキャスターが語る内容は、かなり物騒だった。
しかしそれは仕方がないこと。
この資本主義社会の国では、盗みは重罪だ。その盗みを――スパイを使って情報を盗むなんて真似をした国が相手なら、強硬な態度を取らざるを得ない。
ニュース番組で、視聴者からのコメントで『また戦争になるのか?』という質問が投降され、政府関係者が返答している。
『先の戦争は、相手側が仕掛けてきたからこそ、自衛のために仕方なく武力を扱ったまで。本来の我が国の方針では、戦争なんて価値を喪失するだけな消費活動は避けるべきだとしています。今回も、物理的な戦争を起こすのではなく、経済的な制裁によって対抗しようという意見が大半であると表明しておきます』
『戦争にはならないと?』
『こちらから戦争を起こさないということです。相手側が戦争を仕掛けてくるようならば、断固として返り討ちにします。価値の喪失を仕方がないと受け入れた上で』
政府関係者は『戦争は回避する』と言葉で言っているが、その態度は頑なだ。
彼の態度からは、政府が――いや、この国を牛耳る大企業たちが、スパイを行った国に対して怒り心頭であることが伺えた。
その心情を考えると、『戦争を回避する』と言いたいのではなく、『戦争を仕掛けてこい。倍返しで懲らしめてやる』と言いたいのだろうと推察できた。
そんなニュース映像を題材に、街中を歩く人達は近くの人と雑談を行っている。
シバは街頭モニターから視線を外し、進行方向へ顔を向けると、口の中で小さく呟く。
「まあ、戦争にはならないだろうな」
シバがそう思うのには理由がある。
それは前の戦争で、この国が大賞したこと。そして、その大賞の功労者として、超能力者部隊の存在が大々的に宣伝されたこと。
例のスパイを行った国は、つい先日判明したばかりの超能力者部隊に対抗する手札を用意できるはずもない。
勝てない部隊がいる国を相手に、戦争という強硬手段をとることは考えられない。
「経済制裁に発狂して戦争を起こしてくるかどうかだな」
未来に破滅しかないと思えば、自滅覚悟で戦争を仕掛けてくる可能性はあるだろう。でも逆に、破滅を少しでも先延ばしにしようと、その先延ばした先に希望があることを期待して、戦争を行わない可能性もある。
そのどちらに転ぶかは、例の国の指導者にしか分からないことだった。
シバとシーリを襲った、機械化した義手義足に武器を内蔵する改造を施した人たちについても、スパイの一味として報道された。
彼らの武器である改造された義手義足が注目を集め、機械化技術を持つ企業たちが興味を示した。
軍用の機械化の躯体に使うには問題のある技術だが、民生品として考えるのなら需要の余地がありそうだと思ったらしい。
そのため、昨日の今日なのに、数社からは新たな提案という形で、武器を内蔵した義手義足のプレリリースが発表された。
シバがその件を耳にしたのは、マルヘッド高等専門学校の登校日に入った教室でだった。
「ええ~! 機械化義手のデザインを使わせてくれないかって、要請されたの!?」
「そうだぜ。そんで了承して、これがプレリリース版だ」
自分の功績を誇るように、その生徒は拡張現実上にデザイン画と新発表の義手の情報を展開した。
シバが横目で確認すると、随分とヒロイックな装甲デザインの義手だった。その義手は、装甲の展開をすることで、内蔵武器を露出させる仕組みのようだ。デザイン画での武器は電気銃のようだが、企業が発表した資料によると実弾銃も組み込めるらしい。
デザイン性の高いその義手は、軍用の機能とコストを追求したものでも、民生品の生活に則したものとも違った魅力があった。
シバは、高級腕時計やスポーツカーといった部類に属する物品になるんじゃないかと、その義手を評価した。
そして生徒たちの中には、デザイン画が採用された生徒に対抗心を燃やす者も現れる。
「そんなデザインが採用されるんなら、俺のだって採用されるはずだ。ちょっと売り込みかけるか」
「言っておくが、確りとデザインを送る先を考えろよ。企業イメージと合わなきゃ、良いデザインだって採用されないんだからな」
「そんな事は分かってる。俺のデザインは、陶器的な美しさがある。そこに無骨な武器を組み込めば、アンバランスな魅力が出るはずだ。その魅力を分かってくれる企業を探すとも」
デザインや売り込み先について、あれやこれやと意見を交わす生徒たち。
その会話を聞いて、シバも自分が義手を作るならどんなデザインにするかと考える。
しかしシバは、あまり独創的な創作能力には長けていない。考え付くのは、宝石のようなものを外装に取り付けた、中身の機械が見える作りの義手義足ぐらいのものだった。
「ふむっ。素材を吟味して、でっち上げて見るか?」
天然の宝石を使った機械化義手義足なんて、現実的じゃない。装甲部分だけを作るだけでも、小国の国家予算を越えてしまうことだろう。
しかし人工の宝石を用いれば、安値で綺麗な義手を作れる可能性がある。
シバは学校成績の足しになればいいという安易な考えで、人工宝石を装甲に使った機械化躯体の製造草案を書いていく。芸術作品だと認められたらいいという、そんな気持ちで。




