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 機械化した身体に武器を内蔵するよう改造した客たち。

 その客の中から、政府が怪しいと選んだ者へ、シバとシーリは訪問することにした。

 最初に訪れたのは、かなりの老齢な女性が住むアパートの一室だ。


「こんな老人が、自衛用に武器を内蔵しようとするのか怪しい、ってことらしいな」

「機械化したのも、生身の膝が壊れたから、その代替えに膝から下を機械化したらしいしね」


 シーリが拡張現実上のデータで寄こしてきたのは、件の老女の機械化した足の資料。足首と膝だけにアクチュエーターがある、脹脛部分はフレーム剥き出しな、安価な機械化義足。

 仕組みが単純で整備が楽な、貧乏人御用達の品物だ。

 大部分がフレームだけなので、武器を内蔵する改造はし易いだろう。

 しかし逆を言えば、単純な仕組みが売りの義足なのに、武器を内蔵する改造なんて長所を殺すような真似でしかない。

 その不合理さが、恐らくは政府の有識者たちが、怪しいと思った点なのだろう。


「今回は空振りだろうけどな」

「空振りだと思うからこそ、最初に終わらせておきたいってことっしょ?」


 シーリに内情を見透かされて、シバは面白くない気持ちを抱える。

 しかしそんな気持ちは顔に出さないよう気を付けながら、シバは老女の住居の扉を叩く。

 程なくして出てきたのは、腰が曲がっていて、老眼の目を細めている、痩せぎすで弱々しい印象の老人女性だった。


「はい~、どうかなさいましたか?」 


 ゆったりとした口調で問いかけられ、シバは拡張現実上で政府の犬としての名刺を提示した。


「こちらは、政府の調査員です。貴女が不正で危険な義足の改造を行っていると、匿名の情報提供を受けました。お話を聞かせていただいても?」


 シバの言い分に、老女は驚いたように細目を見開いてから、困り笑いの表情になる。


「えーと、その。どうしましょう」

「貴女は足が悪いのでしょう。こうして立って話すのは辛いはずです。家の中に入れて貰っても?」

「あっ、そうですね。どうぞ、狭いところですが」


 老女に案内されて、シバはアパートの中に踏み込む。シバは自身の靴から外と変わらない感触を得ていた。下をみやると、絨毯のない剥き出しの床だった。

 改めてアパートの中を見ると、キッチン横に食卓と椅子が一つずつ、その奥の部屋にベッドと衣装箱があるだけだった。

 この殺風景な部屋から、持て成す客すら訪れない、寂しい老人の独り暮らしの様子が、ありありと見て取れた。

 シバは老女を唯一の椅子に座らせると、自身は立ったまま質問を始める。


「その機械化した足。どうして武器を内蔵するよう、改造したのですか?」


 単刀直入な質問に、老女の困り笑顔が深まる。


「そうね。なんと言ったらいいかしら」


 老女は言葉を探すように首を傾げてから、ぽつぽつと事情を語り出した。


「わたしはね、ちょっとした小物を作って小遣いを稼ぐしか脳がないの。だから不必要なものは切り詰めて生活しているわ。住居のグレードも、生活に使う家具も必要最低限。食べ物も、政府の方針で安く買える完全栄養食だけよ。そうして切り詰めていくと、わたしの安全に関するお金も節約できそうなことに気付いたのよ」

「安全――セーフガード契約を切ったってことですか?」


 セーフガードとは、簡単に言ってしまえば、警備会社のこと。

 しかしこの国の警備会社は、警察から業務委託を受けてもいるため、警察に並んで治安の維持に貢献している。

 しかも警察と違って、契約者の利益を守るための活動をする。それこそ、犯罪という実害が起きていなくても、容疑者に強く抗議してくれる。

 そのため、国民の多くは警察より更に警備会社の方を信用している傾向がある。

 ちなみにシバは、職務の関係で警察に近しいので警官から融通を受けられるし、自身の念動力で自衛できるので、セーフガードと契約はしていなかったりする。

 ともあれ、この老女は国民の大多数が契約している警備会社との契約を切ったという。


「セーフガードの契約を切って浮いたお金をちょっと溜めて、自衛のための武器を足に入れたのよ。あの修理屋さんは、もともとこの足の検査と修理をやってくれていたから、特別に安値でやってくれたの」


 老女が踝まである厚手のスカートを持ち上げると、脛の部分に単発用の銃身が機械に組み込まれた状態でくっ付いていた。


「使用弾は、ライフル弾ですか?」

「左右の足に一発ずつ。生半な装甲でも貫ける徹甲被膜のライフル弾よ」


 シバはなるほどと頷く。

 老女の義足は、低価格ゆえの低出力なモデルだ。老女の筋力と合わさって、徒手空拳で戦うのには向いていない。

 その戦闘力の無さを補おうとするのなら、ライフル弾を撃てるように改造するのもありなように思える。

 事情に納得してから、シバはシーリに目を向ける。シーリは手に携帯端末を持った状態で、首を横に振る。老女の家の中にある全ての機械、そして老女の頭の中にある生体機械に、怪しい情報はなかったらしい。

 そういうことならと、シバは老女に一礼する。


「失礼しました。疑いは晴れました。政府へ通達しておきます。しかしながら、あくまで自衛に努めて、極力逃げるようにしてください。ライフル弾二発で倒せる相手ばかりじゃないんですから」

「はい、それはもう。子の改造をしてくれた先生にも、同じことを言われましたから」


 老女は疑いが晴れて安堵した様子で、アパートから立ち去るシバとシーリを見送った。

 シバとシーリは車に乗り込むと、次の目的地へと走り出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 老人を始末するような事態にならなくてよかった
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