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 唐突に、隣国が戦争を仕掛けてきた。

 もともと休戦中の間柄だったため、いつ戦争が再開されても不思議じゃない状況ではあった。

 そのため、シバが所属する国では、戦いの準備が出来ていた。

 それは以前に起こった、完全機械化人間たちが起こした暴動の際に受けた被害についても、問題ない。

 企業が支配する中州の街から戦力を追い出すため、国境近くの基地の兵器たちが暴走を起こさせた。その結果、それらの基地では暴走兵器を破壊するため、多くの人員や武器弾薬を消費していた。

 この被害について、武器弾薬は再生産されて配置され直し、身体の一部を失った兵士は機械の義手義足で戦線復帰している。

 そのため基地の機能は、原状復帰まで戻っていた。

 要するに、戦争することに過不足ない状況である。

 しかし国を治める政府と企業は、この暴動の件を利用することにした。

 敵国である隣国に、暴動によって軍事基地が機能不全を起こしているのだと、誤情報を流したのだ。

 そして隣国は、暴動が起こったことと、基地に被害がでている事実を裏取りして、この誤情報を真実だと勘違いした。

 防衛力が劣っているいまなら、国土を切り取れるかもしれない。

 その判断の下、急いで戦力を集め、そして休戦協定を破って戦争を仕掛けてきたのだ。


「こっちの国が、罠を仕掛けて待っているとも知らずにな」


 シバは自身の念動力で上空に留まりながら、眼下をばく進している敵国の戦車隊一個師団規模を見ている。兵士を車体に乗せるタンクデザントなんて真似までして、悪しき資本主義の国の土地を奪うのだと張り切っている様子だ。

 シバが視線を上空の遠くへ向けると、両軍の航空機が空中戦を行っていた。進出する軍隊のために制空権を得ようとする敵国側と、空を取られると面倒だからという理由で阻止している味方側。ミサイルやフレアや機銃で、かなり賑やかなことになっている。

 そうした防空隊の活躍もあって、敵軍地上部隊は空の援護なしに進むしかなくなっている。


「さて、そろそろ予定地点を過ぎるが」


 シバが見ていると、自軍の情報更新が起こった。

 侵攻している敵軍を撃滅するための部隊と、敵国に逆侵攻を行う部隊に出動が命じられた。

 これ以上の敵の侵入を防ぎつつ、敵国の国土を切り取りつつ敵の後方部隊を撃滅し、戦争に勝利する。

 そのためのお膳立てが出来たらしい。


「そして敵の侵攻部隊は、超能力者たちの実力を見せるための標的に早変わりってわけだ」


 シバが呟きを漏らした次の瞬間、地上を爆走していた戦車の一台に、地上で起こった雷が直撃した。

 いや、電創力エレクトロキネシスの超能力者が生み出した電撃が、戦車を穿ったのだ。

 昨今の戦車は、電子機器を多用した作りになっている。そのためか、雷のような電撃一発で、急停止してしまっている。

 これが自然の雷なら、金属の車体表面を流れることで内側まで流入しなかっただろう。

 だが、あの電撃は超能力者の能力だ。電気伝導を無視して、戦車の中まで電撃を貫くことも可能だった。


「戦車に相乗りしていた歩兵が真っ黒こげだ。戦車の中の兵士も、同じ状態かもな」


 シバは上空から見下ろしながら、戦況を見ていく。

 戦車の一台が撃破されたことで、ようやく敵軍は歩兵を戦車から下ろして展開を始める。

 敵側の歩兵も機械化されているようで、走る速度が異様に速い。恐らくタンクデザントしていたのは、機械化した身体のエネルギーの節約のためだったのだろう。

 そうこうしている内に、戦車を護る機械化歩兵という、軍事上では理想的な部隊になっていた。

 ここに航空機支援や遠距離砲撃が加われば盤石なのだが、シバが属する側は、そこまで許すつもりがない。

 ともあれ、そうして部隊展開を終えた敵軍に対するは、およそ百人ほどの人間たち。その格好は統一感がなく、私服を着ていたり、プラカップに入った飲み物を手に持っていたりと、まるで街からそのまま出てきたような姿の人ばかり。

 戦場に民間人の風体の人たちが現れたことで、敵軍兵士に動揺が見られる。

 しかしそれも、プラカップ容器の中身を飲んでいる男性の身体から稲光が出てきて、その電撃が戦車を直撃するまでだった。

 ここに至って、ようやくその百人が普通に人ではなく超能力者だと分かったのだろう。

 敵軍兵士と戦車は、一斉攻撃を始める。

 砲弾と銃弾が飛んでくるが、その途中に泥の壁が立ち上がり、砲弾を上方向へ滑らせて逸らし、銃弾は泥の中に埋没させた。

 そうして攻撃を防いだ泥の壁は、次には移動を始める。まるで高波かのように、敵戦車部隊へと殺到する。

 泥の波に呑まれて、機械化歩兵たちがひっくり返り、戦車が泥濡れになる。

 そこに再びの雷のような電撃。泥に濡れていた兵士と戦車が、広範囲に渡って感電した。

 感電した影響で、機械化兵士たちは機械の体の制御を失って暴走して、曲げてはいけない以上に手足や背中がねじ曲がっていた。


「うわっ。エグッ」


 シバが思わず感想を漏らした間にも、百人の超能力者からの攻撃は行われている。

 電撃や泥もそうだが、炎や突風が敵軍へ飛んでもいく。電撃によって擱座した戦車が浮かび上がると、まるでピンポールのようにその周囲を飛び回り始める。敵軍兵士が見えない手で潰されたかのように、何もない場所で捻りつぶされたりしている。

 そうした直接的な超能力の他には、急に敵兵士が同士討ちをはじめたり自殺を行ったり、戦車が唐突に消えたと思ったら上空に現れたりと、搦め手のような効果のある超能力も発揮されている。


「A級とB級の大盤振る舞いって感じだな」


 かなり優勢に戦っている超能力者たちだが、その数は百人しかいない。

 それに比べて、敵の戦車隊は師団規模、戦車二百台と歩兵五千名だ。

 この数の差は圧倒的であり、超能力者たちが全能力を振り絞っても、全てを押し止めることは難しかった。

 その証拠に、敵軍は超能力者たちと正面で戦う部隊と、横を迂回して進もうとする部隊に分かれ始めていた。

 シバはその光景を上空から見ながら、敵軍の動きを味方へと伝えていく。


「――これで、対処できるはずだが」


 百人の超能力者たちに新たな動きはない。相変わらず、正面に展開する戦車と歩兵たちの相手をしている。

 では迂回し始めた敵を誰が叩くのかというと、超能力者たちの遥か後方で待機していた正規の軍隊だ。

 戦車と機械化歩兵に加えて、そして久々の実践でデータがとれるとあって試作兵器も多く投入されている。四つ足の人型兵器や、突撃ドローン編隊などという色物まであるようだ。


「突撃ドローンで一当てしたから、残りの部隊が突撃するって感じのようだな」


 シバは後方部隊に目を向けていたが、視線を超能力者たちの戦いぶりに戻す。

 今回、シバがこうして上空でとどまっているのは、超能力者たちの戦いぶりを上空から撮影する任務だからだ。

 シバの目元を覆う多目的軍用ゴーグルは、こうした偵察撮影にも向いているのも理由ではある。

 しかし一番大きな理由は、シバには対人兵器に対する強力な防御性能を持っているからだ。

 地上からの流れ弾が来ても、航空機からの機銃の弾でも、念動力で弾き飛ばすことが可能。ミサイルで狙われても、近接爆発なら無傷で済ませられるし、接触信管なら念動力で部品単位までバラバラにして対処できる。

 航空機による高速突撃が一番危険だが、シバも念動力で上空を飛べるため避ければ済む。

 つまりは、上空からの撮影を延々と続けるためには、かなり有用な人物だとして、白羽の矢が立ったわけだった。


「戦っている仲間を下に見てたたずむなんて、俺のコードネームのコンバット・プルーフって名前が泣きそうな役目だけどな」


 実際にシバがあの戦車師団と戦っても、蹂躙できる程度の実力はある。

 しかしシバの超能力は、百キロ以下かつ自身から二メートルの圏内しか影響を与えられない。つまり、撮影の際に絵面が地味になってしまうのだ。

 これから先は超能力を大々的に活用しようとしている、資本主義社会の国としては、超重量の戦車が空中に浮いて倒れたり、超能力で戦車が爆発炎上したりといった、強い絵面で宣伝したい。

 そのためシバの超能力の活用法は、上空からの撮影係に落ち着いてしまうわけだった。


「撮影自体に不満はないけど、戦車隊の殲滅が終わった後に、もう一つ任務がなければなぁ……」


 シバが愚痴っていると、超能力者たちの集まりから一人が上空へと昇ってくる。秒速三メートルほどの速さ――エレベーターより少し早い程度だ。

 やがて、その人物はシバと同じ高さへと到達する。

 シバが目を向けると、その人物はシェットテリア・ボーダー ――建築系企業に所属するA級超能力者だった。


「やっほー、ザコザコのC級の政府の犬。撮影なんて雑用、ごくろうさまー♪」


 あからさまに労いの気持ちのない口調に、シバは気疲れする気持ちになる。


「下では戦闘が続いているが、参加してなくて良いのか?」

「いいの、いいの。わたし様の本番は、この後なんだし。一足先に休憩したって、バチは当たらないって」

「こっちとしては、シェットテリアが上空に逃げてきたせいで、標的の一つに見られてしまったみたいなんだが?」


 敵の機械化兵士の何人かが、シバとシェットテリアに向かって銃弾を放っている。

 打ち上げの弾道かつ、上空には風もあるため、弾丸はあらぬ方向に逸れてしまい、シバたちには当たらない。この条件で命中させようと思ったら、放つ兵士の運が上限値であるか、撃ち込まれるシバかシェットテリアの運が底値になっているかだろう。

 その事実は、シバも認識している。

 しかし付近を銃弾が飛んでいく様を、平気で見ていられるかは別問題だった。


「おい、シェットテリア。こっちに寄れ。不運な弾丸が来ても、能力で守ってやれる」

「えー、どうしようかなー? ザコザコに近づくと、セクハラされそうだしー?」


 ニヨニヨと笑うシェットテリアに、シバはイラっときた。

 だからシバは、問答無用だとシェットテリアの肩を掴むと、自身の身体近くに引き寄せた。

 するとシェットテリアは、男性との肉体的接触に免疫がないかのように、顔色を赤くする。


「は、はぁ~? なに、ザコザコのクセに、わたし様に触ってんの。慰謝料と賠償金で、破滅させてあげてもいいんだけどぉ?」

「馬鹿言ってんなよ。この後の任務には、俺とシェットテリアは抱き合った状態で飛ばないといけないんだぞ。このぐらいで慰謝料だ賠償だと、顔を赤くしてどうする」

「そんなことわかってるし。まったく、これだからザコザコは嫌なんだ」


 ブツブツと呟くシェットテリアを放置して、シバは地上の戦いを映像に収めていく。

 敵戦車師団が分かれて数が減っていたこともあり、一時間も経たないうちに敵側は潰走を始め、シバの撮影任務は終了となった。

 そしてシバはシェットテリアを連れて、敵国の軍事基地へと向かう任務へと移るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] A,B級の能力者なんかを撮影係になんかさせたらそれこそ企業に睨まれますもんねー C級でありながら利便性が高いシバはこうやって使い勝手良くあちこちで働かされるんだなあ
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