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 シバたちが調査を命じられた超能力詐欺案件は、いくつかあった。

 最初に調べることにしたのは、調査が簡単そうな『超能力水』販売業者だ。


「へー。これが噂の、超能力で作った水なのかー」


 シバが、しげしげとペットボトルに入った水を見る。

 その長方形のペットボトルにはラベルがなく、中にある水は変哲もない水にしか見えない。

 シバがじっくりと観察していると、販売員の男性がにこやかにセールストークを始める。


「そうなんですよ。これこそが、超能力者が無から作りだした神秘の水なのですよ。これを飲めば、超常的な力によって、身体の不快感を癒してくれるんです」


 まるで、とても良い物のように語ってはいる。

 しかし言葉をよく聞けば、なんの効果も保証していないことに気付ける。

 こんな説明で水を買う人がいるのかと、シバは疑問に思ってしまう。

 しかしシバたちがいる場所と少し離れたところで、感激したような声を上げている人がいた。


「すごーい! 超能力って素敵! この水、買うわ! 今すぐ飲みたい!」

「お買い上げありがとうございます。折角なので、試供品をお渡ししましょう。こちらをお飲みください」

「ありがとー!」


 シバが視線を向けると、二十代の女性がいた。彼女は何も考えていなさそうな笑みを浮かべながら、対応してくれている販売員から一口分の水が入ったペットボトルを受け取り、それを素か指す飲み干していた。


「あー、よく冷えていて、胸の内側がスッとするー」

「超能力水の効果、実感して頂けましたか?」

「うん! 追加でもっと買っちゃう!」


 シバは女性の言葉と行動を見て、販売員側が雇った演者サクラだと思った。

 しかし、本当に女性が購入手続きを行い、その場でペットボトルの水を飲みだしたのを見て、逆に本当の客なんじゃないかと考え直した。

 そうしてシバが他の客に注目していることに気付いたのか、対面の販売員が販売攻勢を強めてきた。


「あのように、購入して頂いた方々からは好評をいただいておりまして。これだけ払う価値は十分にあるかと。それに、いまダースで購入を決定して頂けたのなら、特別に、そう特別にダースごとに二本追加でオマケを進呈いたしますよ」


 販売員が提示してきた金額は、水にしてはべらぼうに高い値段だった。それこそ、好事家が購入するような、数十年寝かしたビンテージの酒のような値段だった。

 シバがボッタクリだなと感想を抱いていると、唐突に隣に座っていたシーリが驚いたような声を上げる。


「大変よ、ダーリン。大企業が超能力水を販売するのですって! 値段も普通のお水と変わらないわ!」


 シーリが手元に持っていた板状の通信補助具を操作して、この販売会場中に見えるほど大きなモニターを拡張現実上に展開した。

 シバが目を向けると、大規模飲料メーカーから超能力で生み出した水の販売のお知らせが、そのモニターに映し出されていた。

 しかも、この販売会場とは違い、実際に超能力者が生み出した水をタンクに満たしていく映像付き。加えて、いま充填中というリンクがあり、それを表示させると、超能力者の水作りのライブ映像まで流れだした。


「いっけなーい。操作を誤って、こんなに大きなモニターをだしちゃったわー」


 シーリが下手な芝居で弁明しながらモニターを小さくしようとするが、逆にモニターをより大きくしてしまう。

 そのモニターの映像を見て、会場にいる販売員たちは真っ青な顔になり、客は手元の資料とモニターの宣伝の値段の比較をする。


「大企業があの値段で売るなら、なあ」

「大企業の保証があるわけだしな。ここで買わなくても」


 客は次々と超能力の夢から覚め、販売会場を後にし始める。販売たちが押し止めようとするが、その流れは止められなかった。

 シバとシーリも、その流れに紛れる形で会場の外へ出ていく。


「……シーリ。あの映像は本物なのか?」


 シバが退避がてらに小声で尋ねると、シーリは当然とばかりに頷き返してきた。


「こっちで超能力水なんて販売物がありますよって、事前にあのメーカーに報告書を送っておいたんだ。そんな物が商品になるなんてって驚いていたけど、すぐに生産ラインを構築してくれたよ。もともとA級の水創力者を確保してあったから簡単だったらしいよ」

「飲料メーカーにとって、水源の確保は死活問題だからな。万が一の保険に大量の水を出せる超能力者を確保していたわけか」

「これも新しい価値の創造だってさ。まあ、普通の飲用水に毛が生えた程度の値段でしか売れないだろうって、あの値段になったらしいけどさ」


 詐欺業者が売っている水は、超能力で作った水だと嘯いて高値で売っているもの。

 しかし逆を返せば、超能力で作った水を買いたいという客は、騙される人が出るほどに多いということでもある。

 そこに飲料メーカーは商機を感じ、適正価格の超能力水の販売を始めて、顧客の獲得を目指したというわけだ。

 これは詐欺ではなく、立派な飲用水の販売。価値を生まない行為ではなく、価値を作り出す商いだ。

 誰に憚ることなく、大手を振って飲料メーカーは超能力水を売ることができる。


「大企業が乗り出してきたんだ。超能力水関係の詐欺は撲滅だな」

「犯罪組織の売り方は、騙されてまで購入する人の数が限られることもあって、厚利少売が基本だからね。大企業が薄利多売を推し進めるのなら、同じ分野での商売は厳しくなるね」


 そんなことを話し合っていると、販売会場から多数の販売員が飛び出してきた。そこに加えて、首から下を機械化した人が数人でてくる。

 その人たちは、視界の先にシバたちを捉えると、急いで近寄ってきた。


「余計なことを客に教えたって、お礼参りの積りじゃない?」

「面倒な。だが他に調べる場所もあるし、そっちに情報を回されると、より面倒臭いからな」

「はーい。じゃあ、監視カメラはジャックしちゃうね」


 シーリが手元の補助端末を利用して、ここの周囲にある全ての監視網を掌握。欺瞞情報を流し始める。

 準備が整ったのを見てから、シバはゆっくりと歩いていく。同時に、超能力で道端にある小石やガラス片やコンクリート片などを、能力の圏内に収めたままの状態にしていく。


「見つけたぞ、テメエ! 待ちやがれ!」

「落とし前、つけてもらうからな!」


 シバは、彼らから敵対する言葉を聞けた瞬間から、容赦する気が失せた。

 シバは自身の能力を十全に発揮する。清掃が行き届いている中州の街よりも、ゴミが当たり前に存在するこちらの区画の方が、投射する物に溢れている。そのため、存分に追ってきた詐欺業者を殲滅した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 企業側もそんなアホみたいな商品売れるとは思わんかったんやろなあ
[一言] 詐欺師たちも本当の超能力を全身で体験できてよかったよかったw
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