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 国中で超能力者の実在が判明してから、超能力がらみの事件が起こるようになった。

 事件とはいっても、本物の超能力者が関わっていることは、ほぼない。

 本物の超能力者の話は、政府や大企業所属の超能力者が任務を行った際に誰かに見られていたぐらいで、ハッカーなどが証拠映像を消してくれるため、証拠のない噂で終わる話だった。

 では本物の超能力者が関わっていない、超能力者絡みの事件とはなにか。

 一件矛盾しているような事件ではあるが、話は単純。

 超能力者や超能力者の関係者だと偽っての、詐欺事件なのだ。


「その詐欺事件の調査に、俺とシーリが駆り出されるだなんてな」

「万が一にも本物の超能力者が関わっていたら、対処する方も本物じゃないと厳しいから、仕方ないんじゃない?」


 シバとシーリは、二人ともボディースーツと防刃パーカーを着た私服姿で、中州の街の対岸に広がる川縁の街中を歩いている。

 中州の街と大橋で接しているため技術の流入があり、そして中州の街よりも治安維持活動が弱い地域なため、色々な詐欺事件が起こる地域である。

 例えば、とある大企業の秘匿情報を売ってやる、中州の企業が温めている儲け話を掴んだ、中州の富豪が使っている美容品を横流ししてやる、などなど。

 ほぼほぼ嘘な情報や品物ばかりだが、ほんの僅かに本物が存在していることもある。もし本物なら莫大な金を掴むチャンスなのは間違いないため、こうした詐欺が絶えない背景になっている。

 そうした詐欺事件に、新たに超能力者詐欺が生まれた。

 どういう詐欺なのかというと――


「――えーっと。超能力者がセミナーを開いて、超能力の実演をする。超能力開発機構の職員だったと語る人が、大金と引き換えに被験者を超能力が発現するという怪しげな機械に繋げる。類似に、超能力が発現する水を売る業者もある。超能力があれば完全犯罪ができると、暗殺などの犯罪行為の依頼を受ける」


 超能力者の実在が知れ渡った昨日の今日で、随分と詐欺の種類があるものだと、シバは呆れてしまった。

 その様子を見て、シーリは笑う。


「勘違いしているよ、シバ。それらの詐欺は、元あった健康詐欺のメソッドをそのままに、看板を超能力って書き換えただけなんだよ」

「あー、なるほど。超能力の部分を健康に置き換えれば、詐欺内容に聞いたことがあるな。完全犯罪以外は」

「バレない犯罪方法なんて、昔から使い古された話でしょ。冠に超能力をつけただけで」


 バレなければ犯罪は犯罪じゃない。そう嘯く輩は、どの時代にも一定数いる。

 しかしこの資本主義を奉じる国において、犯罪はバレなくても罪だ。

 なにせこの国おいて価値を生むことが至上であり、価値を損じる行為は咎められるものである。そして犯罪という行為は、益を生まずに国や社会の価値を損じる行動だ。だから行為がバレようとバレまいと、社会の価値を減じただけで罪深いとされている。


「というか、バレない犯罪なんて、ないだろ?」

「今の世は、どこもかしこも目や耳がある社会だし、誰も見てなくても何かが見ている可能性はあるしね」


 街中に仕掛けられている監視カメラはもとより、車のドライブレコーダーや、部屋の中を映すペットカメラに、不法につけられた盗聴器もある。

 シーリほどのハッキングの腕があれば、さらに多くの目と耳の情報を入手できる。

 罪を犯した当人が見て聞いた光景を、脳の中に入れた生体機械のインプラントから抜き取ることだって、不可能ではないのだから。


「政府や企業がバックにいれば、犯罪行為がもみ消しになることもあるが」

「それ、闇に葬られるだけで、誰にもバレてないわけじゃないでしょ?」

「少なくとも、犯罪をもみ消してくれた人にはバレているってわけか。やっぱりバレない犯罪はないってことだな」


 シバやシーリが政府の犬として、殺害や破壊任務を行っても罪には問われない。

 それは政府が活動を保証してくれるからではあるが、政府の犬がなにをしてももみ消してくれるというわけでもなかったりする。


「俺たちの犯罪だって、社会の価値を減らす人や組織を潰す以外じゃ、庇ってはくれないんだったよな」

「だから調査から入るんでしょ。その犯罪者が、価値を生まず、価値を減じるだけの存在であることを各個とするためにね」


 詐欺事件は、価値のないものと引き換えに他者の金品を騙して入手するという、資本主義社会の価値を減じさせる行為だ。

 資本主義の例の際によく出す、お金と品物の話がある。

 Aという人が百円を持っていた。Bという人が、その百円を欲しいと考えた。だからBは百円の価値あるものを作り出し、Aにそれを売って、百円を得た。その後にAは再び百円を取り戻したくなり、Aも百円の価値のある物を作り、Bに売って百円を得た。それらの行動が繰り返し行われて、社会には百円の価値ある物品が次々に増えて、社会全体に価値が増えて豊かになっていく。

 資本主義を端的に説明する例だが、これを詐欺事件に当てはめるとこうなる。

 Bは百円が欲しくなり、嘘をついて全く価値のないものをAに売った。その後にAも百円が欲しくなり、こちらも嘘を付いて価値のない物を売り、Bから百円を受け取った。

 これらの行動はいくら繰り返しても、社会にある価値あるものは百円だけ。どれだけ時間をかけても、社会は豊かにならない。

 この話の上では価値が減じていないように感じられるだろうが、実社会の場合、そうは行かない。

 人間は生きているだけで、食料、衣服、電気、邸宅などの価値あるものを消費している。

 詐欺が溢れて社会の価値が上がらない場合、それらの消費活動が社会の価値を減少させ続ける。

 その果てに待つのは、価値あるものがない状態による経済崩壊だ。

 そんな未来が来ないように、シバやシーリなどの政府の犬は、犯罪者を撲滅することで価値の停滞を防ごうとしている。

 価値を減じる存在の排除は、巡り巡って、価値を上げる補助へと繋がる。

 つまり究極的に行ってしまえば、シバやシーリが法律上では犯罪となる殺害や破壊を行っても許されているのは、社会の価値を生む補助をしていると考えられているからである。

 ともあれ、シバとシーリはリストアップされた犯罪組織の実体を探るため、年若いカップルに扮して実態調査に乗り出したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう価値観の社会であっても詐欺は存在するんだなあ
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