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 大橋で起こった、中州の街の企業に所属する超能力者と、国の各地から集まった不穏分子たちの衝突。

 この一件で、国中に一般市民に広く超能力者が実在することが知られた。

 その結果、どうなるかというと、空前絶後の超能力ブームが到来した。

 そしてブームの中心となるのは、やはり超能力開発機構だった。


「ブームになるのは、どうでもいいが……」


 シバは超能力開発機構へ続く道の上で、溜息交じりの愚痴を漏らす。シバの格好は、機動隊用の特殊ボディースーツを、顔に多目的軍用ゴーグルをつけた、政府の犬仕様だ。

 そんな格好で道の上にいてなにをしているのかというと、交通整理だ。

 なんの交通を整理しているのかというと、国中から集まった超能力者になりたい人達が超能力開発機構の受付へ進む列をである。

 シバが目にできる範囲ですら、希望者は一万人を越えている。既に受付を済ませた人や、今後に来る人も合わせれば、十万人規模になるんじゃないかと予想できる。

 老若男女問わずではあるが、大人しく列を作って並んでいる人たちの姿に、シバは頭を抱えたくなる気持ちだった。


「物好きというか、なんというか……」


 シバは実際に超能力者であり、裏の事情もよく知っているため、超能力者になりたがる人の未来が決して明るい物じゃないことも分かっている。

 十万人の希望者がいたところで、A級超能力者として覚醒できるのは一人か二人、B級やC級が大半で、F級と判定される人も少なからずいるだろう。

 A級超能力者となれれば、大企業のお抱え超能力者として、悠々自適な生活を送ることが出来るだろう。

 B級やC級であっても、価値を生み出すことができる能力者であれば、企業や政府に重用されるだろう。

 しかし取るに足りない価値しかない超能力者の場合、待っているのは使い捨てられる未来しかない。先日の大橋での暴動を先導した人物だって、F級と判定されて捨てられた三人の超能力者だったのだ。

 この列に並んでいる人たちの大半が、その道を辿らないとも限らないのが現実といえる。

 そこまで考えてから、シバは改めて列に並んでいる人たちの姿を見直した。

 純粋に超能力者になれることを夢みている、若年者たち。話のタネに参加していると思わしき、物見遊山の気持ちが顔にでている中年者。

 こうした余裕ある態度の者は、少数派だ。

 大勢を占めているのは、ボロボロの衣服を着ていたり、痩せて垢だらけの不衛生な格好だったり、人生に捨て鉢になった目をしているような、人生に後がないような雰囲気の者達だ。

 彼ら彼女らは、この国の根幹である資本主義に適応できない、価値を損じる存在だと判断された人たちだ。

 人はだれしも、水や食料を飲食し、生活電力を消費し、道路や上下水道の使用で経年劣化を早め、国の価値を下げている。

 だからこそ、その必然的に下げてしまう価値を、労働や発明で元以上に価値を高めることが、国の発展には必要不可欠だ。

 この国は、新しいことに挑戦する者に優しい。挑戦こそが資本主義社会において、新たな価値を生む行為だと分かっているため、活動の補助が手厚いからだ。

 だが、様々な理由で普通に働けない人もいることも確か。

 しかしその場合は、普通じゃない方法で働けばいいと、この国では考える。

 足が動かない病気ならば手だけでも動かし、四肢が動かないのなら頭を働かせ、全身病気で何もできないのなら病気の治験という形で社会貢献する。

 そうした、当たり前の働き方が出来ない人たち。

 働かずに楽して暮らせないかと考える、旧時代の価値観に囚われ続けている人たちに、この国は優しくない。

 シバ自身、孤児から実験体へ、そして高専生かつ政府の犬へと、保護から仕事へと順調に進んだため、どう優しくないのかに詳しくない。

 しかし、暗い顔で超能力者になろうと列に並んでいる人たちの姿を見ると、一縷の望みにも縋りたいと思う人が出るほどには優しくないのだろうと察せられる。


「大橋での戦いの決着が、企業側の勝利に終わったのも理由だろうな」


 あの三人の超能力者が集めたのは、この国の社会に不満を持つ不満分子や犯罪者たちだ。

 シバから見れば暴徒でしかなかったが、楽して生活したいと考える人たちにとっては自らの代弁者たる英雄の一団だったのかもしれない。

 国を牛耳る大企業に一泡吹かせてくれるんじゃないかと期待したのに、大した被害も出せずに鎮圧されてしまった。

 そんなニュースが国中に流されたことで、ようやく現実を見ることが出来たのかもしれない。

 しかし楽な生活を夢みることを止めることができず、超能力という楽に手に入りそうな力を望んでいるんじゃないか。


「超能力っていっても、そんな良い物じゃないんだけどな……」


 シバにとって、超能力というのは見えない日用機械のようなものだ。

 あれば便利ではあるが、替わりとなる物がなくもないもの。

 例えばシバの能力を機械で代替するのなら、百kgの物体を動かせるリフト、物体を射出するコイルガンやレールガン、細かい作業を実行できるロボットハンドがあれば、大体の部分を網羅できる。

 シーリの能力だって、スタンガンと超高性能コンピューターがあれば代替可能だ。なにせハッキング能力は、超能力ではなく、シーリの技術なのだから。


「やはりどう力を得るかではなく、どう力を活かすかこそが、世を生きる秘訣なんだよな」


 そう考えて期待していないからこそ、シバは列の整理活動が億劫なのだ。

 仮にA級の超能力を得たところで、楽して暮らそうと考える人では、その超能力を有効活用できない。

 つまりは価値を生まないことに従事させられているため、シバは労力を浪費させられていると感じている。

 しかし、これは政府からの任務だと考えたうえに、社会の価値を生むのではなく社会の価値を減じないための活動なのだと納得することにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 超能力者を作るのに孤児とかを集めてたのが向こうから来てくれるようになるとはなあ 希望者のうちどれくらいの人間が成り上がれるのかねえ
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