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シバは、この三人の全身を機械に改造された人たちに同情したものの、だがそれだけだった。
「お前たちの所為でゴーグルが壊れたからな。任務の変更が受けられない。ということは、お前たちを排除するしかないんだが?」
シバが最終通告代わりの台詞を吐くと、相手側も戦闘態勢に入る。
「我らニ勝てると、思わなイことだ」
「君の事ハ調べ尽くしテいる。暴走しタ基地ヲ守る君の、戦闘データも入手してイる」
「こンなに早く帰っテくるのは予想外だったケどね」
三人が手振りすると、護衛である五人の重機械化人間たちがシバに向けて機関銃を連射し始めた。
シバは念動力で弾丸を防ぎ続けるが、重機械化人間たちは機関銃の銃身が焼けついても良いかのように連射を止めない。
「俺の能力を知っている割に、攻撃が温い――」
シバが煽りの言葉を投げかけた瞬間、三人いる完全機械化人間の一人から眩い稲光が発生した。その高圧高電流はシバへと突き進み、シバの能力圏内である二メートルに入った瞬間に散らされた。
「――おい。お前たちの能力はF級判定じゃなかったのか?」
今の電撃の威力は、シーリがスタンガン程度しか威力がないとしてF級判定された過去があったことを考えると、明らかに評価以上の能力があった。C級ないしは、限定条件でB級に認定されておかしくない威力だ。
こんな実力があるのなら、完全機械化した身体という先行投資分も含めて考えると、超能力開発機構に捨てられる理由がない。
シバがその違和感を抱いていると、今度は別の完全機械化人間の一人が手を掲げる。すると重機械化人間の一人が空中に浮き、そしてシバへと突っ込んできた。
「お次は俺と同じ念動力ってわけか!」
シバは、空中を飛んで突っ込んでくる重機械化人間から、慌てて距離を取る。
重機械化人間は、シバの念動力を対処した機械の身体を持っているうえ、優に百kgを越える重量がある。
そのためシバの能力では、重機械化人間を無力化することはできない。
しかしシバが逃げても、その重機械化人間は銃撃を続けながら、完全機械化人間の念動力で空中を飛んで迫ってくる。
「面倒臭いな!」
シバは避けることを止め、近づいてくる重機械化人間に自分から突っ込む。そして衝突寸前で、すれ違うようにして回避する。
その直後、重機械化人間が持つ機関銃が爆発した。
シバは接近した際に念動力を発動し、発射されたばかりの銃弾を銃身の中で止めて、銃身内で弾詰まりを疑似的に起こしたのだ。そして撃発した次弾が銃身の中で止まる弾丸と衝突し、銃弾の爆発エネルギーが行き場を失い、銃身の圧力が増して銃身自体を破断させたのだ。
ここまでの目論見は上手くいったものの、シバの表情は優れない。
「チッ。まともな武器を持たせてないな」
舌打ちするシバの左右の手には、先ほどすれ違った重機械化人間の装備していた武器の一部、大口径自動拳銃と大型ナイフがそれぞれ握られていた。
対人用なら重用できる拳銃とナイフだが、全身が重機化しているともいえる重機械化人間を相手にするには威力不足だ。
「僕ノ念動力と合わせれば、携行武器よリ肉弾戦の方ガ、重機械化人間を活かセるし」
「その意見には同意するが、やはりF級判定の能力じゃないぞ!」
いま重機械化人間を飛ばしているように、百kgを越える質量を、ある程度の速さで十メートル以上の距離があっても操れる。
これだけでC級の判定を受けることは確実だ。
完全機械化人間たちが、低能力を理由に超能力開発機構に捨てられた能力者だという事実と、いまの現実と噛み合わない。
シバが疑問を募らせていると、横合いから車が吹き飛んできた。路肩に止めてあった自家用車だ。
「五百kgはあるだろ、その車!」
機械化人間だけでなく、車までも念動力で飛ばせる。操っている重量だけで、B級認定されても不思議じゃない能力だ。
そして、ここまで単純に重量で責められると、念動力で操れる重量の許容範囲が狭いシバは弱い。
機械化人間と車、そして相変わらず続けられる銃撃に、シバは防戦一方になってしまう。
そこに、完全機械化人間たちから言葉がかけられる。
「我らのノ目的は、超能力開発機構ニ復讐することダ」
「逃げるノなら、追わないヨ?」
「今なラ生きて帰れルけど?」
シバは攻撃を空中を飛び回りながら避け続けつつ、状況を再確認する。
三人の全身機械化人間は、四体の重機械化人間たちに護られている。それら重機械化人間たちは機関銃で銃撃するだけで、それ以上のことはしてこない。シバに向かってくるのは、一人の重機械化人間と車が一台。
そこまで確認して、違和感が一つあった。
三人の全身機械化人間は超能力者たちだ。能力は、一人が電創力、一人が念動力、もう一人は未判明。
いまシバは追い詰められつつある状況だ。それにも関わらず、念動力しか使ってきていない。
これは、シバを追い払らおうと手心を加えているのか、それとも。
「いや、F級判定だったはずが、B級に近い能力まで向上しているんだ。理由は一つしかないよな」
シバは迫ってきた車を、掠るようなほどの寸前で避ける。そして、すれ違いざまに、念動力でボンネットやドアなどの留め具を分解した。
車から離脱したボンネットを、シバは念動力で掌握すると、フリスビーのように回転させながら完全機械化人間たちへと射出した。続いて車のドアも同様に。
高速で飛来する二つの鉄塊。
その迫力に怖気づいたのだろう、重機械化人間たちは銃撃を止めて完全機械化人間たち背中にかばった。
それと同時に、シバを追いかけ回していた重機械化人間と車が、制御を失った様子で空中を落下する。
この状況を見て、ボンネットとドアは重機械化人間たちによって防がれてしまったものの、情報という収穫があった。
「なるほどな。お前たちの超能力が分かった。電創力、念動力、そして感応力だな。そして感応力で、お前たち三人は能力を繋ぎ合い、一人が能力を使用する際に他の二人が能力を補助しているんだ。だからF級判定でありながら、B級程度まで能力を向上しているんだ」
そう考えれば、色々と辻褄が会う。
重機械化人間たちが自分の意思を感じさせない動きしかしていないのも、投薬や脳改造で自意識を壊して、感応力による命令を実行する駒に作り替えているのだとすれば納得できるからだ。
ネタが割れてしまえば、対処は簡単だ。
「念動力と電創力が通用しない方法で攻撃すれば、お前たちの手駒は重機械化人間しかいなくなるんだものな」
シバは地面に墜落した車へ近寄ると、自身の念動力で車を細かく分解していく。
ドア、ガラス、マフラー、モーターエンジン、スプリング、タイヤ、ナット。
瞬く間にフレームを残して車が分解され、それらの部品が地面に散らばる。
その部品の一つ――タイヤを止めていたナットが、いきなり急加速して撃ち出され、三人の完全機械化人間へと襲い掛かる。
咄嗟に重機械化人間の一人が身体で防ぐ。だが、ナットが撃ち出された速さは弾丸並みであり、その重さは対物ライフルの銃弾並みだ。つまるところ、対物ライフルで撃たれたようなもの。
攻撃を受けた重機械化人間の腹部に大穴が開き、血ともオイルともつかない液体が穴から大量流出する。しかし幸いなことに、機械化した背面装甲が厚かったこともあって、高速で撃ち出されたナットが突き抜けることはなく、三人の完全機械化人間は無事だった。
しかし、これでシバの攻撃は終わりじゃない。
次々に車の部品が撃ち出され、防衛に入る重機械化人間たちを撃ち据えていく。
一人、また一人と、血とオイルと部品をまき散らして、重機械化人間が沈んでいく。
それでも破壊された仲間を盾にしてでも被害を押さえようとしているようだが、無意味な行動に他ならない。
なにせ車一台分の部品はまだまだあるし、もし部品が尽きても道路の上には別の車の姿があるため、残弾の補充には困らないからだ。
シバが調子よく部品を撃ち出していると、横合いから、先ほどまでシバを追いかけ回していた重機械化人間が迫ってきた。
しかしその重機械化人間も、シバがドアの一つを射出することで破壊した。
こうして、三人の完全機械化人間たちは、残り一体の重機械化人間の背中の陰に身を寄せ合うしか出来なくなった。その生き残りの重機械化人間もボロボロで、あと一分も持たないだろう。
最後の仕上げにと、能力適用上限の百kgあるモーターエンジンが空中に浮かび、あとは撃ち出すだけ――というところで、上空からドローンが一機急降下してきた。
シバが完全機械化人間の悪あがきかと思って撃ち落とそうとして、そのドローンから声が来た。
『待った! コンプ、待った! その三人、生きたまま捕獲して! 政府からの指令だよ!』
その声はシーリのもので、シバは不服さから眉を寄せつつドローンへ言い返す。
「捕獲? この騒動の首謀者だっていうのにか?」
『その部分も含めて『価値がある』と判断したみたいなんだってば』
『その』がどの部分にかかっているのか、シバは察することができなかった。
しかしシバは政府の犬であるため、政府からの指令は絶対だ。
シバは完全機械化人間の三人に近寄ると、重機械化人間から奪っておいた拳銃で発砲し、三人の四肢を破壊した。そうして軽量化した後、三人の連係の元である感応力者だけを、シバが念動力で空中に持ち上げる。
「逃げようとか考えるなよ。あと自殺もなしだ」
その忠告に対し、他の二人が念動力と電創力で攻撃して来ようとする。しかしシバが捕虜とともに念動力で空を飛んで距離を大きくあけると、感応力の効果範囲の外に出たのだろう、一気に二人の超能力が弱体化した。
そうこうしている間に、超能力開発機構の建物がある方向から装甲付きの救急車がやってきた。
救急車から出てきた職員は、完全機械化人間の三人を無力化する電子的処置を行うと、救急車に全員乗り込んで去っていった。
シバはひと段落ついたと溜息を吐いてから、地面に転がったまま放置されている重機械化人間たちの首筋に、大型のナイフを突き入れて止めを刺して回った。




