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 シバが中州の街に戻ってみると、一見すると騒動は大橋だけで起こっているように見えた。

 大橋を進もうとする暴徒と、進ませまいとする大企業と政府の手駒たちで、激しい戦闘が行われている。

 人数も兵器の数も暴徒の方が多いようだが、そちら側の方が状勢不利のようだった。


「こっち側には、A級の超能力者が複数いるからな。当たり前か」


 シバが呟いた通り、A級の超能力者が戦いで猛威を振るっていた。

 以前にシバが組んだ、シェットテリア・ボーダーも参戦していて、彼女は大型の装甲車や重機械化人間を橋の外へ投げ飛ばし続けている。端から落ちたそれらは、川辺の防衛装置に感知され、防衛装置が機動して殲滅に動く。

 他にもA級の超能力者はいて、空間跳躍テレポート能力が一集団まるごと上空に転移させて重力加速度で墜落死させたり、珍しい二重能力者が火と電撃で暴徒を無力化していたり、発光能力者が自前で作ったレーザーで暴徒の兵器を焼き潰していったりしている。

 超能力者以外にも装備は充実していて、回転銃身式機関銃が唸りをあげれば暴徒はひき肉になり、携行用無反動大砲が放たれれば暴徒の装甲車が吹っ飛び、特性の円柱機械は所持弾薬を使い尽くした後は特攻兵器カミカゼと化して暴徒集団に大穴をあける。

 かなり政府と大企業側が優位な状況ではあるが、あとからあとからやってくる暴徒の数に、誰もが辟易している感じがある。

 シバは大橋の防衛は問題ないと判断して、シーリが情報を掴んだ、街に入り込んだ勢力を探しに向かう。

 上陸地点から辿り、超能力開発機構へ続く道を進む。

 シーリからの情報では、その勢力は監視カメラなどの警戒網を潜り抜けているという。

 そのためシバは、顔から軍用ゴーグルを外して、裸眼の目視による索敵を行うことにした。

 すると程なくして、川辺の上陸地点と超能力開発機構を繋ぐ道の半ばほどで、異様な集団を見つけた。

 首から下を三メートル級の人型機械に置き換えた、重機械化人間が五名。その機械化人間に囲んで護られるように、普通の人間に見える三人がいる。

 シバが飛翔して近づいて詳細が見えてくると、普通の人間だと思えた三人も、姿形は人間だが素人間とは違っていることが分かった。

 その三人は、頭から足先までを機械化した、完全機械化人間だった。

 それを見て、シバは眉を寄せる。


「人間の要素を欠片すら残さずに排除した躯体なんて、実現していたのか?」


 重機械化人間の多くが、頭部だけは生身を多く残しているのは、精神安定のためである。首から下を全て機械に置換しても問題はないが、顔の造形が本人の元々の物から外れれば外れるほど精神状態がおかしくなるという。

 自身の顔が精神に影響を与えるという貴重な研究結果であり、頭部が生身という構造的欠陥を克服するために兵器系の大企業が研究中という噂もある。

 つまるところ、全身を機械化した人間が居るはずがないのだ。

 シバが常識と現実の齟齬に悩み、そしてあることに気付く。


「暴徒側にも超能力者がいるはずなんだよな。少なくとも、川辺の防衛装置や街中の監視カメラをハッキングして無力化した、超能力者がいるはずだ」


 五人の重機械化人間たちは、手や背部マウントランチに武器を装備しているため、超能力者だとは思い難い。

 となると、三人の完全機械化人間が超能力者ということになる。


「超能力の強化する方法の一環で、全身を機械化してみた実験体ってところか?」


 シバはそう予想してみるが、もし予想が正答だった場合、どうして実験体が暴動を起こしているのかが分からない。

 真に実験体なら、超能力開発機構ないしは政府や企業が手駒として抱えているはずだからだ。


「とりあえず、無力化してからだな」


 シバは上空から直滑降で、護衛らしき重機械化人間の一人へと跳びかかった。



 シバの上空からの襲撃に、機械化人間たちが反応する。手にある銃器を掲げ、鉛弾をばら撒き始める。身体を機械化しているため、どの武器も重機関銃だ。

 しかしシバの念動力は、自身の周囲にメートル以内かつ重量百kgまでなら、どんな物にでも影響を与えることができる。

 一発一kgもない銃弾など、シバの念動力には通用しない。そのためシバの体の周りを避けるかのように、機関銃から放たれた弾が逸れていく。

 そうしてシバは、無傷のままに機械化人間たちに接近し、自身の能力の影響圏内である二メートルへと至る。

 そこで念動力を発揮し、重機械化人間たちの機械化した手足のネジや留め具を念動力で外そうとして、自身の超能力の限界を越えたために制御に失敗する感触がした。


「これは!?」


 シバは驚きながら、侵入者の一団から距離を離し、地面に着地した。

 シバは先ほどの感触を思い返し、苦い顔をする。


「俺の能力を調べて、対策したのか?」


 シバの能力は百kgまで通用する。逆を返せば、百kgを越えると途端に影響力を失う。

 シバが機械化した手足を壊す際、各部を止めるネジや接合部の金具など、念動力で動かせる軽い物を選択してバラバラにしている。

 どうしてそんな真似をしているのかと言うと、機械化した腕や足は単体で百kgを越えているものもあるため、機械の腕や足をもぎ取ることを失敗する可能性があるため。確実に相手を無力化しようとするのなら、部品をバラバラにした方が確実なのだ。

 しかしだ、仮にそのネジや金具が溶接や接着されていた場合、シバは念動力の影響を広くとらねばならなくなる。それはドライバーで固着したネジを回すとき、ネジだけではなく留めているものまで余計に回してしまうみたいに。

 そして影響を広げるということは、影響を与える物の重量も増えることに繋がる。

 その重量が百kgを越えてしまえば、シバの念動力は影響を失ってしまう。

 要するに、あの重機械化人間たちの身体は、シバの念動力の影響を受けにくいように対策されているのだ。

 こうして貴重な手札の一つが失効されてしまったが、シバは他にも手段を残している。

 シバは撃ち込まれた弾丸の制御を奪うと、反撃に重機械化人間へと撃ち出す。

 しかしその銃弾は、重機械化人間の体表に弾かれて飛び去っていく。


「……本当に俺の能力を把握しているわけか。まさか、その機械化した身体で耐えられる程度の銃弾しか持ってきていないとは思わなかった」


 シバの戦い方は、敵が放った弾丸を返送し、斬りつけてきたナイフの軌道を曲げて自刃させたりと、敵の武器を利用することを基本としている。

 武器という余計な重量を減らすことで、身軽に念動力を使えるようにするために、必要に迫られて生まれた戦い方だ。

 だから敵の武器が弱いと、必然的にシバの戦闘力も下がることに繋がる。

 だが、こういう事態に対応する方法もある。

 シバがその方法を試そうとすると、顔から外して頭にかけていた軍用ゴーグルが、唐突に焦げ臭い臭いを放ち始めた。

 シバが慌てて取り外すと、バッテリーに過電流が発生したのか、白い煙が吹き上がり始めていた。ゴーグルを地面に捨てると、落下の衝撃が切っ掛けになったのか、バッテリーが引火して火が噴き上がった。

 シバは燃えるゴーグルを一目見てから、視線を侵入者の一団へと向け直す。


「このゴーグル、高いんだぞ。どうしてくれる」


 シバが間を持たせるために苦情を告げると、五人の重機械化人間たちではなく、彼らに守られている三人の全身機械化人間たちが口を開いた。


「それハ、申し訳なカった。代わりの品ヲ、君の自宅ニ配達しておこウ」

「しかシ、我々の映像ヲ細やかに撮られるノは困るんだ」

「少なくトも、超能力開発機構ニ報復を終えルまでは」


 機械化した声帯が不調なのか、どの口からの言葉も変な響きがある。

 しかしシバは、彼らの言葉が気になった。


「超能力開発機構に報復? ってことは、お前たちもあそこで超能力を得たのか? どうして敵対して――いや、どういう経緯で敵対することになったんだ?」


 シバが質問すると、三人の機械化人間の内の一人が首を傾げる。


「貴方ニ、ハッキングできなイ。どうやら脳ニ機械を入れていナいんだね。だかラ、私たちの姿が見えテるんだ」

「情報にアる。第一期の実験体だケにある、特徴だダ」

「僕らト、真逆な実験体ダね」


 三人は納得したように語り合うと、一様にシバの方を真っ直ぐに見た。


「私たちハ、人体実験の廃棄品なンだ」

「全身を機械の体にサれて、超能力がF級だかラってね」

「費用対効果ガ悪いって、電源を落とサれて、捨てラれたんだ」


 衝撃的な事実だが、シバは納得もしていた。

 超能力開発機構の研究員は、子供に人体実験を行う人でなしたちだ。

 超能力開発の事故で死者がでたりもしたが、その事実は闇に葬られていることを、シバは実体験から知っている。

 その実験で生まれた死者のように、あの全身機械化の超能力者たちの存在も闇に葬られたのだろう。躯体の電源――つまり生命維持に必要な電力を切って捨てれば、躯体の中に収めれた脳は栄養不足と充填液の腐敗でダメになるだろうと見越して。

 しかし、どうやってかは分からないが、あの三人は生き延びたのだ。そして、全身を機械化された上に捨てられた恨みを晴らそうと、全国の不満分子を集めて討ち入りに来たのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 超能力開発機構そのものが標的でしたか 質と量の戦いになりそうですが彼らは目的を達することはできるのかどうか
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