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 シバが国の外側から順々に、警報が鳴っている基地や工場や施設を回っていると、その警報発信の件数が加速度的に減り始めた。

 シーリが偽の警報を解除していることもそうだが、各地に散った政府の犬や大企業の駒たちが対応に当たったことで、問題が可及的に解決されていっているからだ。

 このままいけば一日も経たずに騒動は沈静化できる。

 シバがそう予想したとき、新たな問題が、シーリからの情報としてやってきた。


『コンプ、大変! 企業支配区に、大量の人が攻め込もうとしてる!』


 その情報を聞いて、この警報含みの騒動の目的を、シバは察した。


「大量の警報を出して政府の犬や大企業の駒を追い出し、防御が手薄になったところを攻め入るってわけか。誰が主導してる?」

『明確な盟主がいるわけじゃなさそう。一応は、地元の犯罪組織が音頭を取っているみたいだけど』

「主体性のない寄せ集めってわけか?」

『国の各地から、失職者を始め、犯罪者や薬物中毒者、不良傭兵に追放軍人を、かき集められるだけかき集めたみたい』


 シバはその現状を考えて、頭痛がする錯覚を得ていた。


「傭兵や除隊軍人に犯罪者がいるってことは、それなりに武装が揃ってそうだな」

『全身を機械化した人もいるし、パワードスーツとか戦車も持ち込んでいるみたい』

「それだけ人や物が集まっていることに、誰も気づいていなかったのか?」

『どうだろう? 政府は把握していなかったらしいけど?』


 秘密主義が強い企業たちは、知っていて黙っていた可能性がある。

 シーリの言外の説明に、シバは呆れてしまう。


「相手を軽く見て無視したのか、それとも何かしらの思惑があって放置したのか。ともあれ、囲いの方は大丈夫なのか?」

『いま、その大量の人たちが大橋を力づくで突破しようとしている。人数と兵器の数の差で、大橋の警備ロボットが突破されたみたい』

「川辺に配置している人型ロボットとかは?」

『うーん。なんかハッキングを受けて、使用不可になっているみたい。基本的に川を渡ってくる人に対応する配備なんだけど、その基本を堅持するようにプログラムが書き換えられているみたい』

「橋を渡っている連中は適応範囲外になっているってわけか」

『川辺の防衛装置の制御を奪取するんじゃなくて、使用条件を厳格に書き換えることで使用不可にするなんて。作業量対効果に優れているよ、ホント』

「シーリの手腕で、元に戻すことはできないのか?」

『無理じゃないけど、ちょっと時間がかかるかな。その元に戻す間に、大橋を突破されるとおもう』

「戻せば、橋を通った連中を追撃させられないのか?」

『そっちは無理。川辺の防衛装置は、川を守ることが根底にあるからね。中州の街まで進出しようとするなら、プログラムの根本を書き換えないといけないし』

「書き換えればいいんじゃないか?」

『簡単に言わないでよ。使用条件の厳格化程度の、表層にあるプログラムを弄るのとわけが違うんだよ。根幹部に手を伸ばしたら、どんな防衛プログラムが働くか、分かったもんじゃないって』


 プログラムの根幹は、防衛装置を作った企業の知的財産だ。その価値ある財産を護るための防衛プログラムだ。侵入者が使っている装置に過負荷を与えるものから、誤作動を起こさせて過電流で壊すものまで取り揃えているに違いない。

 そして昨今のハッカーが使う装置といえば、脳内に埋め込んだ生体機械と物理コンピューターを連動させたものが主流である。

 つまり装置を壊すということは、脳内の生体機械まで壊されるということであり、良くてもインターネットへの接続能力の喪失、悪くしたら生体機械が燃えて脳が煮えて死亡だ。

 この程度の状況で、シーリはそれだけのリスクを冒す気にはならないわけだ。

 

「ともあれだ、大橋の状況はどんな感じなんだ?」

『大企業や政府が残していた戦力を、橋の前に展開中。A級超能力者まで出しているようだから、鎮圧は出来ると思うけど?』

「つまり俺は、今までと同じで警報が出ているところに向かっていればいいのか?」

『政府から話が来ていないなら、そうしたら――』


 シーリの声が不自然なところで途切れた。


「おい、シーフキー。どうかしたのか?」

『――ああ、ごめん。ちょっと拙い事態かもしれない情報が来たもんだから』

「大橋の状況が変わったのか?」

『いや、そっちじゃなくて、川辺の防衛装置。その内の一つの信号が途絶えたんだよ。で、今は復活している』

「一時的に無力化されたってことか?」

『今状況を確認中。付近を飛んでいた偵察ドローンをハッキングして、信号が一時的に途絶えたところに向かわせているんだ。それで見えてきたけど、ああ、これは拙い』

「どうした?」

『防衛装置、円柱型のも人型のも破壊されてる。それで信号だけは、異常なしを発してる』

「ということは、誰かが底を突破して囲いの中に入ったってことか?」

『機械の破壊具合からすると、大型の兵器と超能力者が共闘しているみたい』


 シーリから送られてきた映像には、破壊された円柱機械と人型ロボットがあり、大口径の弾痕の他に、熱し溶かされたり、捻じり壊された痕が見える。

 これほどの弾痕を穿てる武器を持ち運べる兵器となると、出力に優れた大型のものが必須。溶かしたり捻じり壊されたりしている方は、専門の機械を持ち込んだのではない限り、超能力者の仕業である可能性が高い。


「そこを突破した者たちの姿、近くにないか?」

『ちょっと探して――あっ、やられた!?』

「どうした? シーフキーのところに襲撃がきたか?」

『違うよ。私がいるところじゃなくて、ハックしていたドローンが撃ち落とされたんだよ。それだけじゃなくて、侵入者がいるであろう近くにある監視カメラは稼働不能になっているし、他のドローンも墜落させられてる。しかもその損害が問題事項だと、政府や大企業の作戦ルームに伝わってない』

「どうやら、その侵入者が、この騒ぎの首謀者のようだな」


 シバが考えるに、この侵入者たちが企業が支配する中州の街に入るために、国の各地から不満分子を集めて大橋に突っ込ませたのだろう。政府と企業の目を、大橋の防衛で釘付けにするために。


「その監視カメラが不能になっている場所から、侵入者の進行方向が分からないか?」

『ちょっと待って。ここがこう延長して、そこら辺にある重要施設となると――分かった。連中の狙いは、十中八九で、超能力開発機構の本部建物!』

「はぁ? よりにもよって、あんな場所を狙うんだ?」


 超能力開発機構は、文字通りに人間を超能力者に加工する場所だ。

 しかし超能力開発は発展途上の技術である。当の機構でさえ、狙った能力を発現させることすら難しい状態だ。

 そんな不確かな技術を手に入れようとするよりも、大企業の本社ビルを襲ってデータを引っこ抜く方が、よっぽど利益になる。


「いや、そもそも、その侵入者の仲間に超能力者がいる可能性が高いんだろ。なら超能力者の仲間を増やす必要はないだろ?」

『でも、当たりを引けたら大きいのも、超能力開発だよ。私やコンプのような低能力でも活躍できるし、A級を引き当てられたら万の兵器を越える価値があるし』


 シバがシーリの言葉を受けて思い出したのは、シェットテリア・ボーダーA級念動力者だ。

 シェットテリアのような、工場一つを念動力で捻りつぶせる人間が作れたら、反体制派の戦力として申し分ないだろう。


「超能力開発機構に警告を送ったか?」

『送りはしたけど、あそこって研究機関だから、外部との通信は限定的なんだよ。よそからの通信のチェックは、時間ごとに決めていたし』


 人間に超能力を発現させる研究のため、人体実験は必須な研究機関だ。人道的な見地から問題になりかねないため、情報の統制は厳しく行われている。それこそ外部との通信は、特定の場所からしか行えないようになっているほど。

 しかし今回は、その厳しさが裏目に出て、シーリが送った警告が未読で放置されている状態になっている。


「政府に報告は上げたか?」

『いま返事が来たけど、未確認情報に割ける手はないって。でもコンプが防衛に行く分ならって、許可は取れたよ』

「俺が行くのか?」

『各地の警報状況は落ち着いたから、コンプ一人抜けるぐらいの余裕はあるんだよね』


 シーリから上手く仕事を押し付けられた気がするが、シバは自分が行くしかないと意識を入れ替えると念動力による飛翔を再会させた。


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― 新着の感想 ―
[一言] しっかり計画された大規模な襲撃だったわけですか 向こうも超能力者みたいですが何が原因でこんな事をしでかしたのやら
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