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マルヘッド高等専門学校での、不可思議な誤警報。
それは皮切りでしかなかった。
シバの上司は、高専校の事務員にマルウェアを消してシステム健全化を果たしたことを告げると、再びシバだけに連絡を繋げ直した。
『コンバット・プルーフ。マルヘッド高等専門学校に問題がなかったことは幸いだが、次に警報が鳴っている場所へと急行してほしい』
「ここ以外にも、警報が出ているってのか?」
『その通り――いや、加速度的に増えている。まずい、この国全域に広がっている』
「全域って、どの程度だ?」
『この街を中心に、波紋が広がるようにして、国の端へと向かうようにだ』
シバは眉を寄せて、シーリに質問する。
「おい、シーリ――いや、シーフキー。誤報がどうか分かるか?」
『ちょい待って。警報の数が多いから、手早く調べられるところだけ見てみるから』
少し時間を起いてから、シーリが報告する。
『大半が誤報だよ。学校に仕掛けられていたマルウェアと同じか似たものが仕掛けられていて、それが悪さをしているみたい』
「大半ってことは、実際の警報もあるのか?」
『警備ロボットの暴走だったり、製造設備が過剰運転で危険水準に達したとか、そういう感じのが本当にあるみたい』
「設備の暴走って、発電設備までそんな調子じゃないよな?」
『火力発電所のボイラーや原子力発電の炉心が暴走していないかって心配ってことね。ちょっと調べてみるけど――うん、誤報は出ているけど、そっちは暴走させたりはしてないみたい』
シーリの報告を聞いて、シバは上司に質問することにした。
「これらの警報に全て対応しようとすると、どんが風に手駒を使うんだ?」
『シミュレーションで良いのなら、こうなるはずだ』
仮想シミュレーター上の地図で、政府と大企業に所属する超能力者や非常対策チームが重要施設を中心に派遣されていく。
確実に利益を生む工場は、囲いと呼ばれているこの中洲に集中しているが、研究途上や中州に収められないほどの大型の工場は国の各地に分散している。
それらに急行するには、中州にあるほぼ全ての高速移動手段が使用されるという試算結果だ。
「なるほど、だから自身の念動力で空を飛んでいける俺に、白羽の矢が立ったわけか」
『事実確認のためにも、頼まれてくれるかね?』
それが任務とあれば、シバは受ける気でいる。
しかし懸念がある。
「こんな戦力を大規模に誘引するような騒動、誰かが囲いに何かを仕掛ける前段階なんじゃないか?」
少し考えを働かせば誰でも考え付くような疑問を口にすると、上司が言葉を濁す。
『その可能性は大いにある。しかしその点については、大企業連合側が受け持ってくれるのだから、心配はいらない』
「大企業が戦力を手元に残す代わりに、政府の犬が方々に散って状況の把握と沈静化を図れってことか」
シバは肩をすくませると、任務を請け負った。
シーリも上司に言われて、国全体に渡る電子的な監視業務を言い渡された。
こうしてシバは政府の建物へと急行して政府の犬用の装備を受け取ると指定座法へと飛び出し、シーリは仕事量に文句を言いながら自室で監視業務に従事することになった。
多目的軍用ゴーグルと特殊スーツに身を包んだシバは、上司に伝えられた複数の座標に、一つずつ向かうことにした。
シバの念動力は、自身から二メートル圏内にあるものを動かす。
そのためシバは、自分の身体を二メートル分加速させることで、空中を飛ぶことを可能としている。
飛行移動している間に、シーリが誤報と確認して警報を解除した場所が、移動先候補から外れていく。
「シーリが候補地を消してくれるのなら、しばらく時間を置いてみた方がいいか?」
シバは近場にいくのではなく、国の国境近くにある施設を第一目的地にして、飛んでいく。
戦闘機並みに加速し、一時間も経たずに目的地に到着。
この場所は、隣国への抑止力として作られた軍事基地であり、企業の新兵器開発実験場でもある。
様々な兵器がある基地であり、その色々とある兵器の中にある自立判断可能な兵器たちが基地内で大暴れしていた。
「うっわっ。大戦争だな……」
自立兵器たちが銃弾や爆発物をばら撒くのを、人間が乗って使うタイプの兵器が止めようと奮闘している。
シバは上空でその光景を見ながら、ゴーグルで映像を録画してから、政府に映像と共にコメントを送りつける。
「大規模演習ってことにして、隣国に伝えた方が良いんじゃないか――っと」
シバは送信し終えると、基地に向かって下降する。その際には、味方に撃たれたりしないために、自身の所属を示す情報を基地内にばら撒いておく。
すると基地内にあった対空砲の幾つかが、シバを照準した後に規定位置へと戻っていく。
「電子制御兵器の多くを、人間の最終判断を必要とする設定に書き換えたみたいだな。完全自立の兵器は、稼働した後だと根底のプログラムの書き換えは出来ない仕様だったっけか」
戦場で敵のハッキングを受けて味方の兵器が寝返らないようにという用心だが、暴走を止めようとしている今は厄介な仕様と言える。
シバは基地に下降しながら、自立兵器の一つ――四角い箱に鉄骨フレームのみの足を付けたような歩行兵器に狙いをつける。
この歩行兵器は、対戦車を意識した兵器で、戦車の装甲が薄い上面に砲撃を当てるコンセプトで設計されている。そのため足は極力細くして被断面積を減らし、正面走行のみを厚くした箱状の本体、その下部から伸びた大砲で砲弾を打ち出す設計になっている。
そうした歩行兵器のため、弱点は明確だった。
「足の構造を破壊すれば、簡単に倒れる」
シバは歩行兵器の上面に着地すると、念動力を発動。脚部の根本にある機構を分解する。
バキンと致命的な金属の破断音がして、歩行兵器が傾いで地面に倒れていく。
高打点からの射撃を封じれば、基地の戦車隊が恐れる必要もなくなる。障害物の裏に隠れていた戦車たちが現れ、倒れた歩行兵器に砲弾を叩き込んで、爆発炎上させる。
その後もシバは、完全自立式の武装ヘリ、蜘蛛型の自立対人兵器、身体の制御を乗っ取られた重機械化兵士、制御を失ったセントリーガンなど、それらの機械の部品を念動力でバラバラにすることで無力化していった。
シバという頼もしい味方の登場もあり、基地内の将兵たちも奮闘し、建物の損壊や自立兵器の損耗という損害はあったものの、人的被害は少なく済ませることができた。
「ここでの仕事は完了だ。次はどこだ?」
シバは移動先の候補を確認すると、最初の半分ほどが候補から消えていた。どうやらシーリが誤報が出ていた場所を短い間に対処してくれたようだ。
シバは当初の予定通り、国の外縁部にある基地や工場を目的地に定め、念動力で自身を飛ばす移動を再会した。




