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12 

 火は、シバとシーリを襲った後、一秒も経たずに消失した。

 火の出現が一瞬だけだったからか、それとも火の温度が低かったからか、ホテルの部屋の備品は燃えるどころか焦げもしていなかった。

 そしてそれは、火に巻かれたはずの、シバとシーリにとってもおなじこと。火が消えた後、部屋の出入口に、二人とも無事な姿で立っていた。


「いきなり攻撃とは、随分な挨拶なことだな」


 シバが声をかける先は、ホテルの部屋の中にいる炎創力パイロキネシスの超能力者。

 真っ赤なイブニングドレスを着た女性で、谷間が腑かい豊満な胸部を持っている。その目を引く場所よりも特徴的なのは、彼女の後頭部から目じりのところまでを覆う金属部品――各部位にあるダイオードが発光して稼働中だと示している機械だ。

 その姿を見て、シバは軽い舌打ちを一つした。


「チッ。超能力のブースターユニット持ちか。ユニット込みでB級なのか、ユニットを使えばA級なのかが問題だな」


 シバは抱えていたシーリを下ろしつつ、そのシーリの体の陰に隠しながら、自身の腰にある拳銃を抜いた。そして間髪入れずに、標的の超能力者に弾丸を放った。

 しかしその行動は見えていたらしい。


「舐めないで!」


 虚空から炎が発生し、拳銃弾を飲み込む。炎の熱で瞬間的に溶かされた弾頭は、形が崩れたことで起きた空気抵抗の増大で、あらぬ方向へと飛んでいった。

 防御されたのを見て、シバは拳銃を下ろす。


「炎なら、拳銃弾でも突破できると踏んだんだが、甘かったか」

「炎に見えても、実のところは不可思議な超能力だからね。現実の物理とは別の力が働いているのかもしれない」

「シーフキー、ハッキングできるか?」


 ハックする対象は、超能力者のブースターユニット。

 しかしシーリは首を横に振る。


「あれはネットに無接続のタイプみたい」

「まあ、あれだけの『大型』だからな。演算装置自体を組み込んでいるか」


 今の時代、ほんの米粒程度の機械を頭に入れるだけでネットに接続できるようほど、機械技術が進んでいる。それこそ機械の肉体のように人間の形を模す必要がなければ、小型な機械が溢れている。

 その技術の高さを考えれば、標的の超能力者の頭にある機械は、大型の部類と言えるだろう。

 シバとシーリが小声で会話している間に、相手から攻撃がきた。


「燃えなさい!」


 右手を大きく振り、巨大な炎を発生させて、シバとシーリに叩きつけてきた。

 しかしその炎は、シバの周囲二メートルを避けるようにして、部屋の中から廊下へと駆け抜けていった。

 それを見て、今度は相手側が歯噛みする。


「どうやって防いでいるかわからないけど、こんな弱火じゃ倒せないのはたしかね」


 言葉を喋りながら下がり、ホテルの大きなガラス窓へ。嵌め殺しで開かない窓だが、その表面に手を付ける。

 するとガラス全体が赤熱し、そしてドロリと形を失って崩れた。

 ガラスという板がなくなったことで、外気が一気に部屋の中に入ってくる。


「これで、この部屋を炎で埋め尽くしても、酸欠死することはなくなったわ」


 手加減していたのだと伺わせる言葉の後で、再び炎で攻撃してくる。

 今度の炎は、先ほどまでの赤いものから、よりオレンジ色から白色に近いものに変わっていた。

 本当に超能力の炎の温度を高くしたのだろう、当たった瞬間にホテルの備品が燃え上がる。

 部屋の中を炎上させながら突き進んだ熱波は、しかし再びシバの二メートル圏内に入る事が出来ずに通り過ぎてしまう。

 全くの無傷で終わったことに、炎創力者は後退りする。

 ここで部屋の炎上を感知し、スプリンクラーが作動する。

 天井から散布される水が、部屋の中を濡らしていく。

 しかしその水粒も、シバの二メートル圏内から逸れて、床へと落ちていっている。

 その光景を見て、炎創力者は口惜しげに言葉を口にする。


「超能力による防御壁ってわけね。それで炎を弾いているわけ」

「防御壁というよりも、防御圏だけどな。この範囲に入った全ての者に対し、俺は影響力を与えることができる」


 証拠を示すように、防御圏に沿って流れ落ちていた水が、唐突に途中で移動が止まる。そしてシバの眼前に集まり始める。

 水球となった水の塊は、そのままの状態で、炎創力者へ打ち出された。

 透明なゴム風船に入った水かのように飛んでくるそれを、空中に発生した炎が焼き尽くして水蒸気に変えた。


「そういうことなら、こうすればどう!」


 その防御圏で炎が防がれてしまうことは分かった。

 それならと、炎創力者は炎でシバとシーリを包み込んだ。

 これで熱で蒸し焼きにするか、さもなければ炎で酸素を奪って酸欠で昏倒させる、そのつもりのようだ。

 しかし、その目論見は外れることになる。

 なにせシバの念動力の弱点は、重量が百kg以下かつ自身の周囲二メートル圏内にしか能力を及ぼせないというだけ。それらの条件をクリアさえすれば、大抵どんなものでも動かしたり止めたりできる。

 だから熱の伝播を押し退けることも、圏内の空気を保持して炎に酸素を奪われないようにすることも、造作もない。

 そして自身の周囲二メートル圏内ということは、移動しても影響力を保持し続けることができるということ。

 シバはシーリを横に携えながら、炎を出し続ける炎創力者へ近づく。

 そしてシバと炎創力者の距離が二メートルを割り込む――つまり、炎創力者の肉体がシバの能力の干渉を受けることになる。


「標的のお前が、筋肉ムキムキか脂肪でブヨブヨじゃなくてよかった。『その体重なら動かせる』」


 シバが呟いた直後、炎創力者は自身が開けた窓の穴から外へと吹っ飛んでいた。


「んな!?」


 抵抗する間もなくビルの外へと肉体を運ばれてしまったことに、炎創力者は自身の顔色を青白くさせた。


「落ちてたまるものか!」


 炎創力者は背中から炎を吹き出し、その噴射力で空中に留まろうとする。

 どうにか空中に浮かぼうとしたところで、腹部に衝撃。攻撃してきた相手を見れば、シバの姿。ホテルの部屋から飛び出し、飛び蹴りを放ってきたのだ。


「シーフキー! ホテルのシステム復旧は頼んだ!」


 そうシバがホテルの部屋の中へと声を放った直後、シバと炎創力者の身体が地面へ向けて急降下する。

 地球が持つ自由落下よりも速い加速度で、二人の身体はホテルの高層階から落ちていく。


「わああああああああ! やめ、止めなさい!」


 炎創力者が持てる力の全てを使って、背中から炎を噴射して落下から抗おうとする。しかし全く止まる気配がないまま、地面へと向かって突き進んでいく。


「いやあああああああああああ!」


 炎創力者は、抵抗むなしく地面に衝突して、死んだ。

 一方でシバはというと、地面までの距離二メートルに達した瞬間に、超能力の力で炎創力者を地面へと押しやりつつ、自分だけは空中に停止した。足下で炎創力者が落下ししたことを見届けてから、落下分の距離を跳ね返るような軌道で、出てきたホテルの部屋へと戻った。


「ただいま。それで、ホテルの状況は?」

「システムは復旧させた。そのせいで、この部屋に警備ロボットやら警備員やらが押し寄せようとしているね」

「じゃあ、長居は無用だな」


 シバが片手を伸ばすと、シーリがその腕の内に納まった。

 その後、二人はホテルの窓から外へと飛び出すと、少し遠くへ向けて飛び立った。

 ホテルの警備たちが部屋に突入したときには、炎で焦げてスプリンクラーで水浸しになった内装しか目にすることができなかったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 炎使いも普通にやるとかなりやばい能力と性能してたんだけどね 相手が悪すぎた、ランクは全体のパラメーターで総評してるからこういうランク詐欺みたいなのが出るんだろうなぁ
[一言] シバ、これだけできるのにC級なのか…… いつぞやのA級の念動力者は距離や重さの上限が数倍どころじゃ効かないレベルで上なんかなー
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