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 シバにとって、嫌だと感じる任務はいくつかある。

 先日の巨大人工生物のような、自身の能力を越える案件がやってくることもそう。

 そして今回、政府から回ってきた案件もそうだ。


「暴走する超能力者の駆除、ねえ」


 シバはウンザリという気分を隠さないまま、目元から普段使い用の電脳ゴーグルを外す。

 気乗りしない任務に、思わず気付かなかったことにしようかと考えた。

 この街に住む普通の人なら、電子メールに気づかないということはない。なにせ住民のほぼ全員の頭の中に電脳インプラントが入っていて、常時インターネットと接続しているからだ。

 しかしシバは、肉体に機械を入れるか入れないかで超能力に差が出るかの実験の、一切の機械を入れない実験体として選ばれている。その影響で、シバの頭の中には電脳インプラントが入っていない。

 だから電脳ゴーグルをつけていなかったと言い訳すれば、政府から送られてくる電子メールに気付かなかったということにできるわけだ。

 シバは任務拒否の誘惑を感じ、思わず誘惑に従おうとする。

 だが悩み抜いた末に、誘惑を振り切って、任務を受けることにした。


「前に本当に気付いていなかった際に、政府職員が様子を見に来たからな。気付いていて、見ていないふりは出来ないしな」


 その前の時は、本当に高等専門学校の課題を行っていたため、小言を食らうだけで済んだ。

 しかし今回は任務内容を知ってしまっている。ここで無視すれば、政府のシバに対する印象が悪くなる。

 そして反抗的な犬がどんな扱いを受けるかは、いままさにシバの手元にきた任務を見ればわかるというものだった。



 シバは、同じ任務を受けたシーリと、企業が支配する中州の区域――通称で囲いと呼ばれる場所の中で合流した。


「情報集めは任せるぞ、シーフキー」

「任せなよ、コンプ。すぐに標的を見つけてあげるから」


 お互いをコードネームで呼び合う二人の格好は、黒色を主体とした首元から足下までを覆うボディースーツ。これは政府や大企業の特殊部隊の正式装備なため、こうして街中に立つ二人を住民が目にしても、そういう関係者なのだと思うだけで注目されるようなことはない。

 ボディースーツの他には、シバは顔に多目的軍用ゴーグルをつけて腰元のベルトに拳銃と予備弾倉、シーリは薄手のヘルメットを頭に被ってベルトに小型の電子機器が幾つか装備していた。

 シバの軍用ゴーグルは、囲いの中に展開されている拡張現実の映像を見るためのもの。だがシーリのヘルメットは、彼女の電創力エレクトロキネシスを補助する役割を持っている。

 いまも、シーリのヘルメットのバイザー部分が彼女の電創力を受けて軽く発光し、機械の補助が行われていることを示している。


「……これは、ちょっと厄介かな」


 シーリから漏れ出てきた言葉に、シバは顔を顰める。


「なにか拙い事態なのか?」

「確定ではないけど、十中八九ね。私たちの標的。この企業支配地域の中から出てないことは確実なんだけど、数々の監視カメラがある場所を逃げているはずなのに、全くと言って良いほど逃走経路の痕跡がないんだよね」

「標的の能力は炎創力パイロキネシスで、透明化ではない。監視カメラの目から逃れるには、他の力が必要だな」

「その力が、この標的の超能力を得ようとしている企業なのか、それとも標的と関係する超能力者が援助しているのか。どちらにせよ、居場所を掴んで、追い詰めて、仕留めて終わり、って仕事じゃなさそうだよ」


 そう説明されると、確かに厄介な案件だった。


「つーか、よくよく考えてみればだ。今までに受けた超能力者関係の任務は、どれもこれも厄介事だったな」

「そうなんだ? 私は能力的に直接戦闘は出来ないから、あまりこの手の任務が来ないんだよね」

「そうだろうな。今回の任務だって、標的が光明に身柄を隠していなかったら、シーフキーに俺の補助任務が来ることはなかっただろうしな」

「こっちとしたら、企業支配地域に入る口実が出来て万々歳だけどね。欲しい最新機材の先行販売があるんだよね」

「その機材が買えるほど、新しいソフトとやらは売れているのか?」

「もちろんだよ。なにせプログラムを書かせたら世界一の電創力者の製作品だよ。顧客のニーズさえ把握していれば、低価格と顧客満足度で他社と勝負可能なんだから」


 そんな雑談の間に、シーリは標的の影を掴むことに成功していた。


「見つけたよ。かなりの高級ホテルに入る姿があったよ。これがホテルの場所ね」

「ここか。よく見つけたな」

「監視カメラに直接映っていないって気付いてね。それならと物体の反射で映り込みがないかを探したら、ビンゴってわけ」

「ということは、監視カメラの映像を消した人物がいるってことだな?」

「人か人工知能かは分からないけど、色々な企業の監視カメラを欺いているから、標的の支援者は大物だろうね」


 シーリは立てた人差し指を振りながら説明していたが、急にその指が折りたたまれて、キュッと拳を握り込んだ。


「? どういうボディーランゲージだそれは?」

「追加任務をもぎ取ったんだよ。標的の支援者の解明っていうね」

「……つまり、標的のもとに、俺と一緒にいくと?」

「そういうこと。だから渡しを守ってよ、コンプ」

「俺の能力範囲からすると、一人の方が仕事が楽なんだが――はいはい、ちゃんと守ってやるから」


 シバはシーリの口元が不満そうに歪んだのを見て、前言を撤回。気分を害したお詫びにと、低カロリーアイスを奢ることにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 渡しを守ってよ→私を
[一言] 捕縛ではなく駆除ってとこだけがせめてもの良心ですかねえ?
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