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8/21

08 チートでした

 翌朝、早々に遠征から帰ってきた兵士の一人、祥林(しょうりん)様を紹介された。

 彩京様とは違ったタイプのイケメンね。

 インテリ風で少し妖艶な雰囲気の彩京様とは違って、体育会系の爽やかイケメンだった。


「花音様、私にお任せ下さい!」と元気に挨拶された。

 良かった。怖そうな人じゃなくて……



「若様ーー、花音さまぁーーーー大変でございますぅーー」

 廊下を叫びながらドタドタと走る小姓の姿が。


「何事だ!」

 隣の部屋から若様の怒鳴り声が響いた。


 怖い……


「申し上げます! 畑の野菜が! 野菜が収穫できます!」


「は? 何を言っている! わかるように申せ!」


「申し訳ございません」


「畑に植えてある野菜が既に収穫できる状態に育っておりまする!」


「は? 何をたわけたことを! 植えてまだ数日しか経っておらぬではないか!」


「まことに。しかし、既に……」




 え? 今なんて言った?  

 植えたのって確か二日前? 三日だっけ?

 どっちにしても早すぎない?

 

 異世界ってそんなに早く育つの??

 なら食糧難なんか起きなくない?


「花音! ついてこい!」


 若様が、私の部屋の戸を開けて大きな声で言った。


「はい!」


 大股で急ぐ若様の後を、走ってついて行く。




 !



「これは……」


「何かの間違えか?」


 …………


 暫くの沈黙が…………



 昨日までは普通だったよねえ? 


 何これ?



 そこには、たわわに実るトマトやきゅうりに、かぼちゃや、ナスに豆など、城内に作った畑を所狭しと、大きく立派な野菜が朝日を浴びて光っていた。


 えええええ?


 ありえなくない?


「花音……」

「お前……」

「何をした?」

 鋭く、低く地を這うような声で聞かれた。



「いえ。私は何も……」


「何もって! お前しか考えれんだろ!」

「これはなんだ?」


 なんだと言われても……



「若様! 大変でございます! 岩塩が! 塩が!」



「今度はなんだ!!」

「急ぎ、塩工場においでください!」

「はあ?」

「説明するより、若様の目で見てもらったほうが!」


「もうよい! 直ぐ参る」

「馬を!」

「花音、来い!」


 キャッ


 いきなり若様に抱き抱えられ、馬に乗せられたと思った途端、馬が駆け出した。


 ちょ、待ってってばあーー


 直ぐに「塩工場」に着いた。

 また、強引に抱き抱えられ転がるように降ろされる。


「若様! こちらへ!」


 急ぎ中へと向かう若様の後を追いかけた。



「なんだこれ?」


「は?」


「ええええ?」


 ちょっと待って……


 岩塩って、砕いたの水に溶かして、その結晶を天日干しするんじゃなかったっけ?

 昨日、水に溶かしてて液体だったよね?

 ありえなくない?


 目の前には、サラサラの「塩」が大量に鎮座していた。



 ハハハ おかしいわ。

 異世界。


「ありえねーー」

 思わず口から出た。



「ありえないのはお前だ!」

「あほか!」


「え?」


「お前何した?」


「え?」


()()()()()()私何もしてないってばぁ」


 役人のような人が若様に近づき、耳元で話をしている。


 え? 私、危険人物扱い? 嘘よねえ?


「とりあえず、このことは内密に!」

「は!」

「おって指示する」

「は!」

「若様、こちらはどうしましょうか?」

 大量の「塩」を指差し、遠慮がちに聞く役人さんは震えている様子だ。


「袋に詰めとりあえず、保管しておけ!」

「直ぐに、城の蔵に入れるよう手配する」

「承知しました」



「花音! 帰るぞ!」

「え? いいんですか? もう?」


「一旦城に戻り、緊急会議だ!」


 若様の顔が怖いんですけど、もしかして怒ってる?


 私何もしてないよ?




────若様の部屋では、誰も発言しないままの状態が続いていた……


「とりあえず、良かったんじゃない?」

「これで、食糧問題も解決? しそうだし」

「お金だって、ねぇ? 塩売れば直ぐに?」



()()()()()()

「とりあえず?」

「あほか!」


 怖いよ……

 そんなに怒鳴らなくても……


「これが、とりあえず、で済ませれるわけないだろ!」

「あほか! お前!」


 あほ、あほ言わなくたっていいじゃんか……


「まぁ、まぁ、若様、抑えて……」

 彩京さん、ナイスフォロー! マジ感謝!


「して、どうされますか?」

 祥林さんが、真面目な顔で言う。


「まあ、できちゃった物は仕方ねぇよなぁ」

 少し呆れた表情で永建さんが言った。


「問題は、これをどうやって、出すかだ」


「塩の方はまぁ、前から開発していたことにすれば、問題ないだろう。一気に出すんじゃなく、少しずつ捌いていけば」


「問題は、()()()だ」


「ハァ……」

 頭を抱える、武人達を前に


「ねぇ? ならさぁ、とりあえず、城で育てた苗をさぁ、極秘に計画してたことにしない?」


「はぁ?」

「そんなんで誤魔化せるわけないだろ!」

「お前バカか?」


「ですよねぇ……」


 暫くの沈黙がまた続いた。



「若様、不本意ではございますが、背に腹はかえれません。我が領の財政事情と、食糧の蓄えを考えましても、ここは花音様の意見を取り入れるしかないかと……」



「ハァ……」


 みんなが私の顔を見る。


 えええーそんな困った顔しなくたっていいじゃんか!


「頑張ったのに……」

 思わず心の声が出ていた。


「花音が関わっていることは、絶対に秘密だ!」

「ここにいる俺達以外には極秘だ」

「もし漏れたら命はないと思え!」


「彩京 お前が身代わりになれ!」


「へ?」

 普段、冷静で優雅な彩京さんが、口を大きく開けて固まっている。


()()()新種の苗を()()()()()()()、開発したことにする!」


「わたくしを身代わりに祭り立てると言うことですね?」


「ああ、お前が背に腹はかえれん。と先程申したからな」


「自分の発言には責任を持つように、宰相殿!」


「承知しました」

 にっこりと笑ういつもの彩京さんの顔だった。


「彩京、自分の身は自分で守れよ? お前に護衛をつけるほど、うちには余裕はないぞ?」


「若様? ()()()()()()()()()()()()()が、おりますのでしょうか?」


「ハッハッハッ」


「え? 大丈夫なんですか?」


「心配ない。彩京に簡単に近づける者など……」


「若様? 流石に私とて、遠くから千の矢で射られたら? わかりませんよ?」


「ハハッ、お前が千の矢で射られるようなことがあれば、ここにおる者全員とっくに死んでおるわ」


「ちげぇねえな」

「カッ、カッ、カッ」

 豪快に笑う永建さん。


 私は、思わず祥林さんを見た。


 祥林さんは、にっこり微笑んで、頷いた。


 えええ? 彩京さんってそんな凄い人だったの?

 でも、ほとんど城の中にいらっしゃるわよねえ?


 私が不思議に思っていたのが伝わったのか? 


「彩京様は、我が国一の武人でございます。そして、彩京様は「闘気」を扱う名手。従って、常に若様のお近くにおられるのですよ」

 祥林さんが教えてくれた。


「私は、()()()()()()のようなものです」

 優雅に彩京さんが微笑んだ。















「最後までお読みいただき、ありがとうございます」

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