06 畑を作りましょう
翌朝、私は朝ごはんを作り、若様の部屋に向かった。
今日は、野菜のお浸しと、卵焼きと、昨日夜、塩に漬けておいた、鶏肉を焼いた。
塩が貴重と言っても漬物用にしておけば、何度か利用できる。その上調味料としても使えるし。
再利用できて便利だ。
今日もちゃんと四人分作った。
「朝ごはんをお持ちしましたー」
小姓の小太郎くんと一緒に部屋に入ると、
すでに、彩京さんと永建さんと、若様が座っていた。
あら? 今日はお行儀がいいわね。
「うふふ」
「娘、何がおかしい!」
永建さんが私を睨む。
「やめろ」
低い声で若様が言う。
「申し訳ございません」
配膳を小太郎くんに手伝ってもらい、私もドカっと座る。
「貴様!」
「永建、次に俺に許しなく発言したら切る」
部屋中に殺気が走った。
「申し訳ございません」
「今日は何のおかずだ?」
「卵焼きと、鳥肉の焼き物と、野菜のお浸しです」
「ほう。うまそうだ」
「いただきます!」
私は手を合わせ、食べ始めた。
若様の空になった茶碗を受け取り、ごはんのおかわりをよそう。
「何か不自由はないか?」
「いえ、みなさんによくしていただいて」
「そうか。それならばよい」
「不自由と言うか、お願いがあります!」
私は真っ直ぐ彼の目を見て言った。
「ほう。なんだ? 言ってみろ」
「畑を作りませんか?」
「は?」
「いえ、だから、畑をつくりましょう!」
「どこに?」
「ここに?」
「は?」
馬鹿な子を見るような憐れむような目で見られた。
「小太郎さんから、戦乱が続き、凶作だと聞きました」
「お城の中だけでなく、領内も食糧が減っていると」
「田畑は農民が作っていても、戦でダメになっていると」
「ならば、ここで作りませんか?」
「ここなら、戦の被害に遭ってないですし」
「はあ?」
「だって、作物が収穫出来てなくて足りないんでしょ?」
「背に腹は変えられないでしょう?」
「戦を行うにしても食べる物が足りなくては兵士も戦えないでしょう?」
「兵士の皆さんにも手伝ってもらって、城の中で野菜や穀類を作りましょうよ!」
「せっかく沢山の男手が揃っているのに、勿体無いじゃないですか!」
「畑を耕せば、足腰も強くなるし、兵士の皆さんの訓練にもなりませんか?」
「貴様! 黙って聞いていれば、何と言う無礼な! 武人に剣ではなく鍬を持てと言うか?」
「永建! お前に発言の許可を出した覚えはないぞ!」
「下がれ!」
「若様!」
「さ・が・れ」
一瞬のうちに部屋の温度が上昇し、彼の髪が燃えるように緋色に染まって背中に飛翔が見えた。
「ひぃーーーー」転がるように永建が部屋を出た。
「ふーん」
「彩京」
「はっ」
「直ぐに手配しろ!」
「かしこまりました」
続き、彩京様が退出した。
こんなことで見栄を張っている場合ではないな。
俺の目指す先はこんなところではない……
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない」
「して、娘よ、畑の件は、あいわかった」
「他に欲しい物はないか?」
「海は近くにございますか?」
「いや、この近くには川しかない」
「そうですか……」
「では、岩塩がとれる山は?」
「岩塩か……」
「向こうの山でとれると聞いたが……」
「それは採掘するのは困難ですか?」
「簡単ではないだろうが、無理ではない」
「では、若様、塩を作りましょう!」
「はぁあ?」
「岩塩は採掘可能なんですよね?」
「ああ、なんとかな」
「では、その岩塩を集めて、塩を生産しましょう」
「それをこの領の特産にして売りましょう!」
「おい! お前それ本気で言ってるのか?」
「だって、お金が無いんでしょ?」
「塩って貴重って聞きましたよ?」
「岩塩とれるんですよねえ?」
「なら、塩作ればいいじゃないですか?」
「作ればいいじゃないですかってお前……」
「え? 岩塩とれるって言ったじゃない」
「うーん。紙とかないよねえ……」
「一応あるぞ」
「ちょっとお借りしても?」
図を書いて説明した。
岩塩さえ手に入れば、一旦水に砕いて溶かし、煮沸して塩水にし、結晶を天日干しする。
初歩的な方法だが、これなら、素人でもできるだろう。
「これなら、城の中でも、領民の皆さんでもできますよね?」
「何処か、日当たりの良い場所を確保して、領民の皆さんにも手伝ってもらって行えば」
「そうだ! 塩工場作りましょうよ!」
「彩京! 彩京を呼べ!」
「戦をするにしても、お金と食糧がないと、始まらないでしょう?」
「とりあえず一旦、戦は置いておいて、お金貯めましょうよ」
私は二人に言うと、二人は目を丸くした。
そして、若様が大笑いした。
「こいつはいい!」
「ハッハッハッ」
「永建を呼べ」
その後、永建さんも含め四人で「塩作り工場建設案」を話合った。
私は昼食の準備の為、一旦部屋を出た。
「して、どうだ? あの娘は?」
「とんでもない才女でございますね」
「我が領の宝になりうるでしょう」
「永建は?」
「思うまま申して見よ」
「生意気な態度には腹が立ちますが、確かに才はお持ちのようで……」
「が、しかし、武人に鍬を持てなどと……」
「永建、今は戦乱の世だ。見栄で命は守れん」
「我々が目指しているものは何だ?」
「目の前の見栄など捨ててしまえ!」
「あの娘の言う通り、今の我が領は金がない」
「金が無ければ、まともに兵を率いることさえ難しい」
「全ては、大願成就のため」
「申し訳ございません、私が不甲斐ないばかりに、若様には苦労ばかりおかけして」
「大殿様がお亡くなりになってからというもの……」
「若様にはご無理ばかりを……」
「もう、それは申すな!」
「我々が目指すのは、その先だ!」
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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